気候変動における廃棄物分野ファクター6
今年最初の記事は「気候変動における廃棄物分野ファクター6」、と言いつつこちらが副題で主題はこちら「統合的廃棄物管理における気候変動対策の今後について」。大阪カーボンカンファレンス2023(~COP28の結果:Global Stocktake (GST)とパリ協定6条実施について~)における講演の準備ノートです。昨年12月にドバイで開催されたCOP28(気候変動枠組条約第28回締約国会議)の結果を報告する会議です。正直の申しますと気候変動分野は専門外ではあるのですが、ここ最近UNEPが掲げている地球三大危機(気候危機、自然危機、汚染危機)において、僕の守備範囲の廃棄物分野と気候変動や生物多様性をリンクさせた仕事が増えてきたこともあり、狭い分野ではあるのですが、廃棄物×気候変動のクロスリンク分野においてプロジェクト等の実施に関わる機会があります。
はじめに
”統合的廃棄物管理における気候変動対策の今後について”と聞いて、何をイメージするでしょうか?世界が直面する気候危機において、我々は待ったなしの状況に置かれており、温室効果ガスを大量に排出し優先度が絶対的であるエネルギーや輸送、建築セクターにおいて緊急かつ重点的かつ確実な対策をさらに打っていく必要があります。これら3セクターだけでも世界全体における温室効果ガス排出の50%を占めているため、このセクターから排出される温室効果ガスを以下に削減できるかが、2050年主要国におけるカーボンニュートラル社会、そしてまだ間に合うかもしれない今世紀末の1.5℃目標に到達することが可能かもしれません。
でもその中においては、廃棄物セクターも重要であることを忘れてはいけません。世界80億人の全ての人たちは、毎日何らかのごみを排出しています。つまり最も身近な環境問題の一つがごみ問題であり、ここから多くの方が「環境汚染とはなんであるか?」を学ぶことができます。普段の生活をしていると、環境問題、特に気候変動問題に関しては、気温上昇を肌で感じることができるが、では私たちが普段の生活で何ができるのか、と考えた場合、気候変動問題のその大きすぎる課題に対して、私たちはなんと非力であるのであろうか?と感じると思います、自らその問題を引起しながらも。自分一人がアクションを起こしても何も変わらない、と言う意識を変えるためにも、一番身近な環境問題であるごみ問題からその理解度を深めていかなければなりません。
と言いつつも、僕が担当している仕事にもそれは言えます。UNEPの廃棄物担当部署に所属し、廃棄物専門官として、特に開発途上国における廃棄物管理支援や、個々の廃棄物、例えばプラスチック廃棄物やE-waste、水銀廃棄物等に特化して今まで仕事していましたが、ここ数年は、気候危機・自然危機・汚染危機の地球三大危機に包括的に対応するため、廃棄物と気候変動とクロスリンク的な仕事も増えていています。その内容は一気に幅広くなりましたが、新たな目線・考え方を持った、例えば廃棄物管理対策が必要ではないか、と考えています。廃棄物管理と言うのは、地球三大危機の汚染危機の一部となりますが、もともとは、廃棄物の有害性から健康被害・環境汚染を防ぐために対策が始まった、と言うのが歴史的な背景です。それには、廃棄物処理処分における徹底した有害性の無毒化を実施しつつも、その上流において有害物質をそもそも使わなくするアプローチを組合わせていく事が重要です。さらに廃棄物の量的な観点もあります。大量の廃棄物を排出しそれを環境上適正な管理で処理処分・リサイクルを実施する、と言うのが今の実施状況です。様々に異なる状況において、どのような適正な管理方法を導入し実施していくかが現状の主軸の対応です。
