推しの誕生日だから羊の頭を焼く
諸君、推しの誕生日だ。
推しの誕生日だから、羊の頭を焼こうと思う。
悪魔崇拝の人が来てしまった、推しはサタンかなベルゼブブかな?と思われただろうが、本日8月12日はご存じの通り週刊少年マガジンで連載中の漫画、ブルーロックに登場する男子高校生、御影玲王さんのご誕生なさった日である。
まだ覚えられていない方はパスワードを0812Mikageにするのがおすすめだ。私も会社のパソコンのロック解除をこれにしているので、悪用はしないでほしい。
本当に彼をご存じの無い方に説明すると、というか私が語りたいので説明すると御影玲王は総資産7058億円を誇る「御影コーポレーション」の御曹司で漫画の金持ちらしく高校にはリムジンで通い、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能の上にコミュ強と現実で出会ったら眩しさのあまりにこちらが秒でナメクジみたいな溶け方をするであろうことは想像に難くない、パーペキ人間だ。そしてそんな強く気高い男が、ストーリー内でニコイチだと思ってた相棒に、違う奴と組むから、とあっさり捨てられる。
▲捨ててきた人、後に和解
それだけ聞いてもあーなるほどね、となるやつはなるだろうし握手をしてほしいが問題はその後の反応だ。
勝ち気で生意気な彼だったが、相棒と同じチームになれないと知るや儚げな顔で好きにしろよ……と落ち込み、夜には相棒が戻ってくるか戻ってこないかで歯ブラシを花占いのごとく一本一本千切り始め、再度選ばれなかった時には両親が惨殺されて会社を乗っ取られた挙句に2兆円の借金でも背負わされたのか?みたいな顔でコートにへたり込んだ。
嘘だろ?急にどうした?話聞こか?と思うだろうし私も初見でそう思った。
そして何もかもを手に入れられるスペックの男が唐突に見せた人間臭さにコロッと参ってしまった。
それから一度も正気に戻れていない。
あと落ち込んだ後、自力で這い上がってくるところもめちゃくちゃ熱くて泥臭くってかっこいい。スタイリッシュ金持ちがプライドを投げ売って努力する姿は、一度でも挫折したことのある人間なら応援せざるを得ないほど健気で命そのものみたいに美しかった。そっちから好きになった人の方が絶対多いと思う。
プレイスタイルは何でもこなせる器用さを生かしたコピー能力タイプだ。負け能力とか言うな、絶対勝つから。
止まれそうにねえからもう全部紹介しちゃうと、私がこの男の一番好きなセリフはこちら。
文字面からわかる通りおもしれー男でもある。奥が深いんだ御影玲王は。
さて本日がそんなめでたい御曹司の誕生日だとわかったところで、羊の頭である。
別に御影玲王の好物は羊の頭ではない。というかどんなキャラクターでも好物が羊の頭だった時点で、でもこいつ羊の頭食べたがるのか……と思われてしまい話に集中できなくなるため、よほどサイコパスを印象付けたい場合以外はそんな設定にしないと思う。ファンブックに掲載されている御影玲王の好きな食べ物は石垣牛のイチボであり、牛の尻なのでむしろ逆だ。
だったらどうしてそんなものを、と思うだろうがこれは普通に私が食べてみたかったからだ。
この後の文章は全て、でもこいつ羊の頭食べたがるのか……と思いながら読んでほしい。
かわいいね。
ところで私は普段ろくに料理をしない。不注意な人間なのでトーストですら消し炭に変えるし雑炊を作ろうとしてなぜか机を焦がしたこともある。
羊の頭の調理法なんてわかるはずもない。よって現代人らしくスマホでググることにした。
結論から言うとレシピがまじで、全然ない。
リリンの生み出した文化の極みであるはずのクックパッドにも1件しかなかった。トルコ料理らしくトマトで羊の頭と足を煮るものだったが、どうせなら私は煮るんじゃなくって焼きたい。
だってどう考えても煮込んだ肉より焼いた肉の方が上だろ。みんなに流行ってるぜって意味の慣用句「人口に膾炙す」の炙も焼肉のことだし、上手に焼けました~!が上手に煮えました~!だとあんまりテンションが上がらない。煮た肉がこの世で一番大好きな人はごめん。
焼肉、やはり焼肉こそ正義。陰キャも陽キャも焼肉の前ではノリのキショさの違いこそあれ等しくはしゃぐし、ヴィーガンも胃が追い付かないからもう無理という老体も、人生で焼肉が好きだった瞬間が全くないことはあんまりないんじゃないのか。それだけ肉を焼くことはアミューズメントであり、古来から続く人類共通の幸福なのだ。
しかし羊の頭を食べる国民はざっと調べただけでもアイスランド、モンゴル、トルコと世界中に点在しているのに、なんか全員が全員でっかい鍋で煮ていた。
モンゴル人はシンプルに塩ゆでし、アイスランド人はハーブで煮た後に乳酸硬化で皮を黒くしたりするらしい。ところで乳酸硬化って何だ、調べようとしたらプラスチックの話しか出て来なくて怖いぞ。
