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”楽しさ”を追求した演出と孤独であることの再認識。【ずっと真夜中でいいのに。『やきやきヤンキー2 〜スナネコ建設の磨き仕上げ〜』現地レビュー】

⚠押忍!!!!!

本稿は、世界でも類を見ない屈指のライブバンドである『ずっと真夜中でいいのに。』が2024年10月から約3カ月に渡って日本全国23カ所35公演を回ったツアー『やきやきヤンキー2 〜スナネコ建設の磨き仕上げ〜』において、福岡(1日目)、鳥取、岡山、石川(1日目)、広島(1日目、2日目)の計6公演に行ってきた筆者によるぐだぐだなライブレポートというか感想というか怨念にも近い”””何か”””です。 


参加型のライブ演出

 まずはライブの演出面に触れましょう。

 今ツアーの編成はギター、キーボード、ベース、ドラム、パーカッション、オープンリール×2、トランペット、トロンボーンの演奏隊(バンドメンバー)とACAねさん(ボーカル、ギター、扇風琴など担当)の10名体制でした。長いツアーでしたのでメンバーは変わり代わりでしたがお馴染みの方々たち。相変わらずの豪華さです。

 舞台のセットは地上約70mに組まれた足場で、バンドは”巨大な扇風機のようなもの”を最終調整中の集団『スナネコ建設』という設定。夜勤ご苦労様です。
 クソデカ扇風機が舞台ド真ん中に鎮座し、タワークレーンが右側にそびえているのが印象的なセットでしたね。高所作業、ご安全に~。

金沢1日目より

しゃもじの新たな振り方「交通整備」「旗振り練習」

 ずとまよのライブといえば、定番になっているアイテムが「しゃもじ」ですね。振るなり叩くなり掲げるなり、基本的には好きにしていいよ~~というスタンスですが、ライブ中に舞台上の画面にガイドが映し出されて推奨の楽しみ方が提案されます。
 私の記憶ではこのガイドは個人的に初めて現地に参加した2022年の『GAME CENTER TOUR『テクノプア』』では、「振る」「叩く」の2種類、2023年『原始五年巡回公演「喫茶・愛のペガサス」』ではここに「回す」が追加されたという認識です。(違っていたら問答無用で叩いてください。しゃもじだけに。)
 『馴れ合いサーブ』では、道路で棒?旗?を振る交通整備のように8の字ないしバッテンを描くように提案されます。オープンリールのお二方がこの通り観客を煽ります。これが楽しかった、早くまたやりたい。

 中盤、『彷徨い酔い温度』ではいつものしゃもじ拍子ではなくACAねさんの「旗振り練習~」という煽りもあり、上記に近いVの字を描くような振り方でしたね。サビで早くなったり遅くなったりするのもミニゲーム感があって好き。良いと思います。

 僕はライブでみんな同じ動きをする(例:イントロは「オイ!オイ!」と言い、Aメロは頭上でクラップ、サビはぐっぱーぐっぱーをステージに放つ)ような型になっているノリ方をあまり好ましく思っていない人間ですが、ずとまよの単独ライブにおけるしゃもじ拍子や振りの提案は1つの楽しみ方としての道標であり、初参加の方やどうやって楽しめばいいのか不安な方への配慮だと思っています。
 そう思えているのはずとまよは常にこのしゃもじの使用を強制ではないと注釈している点と、「音に乗ることだけは忘れないように」「どんな踊り方でも良い」という言葉への厚い信頼です。

今ツアーのしゃもじは白黒

声出し、合唱の解禁

 ずっと真夜中でいいのに。は2018年から活動を始め、2021年には主要都市以外も含めた本格的な全国ツアーを始めましたが、当時はまだコロナが猛威を振るっていたこともあって“声出し”というものを基本的には禁止してやらないことを貫いていました。(ライブの雰囲気を乱すような声出し、呼びかけを牽制する意味合いもありましたが。)
 そのため、ずとまよのライブでは観客が歌うというシチュエーションはこれまでほとんど無かったはずです。今年5月のKアリーナで2日間行われた『本格中華喫茶・愛のペガサス ~羅武の香辛龍~』における『秒針を噛む』までは。それが今ツアーではそのライブが布石となったのか各所に観客への声出しを要求してきました。

