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夢の素材、それは本当?:PFASの真実

防水、防汚、防油など、夢のような特性を持つPFAS。しかし、その裏には何が隠されているのでしょうか?PFASは本当に夢の素材なのでしょうか?その真実に迫ります。

1.はじめに: 未来を変える素材?PFASの謎を解く

今回の記事は今月とあるセミナーで話す内容の「PFASに関する海外の動向」、のオフィシャルのタイトルを「夢の素材、それは本当?:PFASの真実」に変えて記事を書いてみたいと思います。「PFAS」は知ってますか?聞きなれない・見慣れない英語が4文字並びピーファスと呼びます。これを見てピンときたそのあなたはすごい!!関連企業にお勤めでしょうか?ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称です、と言われても何のこっちゃだと思います。防水や防滴加工、汚れ防止、テフロン加工と聞くとイメージができるともいます。そうなんです、ピーファス、PFASはその総称を表す有機化学物質です、よりかは、それらの化学物質の総称です、とシンプルに言ったほうが良いですね。次の言い方を比べてみると面白いと思います。

その1:有機性フッ素化合物質
洋服、特にアウトドア用の服の防水加工、傘や靴、フライパンなどを防水・防滴・防油をするために使用されているペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の有機フッ素化合物の総称。

その2:コーティング剤
洋服、特にアウトドア用の服の防水剤、傘や靴の防水加工、テフロン加工されたフライパンに使われているコーティング剤。

1番目の方がなんだか毒性が強く感じる文章ですが、言っていることは同じです。

こんな例もあります。身近な化学物質であるジハイドロモノオキサイドは無色無臭で、その液体は汚染されている場合があり、それを知らずに体内へ摂取してしまう事故も多発しており、内々のがん細胞からもその液体は発見されている。言い換えると、人間生活に必要なは汚染されている場合もあり、それを知らずに飲んでしまうこともあり。体内で発生しているがん細胞は体内の水を活用して成長を続けている。ジハイドロモノオキサイドは、要するに、「」、言葉が違うとなんだか恐ろしい化学物質に聞こえてしみますね。でもこれがもしかしたら、人間と化学物質の関係を正直正面的な関係ではなく、化学物質の短期的利益・貢献依存社会を構築してしまった人間社会の性かもしれませんね。

今回の記事では、あえてPFASを有機性フッ素化合物質とコーティング剤と使い分けて文章を作成してみたいと思います。

2.白紙のキャンパス:あなたが描く色は?

PFAS、言い換えて、有機性フッ素化合物質または防水剤の話しが本題ですが、その化学的な詳細や専門知識、国内情報は他の講師の皆さんにお願いするとして、僕は、今回もそうですが、分母を丸ごと地球一個としてグローバルな目線から、’有機フッ素化合物、または防水剤の話しをしたいと思います。なので、皆さん、先ずは宇宙から地球を眺めた映像を浮かばせてください。そのイメージを持ちながら目の前に白いキャンパスがあると想像してください。そうです、そのイメージでスタートしましょう。

「目の前に白紙のキャンパスと色とりどりの12色の絵の具があります。あなたの生活を取り巻く自然環境のイメージを12色の色を使って表してください。」と言う課題を与えられたら、あなたは何色で塗りますか?この間、兵庫県のハチ高原にハイキングに行ったから黄緑をベースにした色、先週家族で三重県奥島に言ったので緑と青のツートーンカラーで、と言うイメージした方と、今日は廃棄物のセミナーなんだしごみが混ざった色の灰色、とか、不法投棄のイメージで黒、と言う方もいるかもしれません。

私は絵の描く能力は全くないのですが、ウェブサイトで見つけたこのオレンジと黒が混ざり合った色を選択します。皆さんこのイメージを見てどのように感じますか?トーンが違う2種類の色が混とんとしているカオスな状態、と思われるかもしれません。でもそれが正解です。人間が作り出したカオスな状態、それをしましたかったのです。なぜでしょうか?