焼いて食べるレシピはなぜないのか?と考えたところで一つ思い当たる。
豚足やミミガーなど皮膚の多いゼラチン質の部分は、焼くと縮こまって非常に固くなり、とてもじゃないが人間が美味しく食べれる触感ではなくなる。犬用歯ブラシガムみたいになる。なった。
つまり羊の頭は焼いただけでは食べられないのでは、という疑惑だ。
お料理上級者の方は今、何を当たり前のことを、と思っているかもしれないが、私はお料理低級者だしついでに高卒だ、誰にでも欠点はある。御影玲王の思う自分の短所を見て落ち着いてほしい。
流石に腹が立ってきた、だったら羊をどうにかするのを手伝ってほしい。
しかし困ったことになった。私はどうしてもこんがりジューシーに焼けた羊の頭が食べたい。どうしたらよいのだろうか。
しばし頭を抱えた。
嘘だ、一瞬ストーリー仕立てにしようかと思ったが馬鹿みたいなのでやめた。だったら崩れない程度に煮た後オーブンで焼いて焦げ目をつーけよ!と普通に思った。博多名物焼き豚足と同じ製法である。
そうと決まったら行動に移す。昨日の夜、塩コショウとにんにくやハーブ等を刷り込み、下味をつけておいた。できるだけシンプルな味付けにして素材の味を楽しみたいが、そのまま過ぎると飽きるので羊の味を邪魔しないような爽やかな香草を選んだ。母が。
一晩経った羊の頭がこちらになります。
グロイな。とてもじゃないが食べ物に見えない。殺した、という言葉が脳裏を埋め尽くすほどの生生しさ。切断面なんて見てると刃物のことを考えてしまうね。ここが脊椎で、こっちが気管。生き物をいただくとは……みたいな厳粛な気分だ。本当にありがたいことです。
今からこれをデカい鍋で長時間煮ていく。圧力鍋を使おうかとも考えたが、どのくらい圧力をかけていいかわからないし煮崩れてしまったら悲しいのでやめた。成功と違い、失敗の予感は大体当たる。
大量の水に羊の頭をゆっくりと沈め、追加でにんにくとしょうが、ネギとローレルを入れて火を点ける。沸騰したら弱火にする。
そういえばうちの祖母は近所の公園でローレルが取れると言っては大量の葉っぱを持ち込んできたものだが、本当にあれはローレルだったのだろうか?ローレルは形状的にもごく普通の葉っぱだし、雑草を食わせられてたとしても気づけない。
もう確かめる術はないが。
しんみりしたところで一時間が経過し、羊に火が通ってきた。にんにくの芳香を押し分けるようにして、獣の皮膚特有のむわっとした匂いが部屋に満ちる。
片耳が半分切れているのはイヤータグの関係らしい。頭の中には脳が入っているし、口の中には舌が入っている。そして瞼の裏には眼球がある。
ちなみに別に睾丸と足も買った。哺乳類の睾丸は食べたことがないのでこれも大変楽しみ。思ってた2倍くらいデカくてパンパンな上、血管がビキビキ浮いていたので処女みたいな悲鳴を上げてしまったが、切って焼くので全然怖くない。豚の腎臓を食べた時には尿の匂いが口内に充満したが、睾丸もやっぱりそうなのだろうか。
更に数時間煮込んでいく。
トルコ料理のレシピには3時間以上と書いてあったのでとりあえずその通りにしようとしたが、皮膚が縮んでずる剥けになってきたので2時間で引き上げた。このあと焼くしまあ大丈夫でしょう。たとえ硬い肉に仕上がっても、私は歯医者から噛む力が強すぎて歯の根本が砕けてると言われたつよつよ顎なので問題ない。スペアリブの骨、噛めます。
2時間ぐつぐつさせた後の羊がこちら。
拡大して見ればただの茹で肉なのだけど、やっぱり生生しい目元口元の印象が強く、薄茶色の肉も死蝋の質感に見えてくる。雪の下から出土した古代のミイラみたいだ。埋葬してあげたくなってきた。
これにオリーブオイルをたっぷりかけて、予熱をかけたオーブンでブンしていく。油をかけるのはローストチキンの作り方を参考にした。鶏と同じでいいのかはわからないが、油をかけて不味くなる肉なんてないので多分大丈夫だろう。
ブンッ♪
とりあえず180℃で30分にしてみた。根拠は全くない。
肉を焼いている合間ヒマだし、御影玲王のセリフでも紹介するか。
———黙ってろゴミが
———誰だよてめぇ
———根に持つタイプはモテねーぞ
急に暴言を吐かれてびっくりしたと思う、ごめんね。
こちらはブルーロック公式が発売している異様に使い辛いLINEスタンプ、御影玲王Verのセリフだ。読んでいただければわかる通り、育ちのいい割りにこの男、中々口が悪い。伝統的な御曹司と違って俺様タイプでもないのにヤンキーみたいな口調で喋られるとギャップで好きにならざるを得ないのだが、ここからが問題だ。
以下、ブルーロック公式スピンオフ、エピソード凪でのセリフだ。
———手間のかかる子だな
———やっぱムカツいてきた あのボケめんどくさ赤ちゃん…!
