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SDGsと国連、そして物語り

はじめに

今回の記事は、「SDGsと国連、そして物語り」で書いてみたいと思います。先日、とある都市のSDGsに関連するワーキンググループ会議に出席したので、その準備メモです。

このワーキンググループは、内閣府が推し進めているSDGs未来都市事業として採択された事業のワーキンググループです。内閣府の資料によると、SDGs未来都市というのは、環境モデル都市と環境未来都市を国内で推し進めるためのモデル事業であり、今まさしく日本全体が突き進んでいる2050年カーボンニュートラル社会・循環経済社会に向けた取組となります。世界共通単語であるSDGsを中心に置いて、日本の各都市が持っている持ち味を生かした、環境ど真ん中の社会を作り上げていくための制度です。

世界各国を見ても、日本は中央政府のリーダーシップの下、よくまとまっていると思います。これが日本の長い歴史で培われた和の心(輪の心、そして環の心)と思います。日本人は、何を言おうと、みんながまとまる力を心の底に持っています。SDGs未来都市事業は、この日本人の精神を活用して、自分の守備範囲を他の人たちの守備範囲とを組合わせて、SDGsを目指すという日本特有の取組です。

ワーキンググループお題1:市民にサステナブルな行動変容を促すための情報発信をする際に考慮・工夫していることは?

このお題は、僕にとって難しいです。僕の仕事上のお客様は193か国の政府関係者。直接各国の市民の皆さんと一緒にする機会があまりありません。でも、去年スタートさせたSDGsの旗振りをしている我々と、市民の一番近くにいる企業の皆様との連携プロジェクト、UNEPサステナビリティアクションを通して、色々な機会が出てきました。

でもここに行きつくまでには、私も職務を果たすためにクラシックな国際協力の仕事をしていました。僕の職場での国際協力は、いわゆるトップダウンアプローチ、金融業界の言葉を使えばトリクルダウンアプローチ、つまり、社会構造の上から下に向けて徐々に浸透させていくものです。僕の分野で言い換えると、各国の中央政府による環境政策を実施することで、社会構造の上から下に向けて全体にその政策が浸透していく方法。これが国連が誕生してから70年、UNEPが誕生してから50年間のスタンダードな国際協力・支援の手法。

でも、このアプローチの問題点としては、社会構造の一番下までそのアプローチが浸透しきらないこと。特に、中低位所得国や低所得国ではこの問題が顕著です。環境政策もしかり、金融政策もしかり、と言えるでしょう。

2000年のミレニアム開発以降は、このアプローチがボトムアップアプローチへシフトしています。政府の力も重要ですが、政府が作った国というステージ上の役者は一般市民なので、我々市民が日々の生活で地球に優しい行動をコツコツを行うことが重要です。これをすればすべての環境問題が解決するという、ミラクルなマジックはないので、その一歩一歩が世界を変えていきます。

そして今。我々市民が立っているステージはSDGs。表向きには国連が加盟国と作り上げた外交的なステージかもしれませんが、その本筋は市民の心が作り出したボトムアップアプローチのステージです。もはや国連や国が作ったステージは役に立たない時代に突入かもしれません。

しかも社会構造の一番下からのボトムアップアプローチというのではなく、この立体的な社会構造をぶち壊した、水平関係の社会構造に変化しています。言い換えると立体的な社会構造の下にある我々の生活ではなく、水平社会構造の上にある我々の生活。すなわち、政府が上だとか、市民が下だとかではなく、全ての肩書や帽子を外せばみんな市民なので、私たち市民の日々の暮らしを見つめなおそう、というのがSDGsの神髄でしょう。

自分たち一人一人が変われば世の中も変わる、というのが実感できる社会ではないでしょうか?それが、SDGs時代の水平社会構造上の社会です。

これを踏まえて、僕の職場でも、今までのような廃棄物管理に関する専門的な知識の情報発信に加えて、水平構造社会で横に広がるような情報をSNS等からじわじわ発信していくのが重要です。この水平社会構造にあった行動変容プロジェクトを実施していくのが、SDGs時代における国連の役割と言えるでしょう。

ワーキンググループお題2:2030年SDGs達成までに10年を切った。アクション出来るのは今しかないというタイミングで、これから市民にリーチするための情報発信の在り方とは?

先月開催した第5回国連環境総会のテーマは「持続可能な開発目標の達成に向けた自然環境のための行動強化」でした。インガーUNEP事務局長も2021年に求められているのは前進ではなく飛躍、つまり、行動は今です、と強調していました。これはSDGsだけに向けた言葉ではありません、パリ協定、その一つの道しるべとなる2050年にあるべき姿に向かって、我々は行動を今すぐに起こし飛躍的なスピードでのアクションが必要です。このタイミングを逃すと、未来の環境は恐ろしいものになるでしょう。

でも、我々人間は同じことを繰り返す、同じことを言い続ける生物です。約250年前に始まった産業革命以降、遅くとも19世紀後半には例えばイギリスのウィリアム・ジェヴォンズや、何人かの科学者や哲学者が、人間が作り出している物質主義上に成り立っている人口社会は、資源枯渇、環境への負の影響、最終的には地球環境の破滅をもたらすだろうと警告していました。でも残念ながら、世の中はそれを聞く耳を持っていませんでした。ちなみに、夏目漱石は1903年から1905年にかけてロンドン留学していましたが、大気汚染がひどく体調を何度も壊していたとか。

という歴史もあり、少なくとも150年以上は行動が必要と言い続けている私たち。その声が徐々に大きくなっていたのが2000年以降、一般市民へ浸透してきたのが2015年のSDGs採択以降で、市民がステージに立つことができるようになってからです。現実は、実際には、我々を含めて今すぐアクションするのは難しい、というのが現実社会。

貞観政要の教えにも書かれてあります、「善を善とし、悪と悪とするだけで行動しなければ意味がない」、つまり、考えていないで良いことには直ちに取り掛かるべし、悪いことは直ちにやめるべし、ということです。

多くの市民をSDGsのステージに自分の持っている役割で自ら立ってもらうためには、どうすればよいでしょうか?水平社会構造上の情報発信の在り方は、SNS等のメッセージや映像・写真等のテクニックも重要ですが、一番重要なのはその物語り。例えば、「国連が...このような目的で...SDGsを達成するために...このプロジェクトを実施します」、というと、多分「あっそうですか」程度の反応が多いです。ではこのように言ったらどうでしょうか?「ごみ問題で我々ができることは何でしょうか?身の回りにいっぱいあります。例えば、皆さんが何気なく使っているプラスチック容器。それを少しでも減らしてみませんか?それをみんなで一緒に実施するために、皆さんと共に国連はプロジェクトを実施します」。皆さんの生活の中で、何かのアクションがイメージできませんか?

国連として何かプロジェクトを実施したときに、そこに描かれている物語りが、「あっ、これは自分の生活だ」とか「なるほど、これを自分の生活に取り入れよう」と自分の生活に取り組んでもらえるような文脈を描けるようにすることが必要です。ナラティブからインタラクティブに、という感じです。

見た目にすごい、というのではなく、哲学的にその人の心・精神を押してあげる物語りが国連のプロジェクトにも求められています。それがじわじわ効いてくるのが2030年なのかもしれません。コロナ禍で変わった我々の心に共感する物語りが大切です。


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