環境汚染の歴史をこの背景に加えるとぴったり合うのです。今から300年前産業革命とともに爆発的に発生したのが化学物質汚染問題。もはや誰も逃れられません地球状のどこにいたとしても…ただし、残念ながら、もしかしたらいまだにですが、化学物質汚染問題は正直に正面から取り扱われることがなく、その短期的な物質としての効果や経済としての利益に目がくらみ、その長期的な影響を見てみ見ぬふりをしているかもしれません。ここにいる私たちも、わかっちゃいるけどやめられない状態、です。1800年代後半に残されている文章、例えば夏目漱石のイギリス留学体験記には、石炭で黒く汚れたロンドンの街、であったり、フランス貴族の日記には街中に捨てられた糞尿による衛生状態の悪化などの記載がありますが、社会としてはそれが当然の事、だから経済発展があるのだ、と言う今から思うと恐ろしい社会だったと当時をイメージするところです。でもここ日本も同じ状況で、つい数十年前前は多少川に魚が浮いていようが、多少空気が汚れていようが、それが当たり前、だから経済発展があるのだ、と言うのが前提の社会でした。2024年現在、世界人口の80%が住んでいる中位低所得国や低所得国は今まさにそういう状態です。このグラフは今の先進国が歩んできた歴史を振り返るものですが、これらの国は今まさしくその時代を迎えています。

汚染初期時代から日本で言ういわゆる公害期に取扱っていた単位は、マイクログラム、100万分の1レベルで化学物質汚染を判断していました。現在でも多くの基準は1ユニット当たり、例えば1リットル当たり20マイクログラム、別な言い方ではppmと言うレベルです。でもここでジレンマ発生。汚染対策が進めば進むほど、きれいな空気やきれいな水を取り戻すことができたのですが、同時に分析技術やモニタリング手法がより高度化になり、より低濃度の化学物質を検出することができるようになりました。そのおかげでダイオキシン等のさらなる有害性の高い有機物質を検出することに至りましたが、より低濃度の化学物質も検出することとなり、結果として環境中におけるより低濃度物質の検出をすることができ、PFASもいわゆる環境中で発見されるに至ったわけです。PFAS系の環境中の濃度で必要なユニットは、ピコグラム、例えば20ピコグラムの世界で、濃度にするとppbレベル。ちなみにDNAの大きさは2ナノメートル程度なので、取り扱いユニットとしてはppbレベルで同じ数値レベルになります。

そしてSDGs時代到来。世の中全体がグリーンフォーメーション化へ進んでいく中、環境汚染ではプラスチックが世を賑わせていたり、PFASもそうですが、より低濃度の長期残留化学物質の現状把握や管理体制の構築へと、化学物質管理もその高度化が進んでいます。今まで把握できなかった未知の世界、濃度レベルもナノグラムレベルから、さらに先を行くピコグラムレベルに突入する方向に向かっており、今まで見ることのできなかった超低濃度の各種化学物質の検出、海洋や魚介中のマイクロプラスチック検出やマイクロプラスチック分解微生物の検出、有機フッ素化合物の各種モニタリング、健康被害確認、ダイオキシン類の環境中の動態やモニタリングなどが進んできています。もしかしたらこの数年後に、また新たな超低濃度非分解性化学物質が発見され、実はこれほど汚染が進んでました、と言うような報告が出てくるかもしれません。このポイント重要です、化学物質検出技術が高度化されるにつれ、今まで見えなかった超低濃度複雑系化学物質が検出することができ、結果として、その汚染深刻度がもはや手遅れである、と言う状態を我々は繰り返しています。今水面下で、新たな超低濃度複雑系化学物質たちが、人間に発見されることに関して、ピリピリしているかもしれません。

今から64年後の西暦2100年代、残念ながら今回のセミナーにご参加いただいているすべての皆さんが、あの世に旅経ってあの世で楽しんでいる頃、2100年代は、ついにカーボンニュートラル時代が到来し、各化学物質管理体制から、例えば自然資本価値を数値化した新たな統合的モニタリング手法が’導入されるかもしれませんね。自然価値を下げる有機フッ素化合物、自然価値を高める防水剤、その全体的なバランスを数値化したグローバルなモニタリング、どこまで進むでしょうか?

3.改めて質問!汚染問題は誰のせい?:見えないPFAS汚染の真相とは?

答えは、人間のせい、当たり前ですね。でも当たり前すぎて、しかも地球規模となってしまうと普段の生活で何をすればよいかわかりませんよね。きっと誰かが解決してくれるはず、僕自身の力ではどうにもならない。だって毎日ごみの分別をしているけど、何も変わらないじゃないか。その通り、何も変わりません、逆に、毎日酷暑の日々を過ごしていると自分は無力で何もできない、と思うのが日常生活。でも世界の全人口80億人が、毎日小さなことでもいいから何か環境問題対策を普段の生活ですることが、地球環境問題解決につながります。条約でもなく国際的・資金的・技術的・物質的支援でもなく、です。まだ間に合うでしょうか?

