「イレカワッテフェスタ」本編
場所はどこにでもある、マンションのリビング。
パパ、ママ、3歳の娘のリコが生活している。
●シーン1
パパがリコを抱っこしている。
リコは嬉しそうな顔を浮かべている。
リコ 「高い、高いして」
パパ 「おー、いいぞ。ほら」
パパが3回ほど、リコを頭上に掲げる。
リコ 「おー、おー、おー・・・下して、下して!」
パパ 「ぽーん」
リコ 「無理無理無理無理無理」
パパ 「えー。はい」
パパはリコを床に下す。
リコ 「なんで、放り投げるの?」
パパ 「リコが好きだから。よく笑うしさ」
リコ 「ほんと、意味わかんない!そもそもさ、止めてって 言っているのに、続けるのどうかと思うよ。そういうところ、パパのダメなところだからね。わかった?わかったら、返事!」
と、リコは早口でまくし立てる。
パパ 「うわー、こういうところ、ほんとママだ」
リコ 「だって、ママだもん」
●シーン2
一時間前に遡る。場所は同じリビング。
リコ 「まーまー、ねんねぇー」
ぬいぐるみを大事そうに抱えたリコがママの袖を引っ張る。
ママ 「うん、ねんねしよっか」
パパ 「もうすぐ4歳になるんだから、一人でねんねできる?」
リコ 「やーだー、ままとねんねするのー」
ママ 「パパにちゃんとおやすみしようね」
リコ 「ぱぱ、ありがとー、おーすみ」
パパ 「はい、おやすみー。ママも一緒に寝落ちしていいよ」
ママ 「できないよ。リコが寝ている間にしたいこと、いっぱい」
パパ 「ゲームだろ」
ママ 「それはパパだけ。洗濯に洗い物に、掃除とか」
パパ 「やっておこうか?」
リコ 「まーまー」
ママ 「ごめん、ごめん。先にベッドに行ってて」
リコ 「はーい」
ママ 「洗い物だけ、お願いしようかな」
パパ 「おっけー」
ママ 「ありがとう」
ママ、寝室に行きかけて、歩みを止める。
ママ 「あっ」
パパ 「なに?」
ママ 「思い出した。私のお菓子、また勝手に食べたでしょ!あそこに隠していたやつ!」
食器棚の一番上を指す。
パパ 「いや、知らないよ」
ママ 「嘘ばっか。リコの手が届かないところだから、絶対にパパでしょ」
パパ 「ほんとに」
ママ 「しかもさー、空き箱をそこらへんに転がしておくなんて。そーいうところ、ほんとにパパは雑!ちゃんと食べたら、捨てる。わかった?リコが真似したら、どうするの」
パパ 「俺じゃないし。そもそも、何かあるたびに真っ先に俺を疑うのはどうかと思うよ」
ママ 「だって、たいてい犯人はパパじゃん。電気の消し忘れ、エアコンの消し忘れ、ほかには」
パパ 「そうだけどさ、今回は本当に俺じゃないんだって」
ママ 「私でもリコでもないよ?」
リコ 「まーまー」
寝室から、リコの泣きそうな声が聞こえる。
ママ 「もぅ。時間かかりそう」
パパ 「そのまま、寝落ちしちゃえ!」
●シーン3
キッチンで洗い物を終えたパパ。スポンジや洗剤など乱雑に置かれている。水滴も拭かれている様子はない。
パパ 「てこずってるなー。それとも、寝落ちたかな。ま、いいか。ゲームでもしようと」
コンコンと、寝室のドアを叩く音がする。
リコ 「パパー、開けてー」
パパ 「あれ?リコちゃん。どうしたの?」
パパ、寝室のドアを開ける。
リコ 「おかしいの、このドア。取っ手がなくなってるの。パパ、何かした?パパでしょ、こういう悪戯するの。あ、こんなところにドアノブある。届くけどさ」
パパ 「え?リコちゃん?なになに、リコがすげースラスラ喋ってるんだけど」
リコ 「リコちゃんはあっちで賢く寝てるよ。ほら」
リコ、寝室を覗く。
リコ 「あれ?私が寝てる?ねぇ、パパ!私があそこに寝てるよ!どうなってるの?うわ、パパ、背がめっちゃ高くなってるし!」
パパ 「なになに、どーいうこと」
リコ 「なるほど、なるほど。あ、そこの手鏡取って」
