廃棄物と気候危機: 循環型社会は現実的か?
前回から少し時間が経ってしまいました。この数週間はなんだかバッタバッタとしていて、ようやく文字を書く時間が取れるようになっていました。正確に言うと、次の講演準備をしなければ、と言う状態です。
次の講演準備ノートの前に、少々ご報告。今年は僕が所属している国連環境計画(UNEP)が設立50周年、そして僕の職場であるUNEP国際環境技術センター(IETC)が設立30周年と言うおめでたい年を迎えています。その30周年を記念したイベントを10月3日に大阪で開催しました。UNEP事務局長のインガーも来日、岡西さんや古坂さんも来ていただいたので国連の会議なしからづの楽しいイベントとなりました。イベントの報告はこちらです。
さて、準備体操を終えたところで、今回の記事「廃棄物と気候危機: 循環型社会は現実的か?」を書いていこうと思います。今回の記事は、近畿地域エネルギー・温暖化対策推進会議、と一見守備範囲外に思える会議、ではありますが、地球三大危機、つまり気候危機、自然危機、汚染危機は全てつながっているので、廃棄物の観点から温暖化対策のお話しをさせていただくことになりました。皆さんのそのごみ、少なからずも気候変動を推し進めてしまっています。
1.はじめに
先進国での排ガス、資源搾取、廃棄物・廃水問題、途上国における貧困問題などの国際的に複雑に絡まったこれらの地球規模課題が国連の会議で初めて取り扱われたのが、1972年に開催されたストックホルム会議。この会議のテーマは「かけがえのない地球」。その結果を基に設立されたのが国連環境計画(UNEP)です。1970年代は、日本でもようやく公害という問題に正直に正面からの対応が始まったころです。
そこから50年経ちました。UNEPは193か国の加盟国と共に、国際レベル、地域レベル、国レベル、都市レベルで様々な環境対策を実施していました。温暖化対策や生物多様性保護、化学物質や廃棄物対策のために各種国際条約の策定・実施、各国における各種法体系整備・実施事業支援、関連プロジェクトの実施などを、各国政府や地方自治体、民間企業の皆様と進めていました。自然保護管理の明確化、有害物質の使用禁止や環境上適正な廃棄鬱管理を実施することで、1970年代に取り出されていた公害問題の克服、経済社会のど真ん中に環境対策を据えた持続可能な社会形成を目指して、引続き各種事業を実施ていきます。
しかし、私たちの地球環境はどのように変化しているでしょうか?残念ながら、この50年間に気候変動、生物多様性の損失、廃棄物汚染は拡大し続けている、と言わなければなりません。今はもはや、三大地球危機、つまり気候危機、自然危機、汚染危機となり、我々の普段の生活を及ぼしている状態です。
ここ大阪の今年の夏もものすごく暑かったです。「今年の夏は例年よりも気温が高いです」、と毎年聞いていると、そもそも例年ってなんだ。もはや例年と比較するのが間違っているように思います。今のこの気温が例年で、過去の気温はもはや歴史上の記録にしかすぎません。
地球上には約800万種もの動植物がかつてはいました。先週の日曜日、家族で天王寺動物園に遊びに行ったのですが、クロサイやホッキョクグマなどのいくつかの動物の説明に、過去の人間の乱獲で絶滅の危機を迎えている、と書いてありました。今はそれ以上に人間が引き起した気候危機により、今世紀末までに100万種もの動植物が絶滅の危機を迎えてしまう、とも言われています。たった1種類の動物のせいで。
私たちは6万から7万種類もの化学物質を製造してきました。どれも自然界に存在しないものです。その代表例がプラスチック。このミラクルな素材があるからこそ現在社会が成り立っています。プラスチックがあるからこそ、例えば難民キャンプでも安心安全な水や食料を届けることができます。プラスチックがあるからこそ、日本全国のコンビニでいつでも安全で新鮮なサンドイッチが食べられます。でも、このプラスチックが甚大な環境汚染を引き起こしています。その被害額は年間4000兆円とも言われています。
世界が本気でカーボンニュートラルを目指して早数年。それを達成するための一つの柱として挙げられているのが、循環型社会の構築。地下天然資源を掘らずに、人間社会が使用している人口資源を確実にリサイクルし、再び世の中に返す、と言うのが現在のトレンド、まだトレンドなんです。環境先進国の日本でさえ、循環型社会構築を本格的に目指して約20年経ちました。でもまだ地下天然資源に非常に依存しています。2050年、少なくとも環境先進国は本当に循環型社会に完全に移行して、カーボンニュートラルを達成しているのでしょうか?