 これは複数の曲に渡っており、『馴れ合いサーブ』での「愛!愛!」、『お勉強しといてよ』の「乾かないや」「焼き焼きだ」「ヤンキーヤンキーだ」と言った要所の掛け合いに始まり、『彷徨い酔い温度』の「ラララ~…」、『勘ぐれい』の「ぼんぼんぼらんぼんぼん」といった曲の最後の歌唱を煽るような形もありました。

 そして、『秒針を噛む』では間奏後の「このまま奪って隠して忘れたい」をみんなで合唱することになるわけですが、「変な声で(福岡①、鳥取)」、「猫みたいに(岡山)(石川①)」、「人間の言葉が喋れる猫(岡山)(石川①)」といったACAねさんによる遊び心のあるちょっと意地悪な煽りもありました。最後のやつは観客が困惑して声が小さくなるのが面白かった。若干公演によってこの煽りは違っていたので他の無茶ぶりもあったのでしょうか。気になります。

 個人的にはアンコール3曲目『正義』の「近ずいて遠のいて探り合ってみたんだ」「近づいて遠のいて笑いあってみたんだ」の長尺合唱はかなり感動しましたね。毎公演ここで感極まってます。

 こういった瞬間瞬間を切り取って単純な”楽しさ”を追求したのが今ツアーだと思っていて、やはりその中での”声出し”、”合唱の正式な解禁”という観客を参加させてのコミュニケーションというのは重要なテーマ、アイデアの1つだったんじゃないかなと思います。

変幻自在で爆速のセットリスト

飛ばしすぎでは?と思うくらいの序盤

 『ハイウェイオブエンジェルス』の異名を持つスナネコ建設。開幕の『JK BOMBER』から『こんなこと騒動』『ヒューマノイド』『はう”ぁ』『馴れ合いサーブ』『残機』と怒涛のソリッドかつアンプテンポなハイテンションナンバーが続いて文字通り息をつく間が無い。テンションがおかしくなって加減のわからないアラサー(私)は息が切れる。
 『馴れ合いサーブ』の最初にACAねさんが「馴れ合いだ~」と言うんですけど、これ3回目くらいでふと気づいたんですが某Xの「紅だ~」オマージュですかね?バンドメンバーのビジュアルもあって何となくそう思いました。さらにこの曲中にねじ込まれていた”アレ”はヤンキーテーマということで『ツッパリ・ハイスクール・ロックン・ロール』ということで良いですかね?あそこ気持ち良すぎて両拳上がる。

新たなライブアンセム『TAIDADA』

 次に触れたいのは最新EP『虚仮の一念海馬に託す』より、アニメ『ダンダダン』のEDとなっていることでも話題の『TAIDADA』。これがやっぱりと言っていいほどライブ映えする曲でした。
 本編終盤、代表曲『お勉強しといてよ』に続く形で「自分を鼓舞する曲を作りました。やってもいい?」というMCに始まり、アップテンポで何よりキャッチーで突き抜けているこの曲は明らかに会場のボルテージが何段階も上がったことを感じました。
 曲自体の強度ももちろんそうなんですけどこれはアニメのED映像およびそれをずとまよ公式がMADとしたMVの効果が相乗的にあったと思います。
 アニメキャラ、MVキャラたちが映像の中で音楽に合わせて動くその振り(特にBメロとサビ)をライブで観客が真似をするという形でどの公演もこの曲の一体感は最新曲と思えないほどすごかったですね。まだツアー中ですが、すでに「ずとまよのライブアンセム」と言っていいくらいの曲になっていると私は思います。