パパ 「あ、はい」
リコ 「うわー、やっぱり。私、リコちゃんになってる」
パパ 「え、ちょっと全然理解できないんだけど。ママなの?」
リコ 「なんで理解できないかな。俗に言う、入れ替わりってやつね」
パパ 「順応はやくない?」
リコ 「だって、あれこれ考えても仕方ないじゃない」
パパ 「そうだけど」
リコ 「あーーー。リコが寝ている間にしたいこといっぱいだったのに、この体じゃできないじゃん」
パパ 「なんか手伝おうか?」
リコ 「私が戦力外すぎる。リコのお手々じゃ、何もできない」
リコ、お手々を広げて見せる。
パパ、そのお手々を取る。
パパ 「かわいいお手々だけどね」
リコ 「そうなんだけど。あ、こういうのはどう?」
リコ、ポーズを取る。
パパ 「おー!めっちゃかわいい!かわいいよ、リコ!」
リコ 「こんなのはどう?ねぇ、これは?ちょっとパパ、聞いている?」
パパ 「そうだ!寝ている間にしたいことはできないかもだけど、リコと入れ替わっている間にしかできないことをやってみようよ!」
リコ 「ほぉ。例えば?」
パパ 「寝相アート!」
リコ 「めっちゃいい!頭いい!」
パパ 「思い通り動いてくれなくて、ジレンマだもん」
リコ 「よーし!早速、準備だ!」
パパ 「おー!」
リコ 「その前に」
パパ 「その前に?」
リコ 「あれしよ、あれ。二人の思い出の映画のやつ」
パパ 「あれね」
リコ 「せーの!」
二人 「入れ替わってる!?」
●シーン4
リビングでは撮影大会が行われている。
リコは自ら衣装に着替えては、かわいいポーズを取る。
それを嬉しそうに、パパがスマートフォンで撮影している。
床には乱雑に置かれた衣装たち。
●シーン5
床に直接座っているパパとリコ。
スマートフォンを覗き込んでいる。
リコ 「かわいいわー、うちの娘、ちょー天使。ずっとやりたかったのよね、これ。中身は私だけど!」
パパ 「じっとしてくれないもんね」
リコ 「見て、見て!これとかさ、よくインスタで見るやつじゃん」
パパ 「本当だ。かわいすぎる」
リコ 「ずっとインスタとか見ててさ、なんでうちの子だけじっとしてくれないのかな。スタジオに行ってもうまく笑ってくれないのかなって、ずっと物寂しくてさ」
パパ 「写真一枚、苦労したもんね」
リコ 「きっと、他の子たちも入れ替わってたんだよ!きっと、そう!それなら、こんなにも楽ちん」
パパ 「それは無理があるんじゃない?」
リコ 「赤ちゃんって不思議なときってない?私たちに見えてないものが見えていたり」
パパ 「何もないところ指差ししたり、笑ったり」
リコ 「きっと、子どもたちだけの特殊能力ってのがあるよ。大人になるにつれて、徐々に無くなっていくみたいな」
パパ 「実際に目の前で入れ替わっちゃってるしな」
リコ 「リコちゃんがこんなにスラスラ喋ってたら、いやでしょ?」
パパ 「それは、やだ」
リコ 「きっと、そう。そのほうが楽しいよ」
パパ 「もしかして、ママが小さいときも」
リコ 「ねぇ、抱っこして?」
パパ 「あ、うん。ぎゅー」
リコ 「それ、やだ」
パパ、寂しそうな顔。
リコ 「抱っこー、なの」
パパ 「あぁ、はいはい」
リコ 「おー、浮いてる!」
リコ 「高い、高いして」
パパ 「おー、いいぞ。ほら」
パパが3回ほど、リコを掲げる。
リコ 「おー、おー、おー・・・下して、下して!」
パパ 「ぽーん」
パパ、リコを空に投げては、キャッチする。
リコ 「無理無理無理無理無理」
パパ 「えー。はい」
パパはリコを床に下す。
リコ 「なんで、放り投げるの?」
パパ 「リコが好きだから。よく笑うしさ」
リコ 「ほんと、意味わかんない!そもそもさ、パパは止めてって言われているのに、続けるのどうかと思うよ。そういうところ、パパのダメな部分だからね。わかった?わかったら、返事!」