今我々が直面している地球環境問題は三つあります。気候危機、生物危機、汚染危機です。今日の主題である有機フッ素化合物または防水剤は汚染危機を引起しています。でもです、普段の生活ではこんな状況があると思います。いつも使っている折りたたみ傘に防水コーティングをしようと思って、家にあったスプレーを折りたたみ傘にかけた瞬間、「ちょっと待て、これはいいのか?」と思いました。スプレーの横には成分表としてフッ素樹脂と書いてあり、室内での使用は避け、必ずマスクを着用して外で使用してください、と書いてありました。防水効果はだんだん薄れていく、つまりフッ素樹脂は段々剥がれ落ちていく、フッ素樹脂だから有機系化合物、最終的には分解するのだろうか?などなど考えながら、最終的には折りたたみ傘を防水加工しました。地球上の80億人全員が傘にフッ素樹脂でコーティングをしたら、さすがにある程度は残存し、何らかの環境影響や自然破壊が起きるのだろうか?と未だにその答えはわかりません。

ある日の歯医者さん。この日は3カ月に一回の定期健診の日。歯科衛生士さんに歯石や歯磨きをしてもらい、最後の行程として「フッ素塗りますね」と。頭の中が思わずビビビと反応しましたが、さすがに口のなかだし、おそらく歯科専用で医学的にも許可されたものだし、そのリンゴ味にはなじめないけど健康的には問題ないはずだし、そういえば毎日使っている歯磨きもフッ素配合だった、とフッ素と聞くだけで脳内細胞が敏感に反応してしまいました。

ここで一つ素朴な疑問。人間が創り上げてきた人工素材は、人間の生活をより豊かに・より快適に・より効率的にしてきたのは間違いないが、高度になればなるほどその科学的特性や物理的特性が自然とどんどん離れてしまい、自然に戻ることができなくなってきているのではないか?その一つが今日のお題であるフッ素化合物質であり、別の例がプラスチック素材。両方とも今の人間社会にはなくてはならない素材的科物質。かたや対防水であったり特殊な消火剤として人々の安心な暮らしや生活に貢献し、かたやペットボトルがあるからこそ水道水を飲むことができない地域に安心安全な水を届けることができたり、冷蔵庫が無くてもその保存機能の高さから食料品を安心安全に長期保管できるために研究開発されてきている。でもこれらの素材は諸刃の刃で最終処分方法を間違えると、それは自然の中に紛れ込み、人間が気が付かないところで自然破壊を続けることとなる。となるとそもそもその素材は地球環境に適さない、と言ってしまっていいような気がします。

こう考えてはどうだろうか、「これら素材はまだ未完成。使用段階としては完成されているが、それが廃棄物となった時に何らかの処理と共に人間社会を循環するのか、自然環境に問題を起こさずに地球に戻すのか、そこまで考えて素材を開発しなければならない。」。ここまで考え抜かれて製造された素材こそが、本来人間が作るべき素材ではないだろうか?

いい意味で言えば、今回の有機性フッ素化合物質の事例から学ぶことができた、とポジティブに言う事ができるかもしれない。でも人間は、やはり、一度痛い思いをしないと何も気が付かないという現状も知っておかなければいけません。人間は、残念ながら全ての環境問題を引起してきましたが、それに気が付いた時は、その問題が危機的な状態になっているにもかかわらず、その原因となっている人間活動がもはや止められない、と言うのを繰り返しています。先ずは何らかの素材を世の中に届けることで短期的な経済的利益を得てきたものの、その長期的な影響で、結果としてその経済利益以上の環境汚染損害賠償を払い続けてきている、と言う事実を皆さんご存じでしょうか?

ここには人間の弱点を示す3つのパラドックスがあります。
①経済パラドックス:人間が追い求めるのは経済低豊かさ。しかも目の前の経済的豊かさを追い求めてきている。その長期的な影響がどうなるのかはとりあえず横に置いておいて、ありとあらゆる化学物質を商品として、例えば有機性フッ素化合物質を防水加工として、商品本体をきれいに届けるために捨てられる運命で開発されたプラスチック素材などがそうです。化学メーカーは莫大な利益を得て、我々消費者はその快適さや生活の豊かさを手に入れたが、その裏では永久残存化学物質として、じわじわと自然や健康被害を及ぼしつつあるこれらの化学物質。人間は同じ過ちを繰り返しています。使用段階で完璧な役割を果たすために開発するのは今までの時代、これからは使用後、確実にリサイクルされるのか、されないのであれば地球環境や健康被害を完全に及ぼすことなく自然に戻るような機能も確実に取り入れた上で、素材を開発・使用していかなければなりません。