終盤もさらに飛ばす。殺されるかと思った。

 『TAIDADA』に続くのは『あいつら全員同窓会』、この曲こそライブアンセムで、公演のラストナンバーになることも多いのでイントロの段階で「あれ?もう終わるのか?」と観客に錯覚させます。何なら私が初めて行った福岡①ではこれで最後の曲かも?と思ったもん。
 この曲では取り乱して最後の方はずっと跳ねている私は曲が終わるとかなり息が上がっているのですが、そこに飛んでくるのは「まだ行けんの?」の煽り、福岡①では膝に手を当てて下を向きながらゼーハー言っていたアラサー私は条件反射で「は?」と溢した。
 そして間髪入れず始まるのは『勘冴えて悔しいわ』。この繋ぎは本当にアツかったしその後の公演でもここは震えましたね。毎公演ここで足プルプルした。

お腹一杯になるアンコール

 アンコールは4曲『虚仮にしてくれ』『嘘じゃない』『正義』『勘ぐれい』という盛り具合だったというのも触れておきたいところです。サービスが良過ぎる。曲は多けりゃ多い方が良いに決まっているからありがたい。 

 前述していますが『正義』の合唱はこのライブにおけるハイライトです。あの瞬間は何事にも代えられないですね。走馬灯リストに入れておきます。

 「最後にスナネコ建設のEDテーマをして帰ります」という紹介からアンコールの最後に演奏されたのは意外というのは失礼ですが『勘ぐれい』。ハードコアでノイジーなアレンジはだいぶバグってました。ギター、説明難しいですがかなり歪ませて一音出してはビブラートで伸ばしながらフィードバックして音繋いでなかったですか?あれスピーカー正面からダイレクトで受けたい(切実)
 あまり長居はしてないのですが、公演前のグッズ販売の会場BGMで『KoЯn』や『Rage Against the Machine』といったオルタナメタル的なバンドの曲が流れていたのでそういう空気感を感じました。

ヤンキーを”演じる”ということ

「今を生きる、それだけ」一瞬の煌めきへの憧憬

 ACAねさんはスケバン、他のバンドメンバーは(ヤンキーというよりV系やないか!という突っ込みも入れたくなりますが)強面のツッパリの恰好をしており、ツアー名通りの”ヤンキー”を演じています。
 MCでもヤンキーの「今を生きる、それだけ」という生き方に賛同、感銘を受けていることを語っていました。ヤンキーという存在はACAねさんにとっての憧れということですが、ファッションやコンセプトとしてヤンキーコンテンツを取り入れながらそれを舞台上で演じる、表現することで自分とリンクさせる。面白いですね。

ヤンキーだからできた強気の煽り

 ちなみにこのヤンキーコンテンツを取り入れたことで今回のライブでは利点を1つ獲得していたように思います。それは「煽りがしやすい」という点です。
 前述しましたが今ツアーでは「声出し」をする箇所が多々ありました。これはもちろん観客が勝手にしたわけではなく、ACAねさんによる煽りに返す形で発生しています。私が記憶している煽りの一部が以下の通り。
・「歌え!」(『馴れ合いサーブ』)
・「聞こえないなぁ」(『秒針を噛む』のコールアンドレスポンス時)
・「まだやれんの?」(『勘が冴えて悔しいわ』演奏前)
 こういった強気口調の煽りというのはヤンキーを演じているという異なる人格があってできたことだと思います。

 公演を通してスナネコ建設の棟梁である「砂猫ACAね」と本来のACAねさんの人格・口調が混在していたのでそれを行き来する感じは意識して見ると愛おしさありますのでオススメ。ありがとよ。

孤独との向き合い方

孤独を認知する

 「孤独を感じなくなる方が怖い」とMCでも言っていましたが、ずっと真夜中でいいのに。において「孤独」とは重要なテーマのひとつであり初期から最新曲に至るまで常にと言っていいほど扱われている事柄です。
 孤独をテーマにというのは一見ネガティブな面を扱うように思えますけど、究極的に人間というのはそれぞれ単独で存在している、つまり孤独でありそれはある意味当たり前のことです。ずとまよ、ACAねさんはただそれをそうだと飄々と歌う。
 それは自立だったり、人に流されない芯があるカッコよさがありますが、時に僕にはそれが強がりや恐れを感じているようにも見える瞬間があります。それは僕の心情とも重なります。重ねているだけかもしれません。