2.UNEP国際環境技術センター(IETC)
僕が所属しているUNEP-IETCは、UNEPの中で廃棄物を担当している専門チームです。もともと処分場だった場所を再開発した鶴見緑地公園内に事務所があります。1990年の花と緑の国際万博のレガシーとして日本が誘致したUNEP-IETC。今年で設立30周年を迎えています。途上国における廃棄物管理の支援業務や、関連する多国間環境条約における環境上適正な廃棄物管理の構築やその実施、そして、カーボンニュートラルをめざした統合型廃棄物管理に関する各種プロジェクトをしています。
3.廃棄物管理の何が問題なのか?
日本に住んでいると、廃棄物問題はもはや過去の話し。悪い輩が不法投棄する事件は起きているが、日常生活ではごみの徹底した分別回収、徹底したリサイクル、廃棄物発電によるサーマルリサイクルという、日本独自の循環型社会が成り立っています。私も日本における廃棄物管理の今後は心配していません。何か問題が生じた時に、日本人は正直に正面からそれを見つめて解決していく社会が浸透しています。過去の苦い経験を基に。
問題は日本を含めた高所得国を除く、約世界人口の約88%、70億人が住んでいる他の国です。その国の廃棄物管理は、かつての日本と同じ。とりあえずごみを居住区から郊外に移動させて処分する、と言うのが現実です。
世界の廃棄物の現状を見てみたいと思います。左の図が2050年までの一般廃棄物種類別発生量、右側が処分別の量を示しています。2021年においては、約21億トンの一般廃棄物が排出されています。21億トンと言うのは、東京スカイツリーで言うと5万8000個分の重さです。そのうち、食品廃棄物が約44%、プラスチック廃棄物が15%、ガラス5%、金属4%、紙2%、その他が30%です。高所得国では大量生産社会の結果とした食品ロスや飽食文化による食べ残しが主流で、途上国では限られたインフラ・物流の結果として食品ロスが発生しています。
処分別の状況を見てみましょう。2021年に排出された一般廃棄物のうち約50%がオープンダンプ、その多くが野焼きされているとも言われています。30年後の2050年はオープンダンプの割合は減りますが、分母が増えている分量的に増加。リサイクルに関しては、2021年のリサイクル率は22%、2050年は微増の24%。ちなみに、プラスチック廃棄物のリサイクル率は現時点で11%、2050年は20%前後と言う予想があります。
今後30年間で人口が20億人増え、中間所得層も数億人増えることから、廃棄物管理はより深刻化することが予想されています。数値だけ見ると、2050年には地球規模の循環型社会は成り立ちません。むしろ、今とそれほど変わりはない、と言った方が良いでしょう。島国として日本はもしかしたら循環型社会に移行できているかもしれませんが、それだけでよいですか?