②意識パラドックス:全ての地球環境問題は人間が引き起したにもかかわらず、人間が気が付く時には既に危機的な状態となっているのが事実。しかもそれにも関わらず、見て見ぬふりをするのも人間の悲しい本性ではないでしょうか?水俣病、気候変動、有機性フッ素化合物質、プラスチック、全てがそうです。人間の意識は、その商品やサービスが目の前に現れたその瞬間にしかありません、その瞬間得られる欲望に応えてくれる商品やサービスに取り囲まれて生活をしています。その長期的な影響は果たしてどうなんでしょうか?少なくとも、水俣病、気候変動、プラスチック汚染は同じ結果を語っています。その瞬間得られる利益よりも、長期的に及ぼす環境負荷コストの方が圧倒的に高くつくこと。人間の弱いところ、目の前の利益にしか意識が向かない事。

③ごみパラドックス:人間が使ったものは全てごみになります。客観的に考えれば当たり前ですが、ゴミになった瞬間、それは自分の責任ではなくなる、と多くの人間が当たり前に考えているその本性。そんな時代が長すぎた、地球は人間の無料のごみ箱ではないのに。日本でも数多くの不法投棄問題が発生、2024年でも開発途上国のスタンダードはオープンダンプと野焼き、なぜ?お金がないから不法投棄、一番安い処理処分方法がオープンダンピングと野焼きだから。それ本当ですか?オープンダンプと野焼きが一番高くつく処理処分方法なんです、環境汚染コストを入れると。

この三つ巴のパラドックが続く限り、有機性フッ素化合物質の適正な処理処分は始まらないのではないでしょうか?防水・防塵・防油加工は必要です、これらの製品を作りにはその特性に合った有機性フッ素化合物質が必要です。地球環境問題を持続可能な形に戻すのか戻さないのか、地球三大危機を止めるのか止めないのか、もはや止められないのか?全ては全ての問題の根源である我々の行動次第である。

4.国際舞台におけるPFAS対策:世界が動くPFAS対策の最前線

全ての化学物質問題やその汚染問題に共通しますが、その汚染物質が人間社会で使用されるようになり、少なくとも数十年経ってから”ようやく”何らかの負の影響が発生し、その原因は現場や因果関係から明らかな場合が多いです。科学的・医学的根拠を明示するために数年、時にはさらに数十年を費やし、最終的にその原因物質と環境汚染・健康被害が公に認められるころには、その汚染深刻度が危機的な状況に陥っている、と言う事を人間は繰り返しています。有機性フッ素化合物質の場合は、少なくともその使用が1970年代ことから認められているが、国際舞台でその環境影響や健康被害に関する議論が行われ始めたのが2010年代に入ってから。有機性フッ素化合物質に関しては、2010年代に入り関連するUNEPやOECD会議で議論が開始され、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ、いわゆるSAICMの枠組みにおける国際化学物質管理会議を通してその本格的な議論が開始されました。そこでの議論を踏まえストックホルム条約で2019年と2022年にそれぞれ毒性が強く世の中に多く出回っている2種類の有機フッ素化合物が追加され、この世の中から根絶することが決まっています。

ではごみになった場合はどうなるのか?有機フッ素化合物質そのものがごみになるというのはあまり考えられませんが、そうなった場合は各国の定義で有害廃棄物分類されるのであれば、バーゼル条約上の有害廃棄物となり、最終処分又はリサイクル(どのように?)を目的とした国家間の越境移動はバーゼル条約対象となります。でも現実には有機フッ素化合物質そのものがバーゼル物として取り扱われることはないのではないか、と過去バーゼル条約担当者の僕は感じるところです。なぜか?そもそも有害化学物質の取り扱いが非常に難しく、その取り扱いが難しさに伴う危険性が非常に高い中、リスクを伴い越境移動させるよりも国内において長期保管させるほうが安全対策としてはリスクが低くなる場合が多いです。それと処理コスト問題もあるため、使用用途がなくなった有害廃棄物、特に化学物質としての有害廃棄物の取り扱いが非常に困難であるという現状を知っておかなければなりません。