気色の悪い鳴き声しか出せそうにないため、具体的なコメントは控えるが、ギャップからのギャップ返しを受け混乱+毒みたいな状態になった。毎ターン5のダメージが入る。特に後者は数日前に出たセリフなのでまだ受け止めきれていない。口調は荒いが、語彙は保護者なんだ。そういうパターンもある。
私が赤ちゃんになりたがっているうちに、羊がこんがり焼きあがっていた。
まったくもって食欲をそそる見た目ではないが、とにもかくも完成とする。ここまで4時間以上が経過している。下味からなら半日以上だ。
それでは。
改めて、御影玲王さん、お誕生日おめでとうございます!!!!
生まれてきてくれてありがとう、貴方はこの世の光(Licht dieser Welt)です。
———Ph’nglui mglw’nafh Cthulhu R’lyeh wgah’nagl fhtagn
死せるクトゥルー、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり
さて、供物と詠唱も済んだのでいざ実食していく。
瞼を開いて濁った眼球を取り出す。羊の頭をよく食べるアイスランドでは、お目目が一番美味しい部位とされているらしい。ちょっとセクシーでいい文化だと思うので、アイスランド人に習って眼球からいただくことにする。
一応写真を撮ったのだけれど、あまりにもぐちゃぐちゃで汚かったので割愛した。味は牛ホルモンの中で一番濃厚で油っぽい部分を思い浮かべてほしい、それを10倍くらい生臭くしたぷるぷるの球体が口内いっぱいに満ちる感覚が羊の眼球だ。
こんな感想を書いたが不味くはない、基より私は生臭い肉が好きだ。
しかしめちゃくちゃ油っぽい。飲み込むたびに胃袋が甲高い悲鳴を上げてぐっちょりべとべとしてくる。眼球2個だけで山とか登れそう。胸焼けが山一つ燃やす勢いだすっごい。私はもうそんなに若くない。
続いて耳とか頬の肉。焼きすぎたのか皮はチップスみたいにパリパリしていた。
根元のゼラチン質の油が喉に押し寄せてくる。頬肉などは若干赤身っぽくしっとりしているが、その他の繊維のドゥルドゥル感はやっぱり獣の油って感じだ。豚足のぎょむぎょむした噛みごたえをなくして、まったりした油味を増した食感。
頭蓋の中の脳は煮ているうちに流れ出てしまったのではないかと思ったが、意外としっかり残っていた。白子を濃厚に固くしたようなプディングが唯一美味しいと言える味かもしれないが、絶対こんなに一気に食べるものじゃない。耳かき一匙で充分かな。
ここまでの総評として、油っぽすぎる。あと顔ってまじ骨ばっかですね、脳みそを出すのに包丁の背で頭蓋骨を叩き割るのが大変でした。粉と油がそこらじゅうに舞い散り、部屋がスプラッタです。
でも好奇心が大いに満たされて満足できた。これで5千円しないのは安いと思う。あと1週間は何も食べないでよさそうだし。もし豚足の脂分だけ吸って生きていきたいような人がいたら味的にもおすすめできる。それ以外にはどうしても好奇心に抗えなくなった人にしか勧めない。
どっちかというと散々な目に遭いましたが、これに懲りず、御影玲王推しとして、好奇心と行動力は失わずに、今後も色んなことに挑戦していきたいと思います。
見てこの元気なお顔。
よかったね。
8月12日。私は夏休み待っただ中なので実家に帰って調理をしてた。家にデカい鍋ないし。急に羊の頭部を送りつけられた実家の両親は大変困惑していたが、彼らもまた、もう二度と御影玲王の誕生日を忘れることはないだろう。
あと当方20代後半の独身女性社会人ゆえ、多くの独身一人暮らしと同じく毎年帰省すると親に仕事や結婚の予定を聞かれるのですが、今年はお願いだからもう羊の頭は送ってこないでくれ、こういう突飛な真似はそろそろやめろ、としか言われませんでした。実家に帰りたいけど絶対に小言を言われたくない、という人にも羊の頭の購入はおすすめです。全てを黙らせる力がある。
それでは御影玲王さんにとって今年が、かけがえのない素晴らしい年となりますように。
HAPPY BIRTHDAY!!!!