3R Plusで循環経済を作ります
突然ですが「3R」はご存じでしょうか?僕がいる業界では当たり前のように使われていますが、普段の暮らしの中では多少は使われている単語と思います。そう、3Rはリデュース、リユーズ、リサイクルの総称、ごみ分別には欠かせないキーワードです。でもここで注意、皆さんもお世話になっているリサイクルショップとありますが、英語の意味では「リユースショップ」とならなければなりません。なんせリユースは再利用、リサイクルは資源(正確に言うと化学物質レベルでの資源)を再生利用を意味します。でも、日本では中古品ショップがリサイクルショップとなっています。
今回はこれに「Plus」をつけました。Rethink、Redesign、Resilienceが必要だからです。その論点も以下に書いています。
ということで、この3Rの記事を書いてみたいと思います。今さら、と思われるかもしれませんが、僕は環境省と国際連合地域開発センター(UNCRD)が毎年開催しているアジア太平洋3R・循環経済推進フォーラム第10回会合に参加することが決まりました。しかも上司に代わり基調講演を行うという大役です。なので、いつも通りにその準備を兼ねて色々と考えてみたいと思います。
今思い起こせば、前職時代にアジア太平洋3R推進フォーラムの立ち上げには少々かかわっていました。第1回が2009年、当時僕は裏方件国際的な廃棄物管理担当者として上司のサポートをしていました。そうそう、開催直前に第一子が産まれて新たな気持ちで臨んだ会議でした。
今年はウェビナー形式で開催される3R推進フォーラム。今年のテーマは、「Advancing Circular Economy in Asia-Pacific towards the SDGs under Covid-19 Pandemic」、日本語に訳すと「アジア太平洋地域におけるコロナ禍におけるSDGsに向けた循環経済の高度化」かな。開会挨拶には小泉大臣もご登場。僕の出番はウェビナーIIの「Lessons learned from Covid-19 pandemic situation towards building resilient cities (-> SDG 11) - What can 3R and circular economy offer at local, national and regional level? 」、日本語に訳すと「レジリエントな都市に向けたコロナから学んだもの - SDG11;に基づき、地方や国レベル、地域レベルにおいて3Rや循環経済は何ができるか?」です。そして僕の基調講演のタイトルが「Circular economy as a preventive solution during and post Covid-10 pandemic」、日本語に訳すと「コロナ禍とコロナ後における未然防止策としての循環経済」です。なんだかこう並べると、コロナ・コロナ・コロナと循環経済、コロナと循環経済とかけて〇〇と説く、その心は、という論点になると思います。
1.はじめに
ここ数年、環境問題の中心になってきたプラスチックごみと海洋ごみ問題。昨年から世界的にプラスチックの使用削減、プラスチックごみの適正管理、海洋ごみの現状把握など、プラスチック管理対策が世界中でしかも急激に導入されてきました。今まで見て見ぬふりしていたプラスチック問題、でも私たち人間はようやくこの問題を正面から見るようになりました。なぜこんなに遅れたのか?人間は地球の声を聴くのが苦手なのは誰もが知っています。でも聞こえないふりしているのも確かです、なんせ、軽くて透明でどんな形にもなり、しかも安い素材はプラスチックしかないからです。250年間作り上げてきた資本主義と本来守らなければならない私たちの地球環境のはざまが、ここにもありました。
でもこのプラスチック問題で本格的に目覚めたのが「直線から循環へ」、つまり循環経済。少なくとも、ここ日本で大量生産・大量消費社会に終止符を打ちべき手を打たれてから約20年経ちますが、さらにそれを高度化させるタイミングがようやく来ました。その潮流が、皮肉にもプラスチックごみ問題への対応のために、ちょうど加速度的になってきた時に、私たちは新たな課題に直面しました。そう、新型コロナウイルス。いまさらですが、これも地球の声ではないでしょうか?さすがの地球も怒り心頭なのでしょう、なんせ人間は気候変動もしかり、化学物質や廃棄物による地球の小さな声を聴かずにいたので、今回は最初から大声でそのメッセージを届けている、と私は思います。