では有機性フッ素化合物質がコーティング剤として使用されているごみは、どう取り扱うべきでしょうか?今回の話の流れだと、まずはそのものが有害廃棄物となるのかどうか?という点です。仮に有機性フッ素化合物質で防水加工処理がされているジャケット1着があったとして、それが有害廃棄物になるかというと、一般的な観点から有害廃棄物ではなく、ただの衣料系廃棄物の一部となる、というのが結論でしょう。濃度的に薄まるから、というのが一般的科学知識ですが、そこまで考えずにすべての廃棄物を環境上適正な管理下でリサイクル・最終処分することが求められています。

では次にSDGsと有機フッ素化合物の関係です。有機性フッ素化合物質の取り扱いやそれが原因としてどれだけ人への健康被害が被っているかというデーターはないのですが、少なくとも年間有害化学物質の影響で100万人以上の死者を出しており、何らかの健康影響を受けている人は少なくとも800万人程度はいるといわれています。世界における交通事故死傷者の数は約140万人とも言われ、化学物質はそれに匹敵するほどの悪影響を人間社会にもたらしています。言い換えれば、人間が化学物質を使うことで、それほどの人数の首を自ら占めているということになります。

SDG3ではすべてに人に健康と福祉をが設定されています。その一つのゴールが「2030年までに、有害化学物質、並びに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる」です。有機性フッ素化合物質はもう一つのSDGに関連します。それはつくる責任使う責任です。どのように大幅に有機性フッ素化合物質による健康被害を減らすことができるのでしょうか?3つのストーリーがあります。

①有機性フッ素化合物質製造・使用を削減していく:もっとも標準的なアプローチ。化学物質により環境影響・健康被害防止に向けた教科書的なアクション。世の中から有機性フッ素化合物質の使用を根絶することを目指す。

②代替化学物質を使用していく:PHASフリー素材、非PFAS 素材というのが開発され、すでに実践に投入されています。これからどこまで普及するか不明ですが、おそらく代替製品の使用は今後急加速するでしょう、特に高所得国においては。一度例えばテフロン加工のフライパンや防水加工の洋服を使ってしまうと、その便利さに変えられるものはないと思います。例えばテフロン加工のフライパン、洗う時簡単に油汚れが落ちるその素晴らしさに感心すると思います、もしテフロン加工されていないフライパンだったら、より多くの洗剤を投入し、より多くの水を使い、より多くの自分の時間を使い気鋭に洗浄する必要がありますが、テフロン加工のフライパンだと少量の洗剤、松露湯の水、少量の自分の時間で洗えてしまう、というメリットが出てくると思います。でも正直、どっちが環境負荷がかからないのかは、わかりません。

③あえて今後も有機フッ素化合物質を使い続けていくが、排水処理・廃棄物処理を徹底して高度化し、自然界に有機性フッ素化合物質が出ないようにする。この展開もありだと思いますが、万が一出てしまった場合は取り返しがつかなくなる状態になり、汚染物質は徹底して汚染源に近いところで回収・処理・処分する、という汚染対策原則とは異なるアプローチとなります。

日常生活の中で恐れられているのが化学物質過敏症。ちなみに僕は幼いころ、当時父親がヘビースモーカーだったということもあり、喘息持ちとなりました。ありとあらゆる化学物質が使われそれに囲まれて生活をしている現在は、逆に何も影響のない暮らしを送ることは不可能でしょう。誰も逃れることはできない、逃れられないのであればどのようにその状況の中で生活をしていかなければならないのでしょうか?

5.今後の管理体制・各国国内法・国際的な対応は?:PFAS管理の新たな展望

さて次に気になるのが現在進行形で進んでいる関係国際条約や国際的な枠組みとPFASとの関連です。まずは、僕も記事で色々と書いてきていまだに講演依頼も多く、今後もホットイシューとなり続けるプラスチック条約、正確に言うと「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際文書(条約)に向けて」と有機性フッ素化合物質に関してです。そもそもプラスチックとPFASが関係してくるのかということに関してですが、一部のプラスチック製品の防水、防塵、防油等対策に各種PHASが使用されている事例があるそうです。例えば、プラスチック容器やカトラリー、プラスチックパッケージなど。特に食品を取り扱う場合には、各国の何らかの規制値に見合った安全濃度で使用されていると認識しています。このため、今後、使い捨てプラスチックを中心としたプラスチック使用用途の制限や削減が国際的に進んでいく中で、有機性フッ素化合物質の使用料も減っていくのではないか、と想像するところです。 