4.UNEP-IETCのプロジェクト活動
UNEPのにおける廃棄物担当室であるIETCは、ごみゼロ社会、つまりごみを徹底してリサイクルし、地下資源を掘らない循環型経済社会をめざした、様々な取組を実施しています。大きく分けて3本柱があります。
一つ目は個別廃棄物管理。例えば、ここ数年で地球規模課題として認識されたプラスチック廃棄物問題。UNEPでは、来月からいよいよ始まるプラスチック汚染対策のための新たな法的枠組条約の交渉会議の準備を、着々と進めています。どのような条約となるのか、対策の肝としては何になるのかはまだわかりませんが、世界全体が子の喫緊の問題に対して大きく動いていく事になります。また、2年半はコロナウイルス感染拡大による医療系廃棄物管理の更なる強化体制のニーズを踏まえて、マスク等感染対策防御器具に加えて、ワクチン接種により大量に発生した注射器等の医療系廃棄物対策強化支援を実施ました。さらに、現代社会になければならない電気電子機器の廃棄物対策の支援・強化、水俣条約対応の水銀廃棄物管理体制強化事業等を実施してきています。
テーマ別アプローチとしては、廃棄物管理戦略策定・実施、廃棄物と気候変動、廃棄物とジェンダー、オープンダンプと野焼き対策等を実施しています。
廃棄物管理戦略とは、廃棄物管理と言うのは人間社会が産業社会に移行してから250年以上たっても、未だに「問題」であり続ける絶対に解決しない環境問題のため、少なくとも5年から10年かけてじっくりと途上国における廃棄物管理政策を整えていき、少なくとも今よりかはサステナブルな廃棄物管理政策の導入・実施を目指しています。ここ数年では、インドネシア、スリランカ、モルジブ、カンボジア等でプロジェクト活動を実施してきました。
廃棄物と気候変動は文字通り、廃棄物分野から排出される二酸化炭素やメタンの削減を目指したプロジェクトです。例えばUNEP-IETCがネパール、ブータン、モンゴルで実施しているプロジェクトにおいては、食品廃棄物の適正な処理処分が整っていないこれらの国において、シンプルなグリーンテックとしてコンポスト製造機器を導入し、食品廃棄物のコンポスト化、そのコンポストを活用した農耕事業を実施しています。コミュニティレベルの小さなリサイクル活動ですが、これらが成功例となって事業が拡大していく見込みです。
廃棄物とジェンダーにおいては、歴史的背景・現代社会が生み出した男女差別による社会的な課題に挑戦しています。そもそも歴史的に見ても、廃棄物分野と言うのは人間の社会活動において常に低く見られてきた分野であり、その中でも情勢はさらに虐げられてきた悲しい歴史亭背景があります。でも、このSDGs時代は、その間違った歴史的・社会的背景を変えていかなければならない「時」を迎えています。この大きな課題に対して、ブータン、ネパール、モンゴルにおいて各種プロジェクト活動を実施しています。
そしてオープンダンプと野焼き。「私たちの国は貧しく、今の先進国がそうしてきたように、環境対策よりも経済発展が優先である」、と言うお話しは、この分野にいるとよく聞きます。でもそれは間違いであった、と言うのが高所得国の事例から明らかです。例えば水俣病。その当時、あの企業が約1億円かけて排水処理を適正にしていれば、その結果生じた環境汚染・健康被害の賠償金として4000億円払わないで済んだのです。私個人のざっくり計算では、オープンダンプ・野焼きに関わるオペレーションコストは1トン当たり約1ドル程度、少なくとも日本レベルの管理型処分場のオペレーションコストは1トン当たり約15ドルから25ドル程度。でも、なんです、オープンダンプ・野焼きによる環境汚染コストは1トン当たり約100ドルから120ドル、管理型処分場の汚染コストは限りなくゼロに近い、です。さぁどうでしょうか?目の前のコストだけ見ていると、大きな落とし穴に落ちる、と言うのが高所得国の教訓です。
そして3本目の柱、アウトリーチ。いくらUNEPが主たるお客様の各国中央政府とごみ問題に対する環境上適正な管理を実施したとしても、それが多くの市民の皆さんと一緒にしない限りは、絵に描いた餅となってしまいます。そのためにも、今何が問題でどのようなアクションが必要なのかを、多くの方に知っていただく必要があります。そのアクションがアウトリーチ。でも、これが非常に難しいのです。このSNSの時代での競合相手はユーチューバーだったり、有名人であったりするため、プロジェクト活動のキーワードがバズることは、まぁありません。でも環境問題解決に関するミラクルな方法はないので、地道に実施していくのが正攻法でしょう。UNEP-IETCでは色々なトークイベントも実施していますので、今後に期待してください。
5.廃棄物と気候危機 - 循環型社会は現実的?