しかし、カーボンニュートラルを目指す段階になり、その主軸に変化が必要です。それは、どんな種類の廃棄物を出そうが、どれだけの廃棄物を環境上適正に管理しようが、その管理処理工程において温室効果ガスをどれだけ出しているのか、と言うのを把握しデータ化、それを徹底的に削減する方向に持っていくと言う事です。どんだけ高度なリサイクルをし、廃棄物を100%循環経済で資源として経済社会に戻したとしても、そこで大量のエネルギーを使用したリサイクル技術・プロセスを使うのであれば、もはや本末転倒です。廃棄物の有害性とその量的な対策に加えて、廃棄物処理工程での温室効果ガスの見える化・データ化・管理化が今後のカギを握るでしょう。
こんな背景を考えながら、30分間の講演の準備ノートを作成しました。
ファクター6
ファクター6の項目と分析は以下となります。
ファクター1: 2022年セクター別温室効果ガス排出
ファクター2: 2022年所得別一般ごみ処理形態
ファクター3:2022-2050年所得別ごみ排出量
ファクター4:2022-2050年ごみ処理状況
ファクター5:1.5℃シナリオにおける温室効果ガス排出予想
ファクター6:グローバル・メタン・プレッジシナリオにおけるメタンガス排出予想
ファクター6をまとめると、こうなります。
統合型廃棄物管理におけるファクター6
ファクター6のデータを客観的に見ることで、廃棄物管理の現状から見た気候変動対策を構築することができます。ここで重要なのが、廃棄物管理分野だけではなく、廃棄物管理分野を取り巻く関係する社会経済的要因、つまりSDGs的観点を踏まえた上で、統合的廃棄物管理そして気候変動対策を実施していく事が重要となります。
ファクター6のセクター別温室効果ガス排出データを分析することで、どの分野が最も排出しているかを明らかにし、効果的な排出削減のポイントを特定できます。これにより、統合型廃棄物管理の戦略を、最も効果的で緊急性の高いセクターに優先的に適用できます。
廃棄物セクターにおいては、温室効果ガスの排出を完全にゼロにすることが難しい現実があります。一方で、他のセクターが削減を進める中で、廃棄物セクターの排出比率が相対的に高まる可能性があります。廃棄物セクターは、生活から産業まで様々な活動から発生する廃棄物を処理する担当者であり、その中には温室効果ガスを発生させる過程が含まれます。例えば、有機廃棄物の分解過程や廃棄物焼却などが二酸化炭素やメタンの排出源となります。これらのプロセスにおいて完全な削減は難しく、従って他のセクターと同様の削減手法が適用できない場合があります。
また、循環経済やライフサイクルアプローチを導入することが重要です。循環型経済の導入は、資源の最大限の活用と同時に、廃棄物の最小化を目指す重要な手段です。製品のデザイン段階からリサイクルが容易な構造にすることで、廃棄物の再利用が促進され、新たな資源の生産が減少します。この循環型のプロセスが加速することで、持続可能な廃棄物管理が実現されます。ライフサイクルアプローチの導入は、製品やサービスの生産から廃棄までの全段階を総合的に考慮することで、製品のライフサイクル全体から発生する温室効果ガスの量を把握し、最適なリサイクル戦略を策定できます。製品の製造段階で使用されるエネルギーや資源の選択が、廃棄物の排出に与える影響を明らかにすることが可能です。
デザイン段階でのライフサイクルアプローチの取組みが重要であり、再生可能な素材の使用や製品の修理可能性の向上を通じて、製品寿命を延ばし、廃棄物の削減に寄与します。循環型経済の一環として、デザインにおける取り組みは、製品が廃棄される段階で発生する環境負荷を最小化する効果をもたらします。生産者責任が強調される循環型経済では、ライフサイクルアプローチを通じて生産者が廃棄物の最終処分段階までの負荷を予測し、対策を講じることが期待されます。この取り組みにより、製造業者は環境への負担を最小限に抑えつつ、持続可能な廃棄物管理を実現します。
循環型経済とライフサイクルアプローチは単なる廃棄物の管理を超えて、持続可能な社会への貢献を実現するための戦略的な手段となります。これらのアプローチの統合によって、地球環境に対する負荷を軽減し、未来の世代に良好な環境を提供することが期待されます。
どのようにファクター6を活用するべきか?