UNEPの枠組みでは、化学物質・廃棄物管理に関する国際的な専門家グループの立ち上げを準備しています、その名も、化学物質・廃棄物管理と汚染防止科学・政策パネル。現在、気候変動と生物多様性に関しては国際的な科学的・政策的パネルがあり、国際的にも著名な専門家がグローバルな専門知識を基本とし、それぞれの分野で今後国連として・国際的アプローチとして進むべき方向性の明確化や、具体的な科学的根拠による地球危機を解決するために国連環境総会へ勧告等を行う専門家パネル、の化学物質・廃棄物管理パネルの枠組みを構築しています。現時点では、その枠組みや役割、パネルの進め方等に関するパネル構築に向けた国際交渉が進んでおり、現時点ではどのような詳細な専門的な議論が行われるかは明確になっていません。将来的には、例えば有機性フッ素化合物質とそのプラスチック製品や産業への応用、その削減や廃棄物の在り方など、国際的なレベルにおける様々な化学物質と廃棄物の組み合わせの中で、特に必要となりうる対策の提言が行われていく予定です。

ではアメリカや欧州での対応策はどのようなものでしょうか?まずはアメリカ。皆さん、ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男は見たでしょうか?これぞまさしく、短期的な利益を追い求める企業と、その企業パワーに追いやられ環境影響健康被害を直接被っている住民たち、それを見て見ぬふりをする住民同士の思い、社会の闇に葬ろうとする経済社会、でもそれを正直に正面から見つめて命を懸けて戦っている人たち、僕の今日の話を聞くよりか何千倍も化学物質汚染対策とそのひずみ、そして人間の欲望と性がよくわかる映画です。僕は最初に見たときは、水俣病と重ねてみていました。化学物質は違うにせよ、人間ドラマはまさしくそのままです。その人間ドラマは、気候変動や生物多様性、他の化学物質や、SDGsが救おうとしている本質の表裏に当てはまるものです。もしまだ見ていないのであれば、ぜひ見てください。資本主義社会の闇とひずみ、そこに挑む人々の心、そしてそれは映画の世界だけではない、ということが恐ろしく感じるでしょう。

さて話を戻して、欧州やアメリカでは結構PFASのニュースが日々出ています。共通するのが、日常的食品、特に高蛋白質な卵やシリアル、牛乳を多くとっている人の血中のPFOSレベルがコントロールグループと比較して高い、これらの食品そもそもからPFOSが検出されている、コホート研究においてもその時系列を分析する限り、年々血中濃度のPFOSレベルが高くなってきている、軍事施設や産業工場付近の井戸や河川から高めのPFOS濃度が検出されている、井戸水からも比較的高めのPFOSが検出されている、などです。でも健康被害となると、あまり記事を見ないというのが正直な感覚です。やはり、有機性フッ素化合物質が原因による環境影響・健康被害を特定するのは非常に難しいということなのかもしれません。また、もはや、我々は日常茶飯事、様々な化学物質に暴露されながら生きているので、それが有機ハロゲン化物質が原因なのか、甘党系食事が原因なのか、お酒好き生活が原因なのか、高コレステロールの食品の取りすぎなのか、他の化学物質なのか、同定するのが困難であるということを示しているのでしょう。もはや誰も逃れることができない日々の環境汚染、化学物質への暴露問題。私たちすべてが被害者であり、加害者でもある、第三者は存在しない、これが我々の日常生活です。

欧米では有機性フッ素化合物質管理基準策定が進んでいます。欧州では、EUとしての製造販売の登録制度であるEU-REACH規制において、PFAS含有製品の濃度規制導入準備が進んでおり、近い将来ある一定上の濃度を含むPFAS類製等のマーケットが制限されてきます。ただしPFAS類に制限をかけると約10,000以上の物質や対象物となり範囲が相当に広くなること、エッセンシャルユーズ使用目的以外には幅広く制限がかかる見込みです。また、たとえREACH規制が開始されたとしても、その制限使用には猶予期間が求められていたり、ある程度の自由度がありながら、長期的な戦略として有機性フッ素化合物質の制限、その結果として見えてくる量的削減につながる可能性があるでしょう。