まず現状を見るためにデータを確認したいと思います。CO2換算した世界全体の温室効果ガス排出は年間約350億トン、そのうち廃棄物分野から排出される量は全体の約3.2%にあたる約11億トン。「なんだ、そんなもんか、全体の3.2%なら微々たる量なので、特に気にすることはない」、と思うあなた、その考えは正しく、そのようにとらえている人も少なからずもいます。約75%を占めるエネルギーセクターに注力すべし投資すべし改善すべし、そうです、それが今するべき正攻法の地球温暖化対策でしょう。
と言われつつも、もう少しデータを見ていきたいと思います。廃棄物分野3.2%は、実は二つに分かれていて廃棄物の埋立処分が全体の1.9%に当たる約7億トン、3.2%の残りとなる1.3%は排水処理から発生しています。僕が普段仕事している固形廃棄物分野から排出されるCO2はこの全体の1.9%、約7億トンということになる。なお、ここ最近急激な問題となっているプラスチック汚染では、使用済みプラスチックのリサイクル・焼却・埋立により排出されるCO2は約1.2億トン、つまり固形廃棄物が排出するCO2の約12.6%占めていることになります。プラスチックをリサイクルとしてもCO2は必ず排出されます。
先ほど一般廃棄物の2050年までの発生量とその処理形態の予想を見ましたが、少なくとも廃棄物管理の観点では、残念ながら2050年までに循環型社会は成り立たないでしょう。なんせ、2050年至っても一般ごみの約30%ぐらいしかリサイクルすることができないので。では、二酸化炭素排出量からみるとどうなるでしょうか?
少なくとも、脱炭素化が大きな目的となっているこの時代において、エネルギー分野の脱炭素化・効率化、それに対する投資、特にESG投資はSDGs社会における重要な金融の流れになりつつあります。でも廃棄物分野に関連するESG投資やグリーンテックへの投資と言うのはあまり聞きません。廃棄物発電に関しては、日本は推し進めていますがEU域内では廃棄物発電がグリーンテックとして認知されていないこともあり、廃棄物発電への投資がグリーンテックへの投資と言えるかどうかというのは、国際的に難しいところです。
また、廃棄物管理部門はそもそもカーボンニュートラルになるか?と言うそもそも論があります。少なくとも有機性廃棄物はどのみち二酸化炭素と水に分解するのが環境上適正な管理方法である事、その処理処分には焼却、廃棄物発電、コンポスト化が王道であるが、いずれも電力がいる施設がいるため、どう考えても二酸化炭素は排出される。となると全体の3%に対してカーボンオフセットが必要になるが、約3%、約11億トンの二酸化炭素のカーボンオフセットをどこから持ってくるのか、と言う問題もある。また、廃棄物分野は、高所得の歴史的事例を見ても公共事業、つまりビジネスにはなりにくい分野であり公的な補助金や地方自治体が直接運営するからこそ成り立つ事業でもある。一部、電気電子機器廃棄物や最近ではPETボトルリサイクルはビジネス展開する事例もあるが、しっかりとしたインフラ・法整備があり、市民の皆さんがきっちり分別するからこそ成り立つビジネスでもあるため、そこにたどり着くためにはかなりのハードルがあることは間違いありません。
でも、2050年にあるべき姿、カーボンニュートラル社会を構築するためには、カーボンオフセットに依存することなく、その分野で確実なカーボンニュートラルを達成することが必要になります。しかも、それがビジネス展開するような社会に変革していかなければなりません。この未来社会が廃棄物管理から循環型社会、そして廃棄物分野でのカーボンニュートラルを目指す姿ではないでしょうか?
あとがき:
皆さんはステーキや牛肉料理は好きですか?日本人であればみんな大好きではないでしょうか?月曜日の朝、「よし、今週の金曜日の夕食にステーキを食べるために、今週1週間がんばるぞ」、と気合を入れる方、ステーキ1枚を目の前にぶら下げて気合を入れる方、なんだかステーキ1枚で頑張れますよね。でも、前にもどこかで書きましたが、ステーキ一人分200グラム1枚がお皿に乗るまでに、お風呂10から15杯程度の水が使われているのが現実です。ステーキ1枚食べるのと3000から4500リットルの水を消費しているのと同じです。それと、牛や家畜のげっぷはメタンガスで、二酸化炭素よりも約25倍も温室効果ガスが高く、家畜から排出されているCO2換算の温室効果ガスは、なんど、廃棄物分野よりも高い全体の4%、約20億トンなんです。ごみ分別はめんどくさいけど、ステーキを毎週食べるのはやめようかな、ダイエットしているし地球温暖化対策にもなるし、と思うかもしれませんね。
こんな話しを、とある国内委員会でご一緒した先生と飲みながらしたのはコロナの前、懐かしい。
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