ファクター6のデータを活用することで、統合型廃棄物管理の戦略を更に洗練し、効果的かつ緊急性の高い取り組みを実現することが可能です。
セクター別排出データの分析と重点対策の策定: ファクター6に基づくセクター別温室効果ガス排出データの分析は、特定の分野がどれだけのガスを排出しているかを理解する重要なステップです。これにより、排出の主要な源泉を特定し、効果的な排出削減戦略を策定できます。例えば、ファクター6のデータに基づき、最も排出が多いセクターに対して優先的に政策や技術的手段を適用することで、短期間での温室効果ガスの削減が可能です。
国別データの比較とベストプラクティスの共有: ファクター6のセクター別排出データを国別に比較することで、優れた廃棄物管理プラクティスを実施している国々から学び、成功事例を共有できます。これにより、各国が最適な廃棄物管理戦略を確立し、効果的な取り組みを促進できます。ファクター6の比較分析は、国際的な協力と情報交換を強化し、持続可能な廃棄物管理のグローバルな枠組みを構築するのに寄与します。
未来の変化に対する柔軟な戦略の構築: ファクター6は将来の排出の予測にも活用できます。急激な人口増加や経済発展の影響を考慮し、未来の変化に対応できる柔軟な廃棄物管理戦略を構築する上で役立ちます。これにより、長期的な視点で継続的な排出削減が可能となり、持続可能な開発目標に向けた戦略的なアプローチが確立されます。
技術革新とイノベーションの促進: ファクター6のデータは、新たな技術やイノベーションの導入においても有益です。排出が多いセクターにおいて、最新の技術を導入することで、より効果的な排出削減が可能です。ファクター6は技術的な適用可能性を示し、新たなソリューションの探求を奨励します。
以上のようなファクター6の活用方法を踏まえつつ、統合型廃棄物管理が地球環境問題、特に気候危機対策への継続的な対応を推進するための総合的なアプローチを展開することが重要です。
有害性+量的管理は十分か?
汚染危機管理の大前提として、例えば廃棄物の有害性とその量的管理と言う2項目態勢で管理をする、と言うのが通常の考え方です。その上で、この特定の廃棄物の環境上適正な管理の構築・導入・実施をする、それを推進する、循環経済に組み込んでいく、と言うのが現在のSDGs的アプローチです。例えば直近の問題として、廃プラスチックをダウングレードリサイクルするとかPETボトルを水平リサイクルするとか、特定の素材のプラスチックを分子レベルまで解重合しリサイクルするとか、が現在の主流です。でもそこにはそのプロセスで排出されるはずの温室効果ガスが加味されていない、または今の時点では考えていない(予測計測・計算できない)というのが現実です。カーボンニュートラル時を構築するのであれば、これらのリサイクルプロセスも含めて、一部始まっているカーボンプライシングも廃棄物・リサイクル業界に導入していくべきでしょう。例えば高度なケミカルリサイクルを導入し、プラスチックとしてはリサイクルしているが、温室効果ガスを大量に排出するリサイクルプロセスとなると、もはや本末転倒ですね。
そこには温室効果ガス見える化が必要となりますが、これもそんなに簡単に出せる数値ではありません。でも今からこの温室効果ガス見える化、そしてそのデータも含めた数値をありとあらゆる取引に使う時代が来ています。廃棄物分野においても今までの有害性+量的管理に加えて、廃棄物処理プロセスから排出される温室効果ガス量も合わせて指標として使うことで、カーボンニュートラル社会により近づいていくのではないでしょうか?二酸化炭素の削減を目指した環境上適正な廃棄物管理と言う視点に立てば、例えば、廃棄物の管理型埋立処分場を、炭素固定型管理貯留場と言うようなイノベーションも可能かもしれません。いままでありきだったことを一旦脇において、新たな技術開発、それを推進・実施する政策等も必要になってくるでしょう。