米国では、映画の影響や市民団体等の大きな動きもあってか、世界に先立ててPFAS問題に取組み、ここ数年の対策戦略ロードマップや政策対策に基づき、本年4月に飲料水規制としてPFOSとPFOAともに4 ng/LとEPAが基準値を設置。この動きもあり、アメリカ国内のネットニュースにはほぼ毎日、これらのモニタリングや関連する記事が見つかります。多くはこの水道水や飲料水は基準を満たしているとか満たしていないとか、満たしていない場合の汚染源は何なのか、PFAS汚染水の処理方法や対策紹介の記事です。アメリカ国内での飲料水に含まれる有機性フッ素化合物質の注目度の高さは、他国にでも見られないくらいに感じるところです。

欧米以外で飲料水中のPFASの現状はどうでしょうか?まだ情報が少ないのですが、少なくともインドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア等の河川や水道水のサンプルからは検出されている情報があり、おそらく分析すれば’どこからでも出てくるという状態ではないかと思われます。基準値作成もまだこれからと言う状態です。しかし世界的に見ても水道水を直接飲むことができる国は20数か国と限られており、そもそも水道水が飲料水として適していないというのが世界標準です。水道水やミネラルウォーター、各種飲料水中のPFAS濃度規制での管理が今後の主流となりそうです。基準値の動きは国際的な条約等で決まる、と言うよりかは、メーカー側の独自の基準で管理されていくのではないかと思います。その基準値としてアメリカの4 ng/Lがグローバルスタンダードになるかもしれません。

でも、ここで恐ろしのが、もはやPFASから誰も逃れられないと言う事です。地球上で一番大切なその水にもPFASが入っているのが当たり前、だから基準値を設けてそれ以下の水を飲むことにしよう、と客観的に考えればひじゅおに恐ろしい状態です。でもこれが現状、人間が作り出した環境汚染ありき経済社会と自然環境。恐ろしくないですか?

では、今後30年間のPFAS製造量の予測を見てみたいと思います。これらの数値はいくつかの関連団体が公表している数値から算出しているため、あくまでも予測という認識でお願いします。有機ハロゲン化物質は、これほど取り扱い要注意と認識されつつありますが、残念ながら今後30年間増え続ける予想が出ています。特に、産業用途としての防水・防油等のコーティング剤としての使用用途が今後も増加傾向と予測が出ています。欧州ではREACH規制の下、ある程度、有機性フッ素化合物質使用量の削減が見込まれていますが、今後経済が一気に伸びてくる東南アジアではその使用量が増える見込みです。引続き、有機性フッ素化合物質のマーケットは拡大し続け、特にアジア地域においては新たな製造業者やそのほか難燃性・永久残存性有機合成物質も含め、化学物質業界は拡大し続けるでしょう。

そうなると、経済界に影響力のある化学物質業界を環境上適正・持続可能なビジネスとして成長させていくのかというのがカギになるでしょう。化学物質業界がダメ、化学製品がダメ、例えばプラスチック汚染が拡大しているからプラスチックがダメ、プラスチック業界がダメ、ではなく、適正に使用し適正にリサイクルし適正に最終処分をするという人間の使命を全うすることができない、人間がダメ、という認識を持たなけれあなりません。我々人間は、どうしても何か起これば他人のせいにする、という悲しい性を持っていますが、そこを変えない限り、条約を作ろうが、国際的なルールを作ろうが、法律を作ろうが、基金を作ろうが、最終的な解決には結び付きません。SDGsの時代を通り越しても、本当に解決するべき根本的な問題は変わりません。その問題を解決するためにはどうしたらよいでしょうか?

6.どこに向かうべきか?:PFASと共に生きるのか?

UNEPで最近使うようになったキーワードは、自然から自然へ。そもそも人間も自然の一部として環境中に溶け込んだ生活を送ってきました。しかし、人間の英知が自然の中に溶け込んで生きる以上の力を蓄えてしまい、自然の力を人間の英知と組み合わせることで、自然がそもそも持っていたその力を爆増させて、人間社会を築き上げてきました。しかしその人間の爆増のスピードは自然の許容範囲をはるかに超えてしまい、その超えた部分が自然環境破壊という諸刃の剣で人間を攻撃してきているのが現在でしょう。気候危機、自然危機、汚染危機、いわゆる地球三大危機は、我々人間が起こした地球環境危機であり、もはやそれを止めることができないかもしれません。地球温暖化も、いまでは地球沸騰化という言葉に置き換わり、今年も、ここ日本でも厳しい夏を迎えています。地球沸騰化の環境下で生きていくための適応対策が日々実行されています。日本のような高所得国ではエアコンの整備を進め、インフラ全体としての適応対策が進んでいますが、多くの貧しい人が暮らすアジア地域全体でみると、日中エアコンの効いた快適かつ安全な場所で過ごすことができる人たちは、それだけで恵まれています。今後も、特に夏場における過酷な気温状況を考えると、命を守るために、さらなる途上国支援が必要になります。