と、リコは早口でまくし立てる。
パパ 「うわー、こういうところ、ほんとママだ」
リコ 「だって、ママだもん」
パパ 「元に戻れるかなー」
リコ 「戻ってほしいの?」
パパ 「このリコ、ときどきかわいくないもん」
リコ 「なによー!」
リコ、パパの足を叩く。
リコ 「くそー、顔に届かないー」
パパ 「残念でしたー」
リコ 「ま、いいか。首がもげそうなくらい、パパを見上げることってないじゃん」
パパ 「それは貴重」
パパ、ソファに座る。
リコは、頑張ってソファによじ登る。その姿もかわいい。
パパとリコが、ソファで横並びに座る。
束の間。
リコ 「ねぇ、パパ」
パパ 「なーに?」
リコ 「私、将来、パパと結婚するんだ!」
パパ 「え」
リコ 「なになに、やっぱりこれって嬉しいの?」
パパは何も言わず、うつむいて表情も読めない。
リコ 「ねー、どうしたの?」
パパ 「なんで、今言うんだよ!それな、パパにとっての最重要イベントだよ!SSRクラスの重要度!それを娘に言ってもらうために、子育って頑張ってる部分もある!3歳かな、4歳かな、いつ言ってくれるのかなって、楽しみにしてたのに!ママのバカ!!!」
リコ 「なによ、そこまで言わなくていいじゃん」
パパ 「それだけ楽しみにしてたんだよ、バーカ」
リコ 「うわ。パパ、きらい。ちがうな。パパ、きやい。パパ、きやい。パパ、きもい」
パパ 「それも」
リコ 「パパ、くさい。あっちいって。パパのと洗濯、一緒にしないで。パパのあとのお風呂、やだ」
パパ 「ちょ、やめて」
リコ 「リコね、ハルト君のすき」
パパ 「ハルトくん?」
リコ 「同じ保育園の子」
パパ 「まじで?」
リコ 「パパには内緒だよって」
パパ 「ついにきたかー」
リコ 「ショック?」
パパ 「ショックはショックだけどさ、ちゃんとひとを好きになれる優しい子になったんだなって、嬉しい気持ちもあるよ」
リコ 「そっか、そうだよね」
パパ 「ちゃんと、育ってるね、よかった」
リコ 「うん」
束の間。
●シーン6
パパのひざ枕で眠るリコ。
パパ 「疲れちゃったかな。この体だと体力も少ないのかな」
パパ、リコの頭を撫でる。
パパ 「あー!」
とっさに大きな声を出し、口をつむぐパパ。
パパ 「この入れ替わりって、今回だけかな。今後、リコが意味深なこと言い始めたら、疑っちゃいそう」
パパ、リコの顔を覗き込む。
パパ 「分かるよね。なんだって、パパなんだから」
寝室のドアから勢いよく、ママが出てくる。
ママ 「パパ!パパが大きな声出すから、元に戻っちゃった!」
パパ 「起きると、元に戻るのか」
ママ 「パターンだね」
リコ 「ぱぱぁ、ままぁ」
パパ 「おはよう」
リコ 「ままがいる」
ママ 「そりゃ、いるよ」
リコ 「あのね、リコ、ままになってたの」
パパ 「えー、そうなんだー」
ママ 「ママになって、何してたの?」
リコ 「ねんねしてた!」
パパ 「そっか」
リコ 「リコね、パパにもなったんだー」
パパ 「えぇ!?パパに」
リコ 「パパになって、おかし食べちゃった。ごめんなさい」
ママ 「もしかして、あそこの?」
ママ、食器棚を指さす。
リコ 「とってもあまかったー。また食べたいなぁ」
パパ 「リコだったのか。リコちゃんのせいで、パパが疑われちゃったじゃないかー」
ママ 「ごめんね。まさか、こんなことになるなんて」
パパ 「リコ、ぎゅー」
リコ 「ぎゅー」
パパ 「捕まえたー!ママ、お菓子を食べた犯人を確保しましたっ!」
パパとママ、二人笑い合う。
リコはパパの腕の中でじたばたしているが、楽しそう。
リコ 「パパ、きらーい」
パパ 「えー」
リコ 「ママになりたいー」
ママ 「なんで、ママになりたいの?」
リコ 「んーーー、だって、パパと結婚できるもん」
二人 「あ」
終わり。