 ”孤独でありたい”と思う一方、”孤独になることへの恐れ”もある。その狭間で考えた1つの結論が「孤独を感じなくなる方が怖い」であり、形になったものが『クズリ念』なのかもしれません。

ショボい所の見せ合い

 「良いところの見せ合いはどこかでバレる。疲れる。」というような事をこれもMCで言っていました。人間関係かSNSか、表現者としての立ち振る舞いか。見栄の張り合い的なことでしょうか。
 それに続けて、これは公演ごとに少し表現が変わっていましたが「ショボい所の見せ合いのほうがカッコいい、偉大だと思う。」といった発言。
 つまりは”自分の弱い面を曝け出そう”という風に僕は捉えましたが、同時にこの”弱い面”が示すのは”(ACAねさんが)歌詞中で吐露する自己”というような解釈もできるかなと。
 そして「そのほうがカッコいい」というのはある意味自己肯定であり自分に言い聞かせていることかもしれません。
 その後、「ただ、それは自分の中に揺るがないもの、芯のようなものを持っていないといけない」と続けます。これも自分への言い聞かせと捉えることができ、奮い立てているようにも見えました。私も奮い立ちました。

 どうしても人と比べてある時は背伸びをしたり自分を大きく見せようとしたり、それって結局見せかけの小手先でしかなくていつかボロが出る。自分の短所や良くない面を開き直って認めたり、開示することには勇気がいりますが大事なことなんだと思います。自己分析、磨き上げます。

ライブは一瞬だけの待ち合わせ場所

限りなくひとつに近くなり、そしてまた離れる

 ライブは喧騒です。それを求めて私たち一人一人は会場に向かって集まり、それを目撃し、何か感じてまたそこを後にします。その時だけは孤独であるはずの私たちは限りなく”ひとつ”に近くなります。ただ、近くなっているだけです。同じ空間で同じ方角を見て同じ曲を歌っている1000人もばらばらの集合体でしかないのです。

世界はひとつじゃない
ああもとよりばらばらのまま
ぼくらはひとつになれない
そのままどこかにいこう

星野源『ばらばら』の歌詞を一部抜粋

 でも、ACAねさんは集合場所を指し示して私たちを集め、その呼びかけに私たちは応え、あの重なり合いを求めて束の間のライブに向かうのです。

 岡山公演では自家用車で片道2時間の日帰り遠征隊(ソロ)をしました。
 帰り道、21時を過ぎた頃だったか、山を越える高速道路の帰り道は雪が降っていました。車が照らすライトの明かりだけが見える真っ暗な道の中、フロントガラスに勢いよく飛んでくる雪の軌跡が『秒針を噛む』の時にクソデカ扇風機の中央に映し出されていたあの映像と全く同じでなぜか涙が出てきました。
 「帰り道も、ご安全に~」。アンコール後、最後にマイクを通さずに発せられたその言葉を繰り返し口ずさんで雪道を抜けると、私の住む街の明かりが見えました。帰っても孤独です。なのになぜか安心して、また涙が出てきました。不思議ですね。

 またあの集合場所に、名前も所在も知らない人と肩を並べて、あの瞬間だけは同じ曲で同じしゃもじを振るんです。そしてまた孤独に帰りましょう。

ひと言感想集(随時追加あり)

・『ばかじゃないのに』の間奏からのギターカッティング気持ち良すぎて立ったまま寝れる。菰口さん好きぇ。

・今回の即興演奏は寸劇のおちゃらけ具合がリミッター超えてて毎公演曲中で笑い起きてた。選曲考えるとシュールさも相まって最高なんだよな。

・即興演奏は寸劇内容とアレンジの事前説明を聞いているバンドメンバーの困惑具合を見るのが1つの楽しみです。

・『海馬成長痛』でMVのダンスを試みるACAねさん。尊い。

・火花散らしながら何か金属を切るACAねさん。尊い。

・石川①の座席が1列目で死にました。まだ成仏できてないです。

・鳥取に愛に来てくれて本当にありがとうぅぅぅ。

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