今回のお題のPFAS、有機性フッ素化合物質についも同じようなストーリーが描けます。ありとあらゆる化学物質を製造して、それをもとにありとあらゆる製品を作り続け、その中でも生活をよくするもの、効率的にするものが世界人口80億人の普段の生活を支えています。少なくとも身の回りにあるすべての素材、すべてのモノは、産業革命が起こってから約300年間、世代を超えて人間の努力そして欲望で開発され続け、最も最先端な素材・モノには間違いありません。有機ハロゲン化物質でも、それがあるからこそ、産業界の各種製品での防水加工が可能となり、例えば建築現場の素材に活用されていたり、その防水性を十分に活用し、緊急用、特に化学物質反応による火災の消火剤として使用されています。また家庭でも、いわゆるテフロン加工されたフライパン等により、焦げ付きもなく洗浄も簡単なフライパン等を使用することができ、例えば日本のような共働きの家庭でも温かい家庭料理を作るきっかけの一つになっているかもしれません。

でも、なんです、ここ数十年の化学物質業界のトレンドとして、高濃度有害性物質の使用から超低濃度永久残存性化学物質使用へシフトしてきています。当初は化学物質の高濃度で規制をかけ急性毒性・急性環境汚染対策を実施していくのが主流でしたが、その規制の延長上として完全完璧な対策と信じて打った一手の超低濃度難燃性物質の使用が、低濃度長期暴露という結果として人間に襲いかかり、今となってはそれらの化学物質、一部は有機性フッ素化合物質のように永久化学物質として、80億人全員が加害者でもあり、被害者でもあり、誰も逃れることができない地球環境を作ってしまいました。

そろそろ我々人間は、本当に理解するべきことを学ばないといけないタイミングなのかもしれません。今までの結果として、地球三大危機をここまで拡大させてしまった。地球にしてみれば、地球上に住むある一種の生物が及ぼした影響に対して、地球最大限の自然力でバランスを取ろうとしているだけ、かもしれませんが。ということは、我々が進んできた道というのは間違いだった、または何か足らなかったということになります。それが人間の欲望のスピードが地球の許容範囲を超えてしまった、つまり持続可能なレベルをはるかに超えてしまった、ということです。我々人間は、ある意味特殊な生物かもしれません、英知を欲望として使うことで人間的経済社会を作り上げています。でもそれは格差ありきの人間的経済社会であり、かつ地球的持続社会でも全くなく、人間欲望社会を追い求めている利己的な社会となってしまっています。では、どのようにすればよいのでしょうか?

そこで出てくるのが、自然から自然へ。自然は自然再生力・回復力を持っています。例えば、一応自然の一部である人間は、転んで擦り傷ができたとしても、数日たてば元に戻ります。これが自然の力の一部なんです。ナウシカの映画でもありましたが、まさしく、自然環境は、現在過度な地球三大危機に直面していますが、その裏では、少しづつ、声は小さいですが、再生に向けた小さな力を見ることができます。でも残念ながらその力は現在失われつつあるかもしれません。でも、その力に我々人間の英知を使っていったらどうでしょうか?一例としては、日本文化の一部の里山文化が具体的な事例です。人間が自然に沿った形で自然を手入れすることで、その自然が原生自然よりも豊かな恵みを届けてくれることになり、より豊かな自然と人間の共存が可能となります。

有機性フッ素化合物質のような化学物質はどうでしょうか?超低濃度有機合成化学物質を代替する天然物質がベースとなる自然化学素材の開発が求められます。自然界、特に植物界には似たような能力を持つ植物が存在しており、その自然現象を人間の英知を活用し、自然に基づく素材や製品を製造し使用することが、今後人間が作るべき社会ではないでしょうか?

コスト問題?それを無視してきたから今に至るのです。
効率性?それを無視してきたらか化学物質に依存しなければならないのです。
量的必要性?無駄はいりません。無駄がありすぎたから、ごみ問題が爆発しているのです。

心が豊かになる自然と一致した社会を作る、その社会に向けて動き出すのが我々の世代かもしれません。ゴールにたどり着くには何世代かは必要ではありますが….人間としてするべきことがそこにあります。

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