新型コロナが世界的に大流行してからもうすぐ1年。この戦いはいつまで続くのでしょうか?コロナワクチンの開発のニュースも聞きますが、もう数年は続くと考えて行動したほうが良いでしょう。その中で、再び使い捨てプラスチック製品のニーズが伸びていています。新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込むためには、その一番の感染ルートの飛沫感染を防がなければなりません。それには、やはり、軽くて透明でどんな形にもなり、しかも安い素材はプラスチックが必要です。プラスチック素材のありがたさを改めて感じる人は多いのではないでしょうか?さらにプラスチックだけではなく、経済社会のパターンも完全に変わり、廃棄物の発生パターンも変わりつつあります。少なくとも一般ごみの発生量は急激に伸びているという報告も見られています。
この緊急事態の中、しかもこの戦いがいつまで続くかわからないこの日々で、3Rや循環経済に関係する身として何をするべきでしょうか?廃棄物分野から見た循環経済を構築するために、この経験を活かして、今後起こりうるであろう、新たな戦いに備えなければなりません。
2.現状は...循環経済とは言えない状態です。
循環経済に関する国際的な議論や先進的な研究から、どのように循環経済を目指すべきか、というのは徐々に見えてきています。それを現実にするために、直線から循環に向けた大きなうねりが経済社会に入り込んできています。でも現実はどうでしょうか?様々なデータを基に、それらを組み合わせてみたのがこのデータ。このため、正確性には欠けますが、一つの目安にはなるでしょう。2019年において、私たちは約800億トンの天然資源を採掘し、約700億トンを使用し、約500億トンの廃棄物を排出しましたが、リサイクル量は100億トン、採掘量と比較するとわずか12.6%です。このシナリオで2050年までを想定すると、リサイクル量はあまり増えません。逆に人口増や経済のボトムアップが進むため、資源採掘量や使用量は今後も増えていきます。既に私たちは地球1.75個分の資源を毎年使用しているので、私たちの経済社会を直線から循環に変えない限り、ますます地球の声は大きくなるでしょう。
もう一つ重ねたグラフを見てみましょう。これは年間約500億トン排出される廃棄物の量を分類したものです。圧倒的に多いのは約7割を占めている産業廃棄物、昨今問題視されているプラスチック廃棄物はわずか0.4%、日本でも始まりましたがレジ袋はわずか0.07%。また、コロナ禍において懸念されている医療系廃棄物に関しては全体の1.4%という数値です。
でも勘違いしないでください、全体量から見ればプラスチックごみや医療系廃棄物はたかが知れているので問題はない、ということではありません。プラスチックごみだけに注目してしまうと、木を見て森を見ず状態になってしまうことに気を付けなければなりません。プラスチックごみを直線から循環させることは重要ですが、廃棄物全体としてこの流れを作っていかないと循環経済を作り上げることはできません。2050年までの大きな流れを考えた場合、天然資源採掘量を少なくとも地球が1年間に生み出せる量の約570億トン以内にすること、そのためには人間が使う資源量の削減・効率化、そして廃棄物のリサイクル量を上げなければなりません。
おそらくこのグラフを見て、一部の人はこう思っているでしょう。「廃棄物をリサイクルするビジネスチャンスはまだここにあり」。世界的に見れば90%もの廃棄物が捨てられているので、ここにビジネスの泉はあります。では世の中を直線から循環にするためのこの資源の泉に対して我々がするべきことは何でしょうか?
3.循環経済に対するマインドを変えられるか?
皆さん、この答えをよく聞きませんか?「そのリサイクル、採算性はあるのですか。」。この考え方をやめにしませんか?この考えだったからこそ、不法投棄や不適切な廃棄物管理により約2兆円もの環境汚染・健康被害コストが生じています。廃棄物処分にお金がかかるので、管理されていない野ざらしの場所に廃棄物を投棄、めんどくさいからレジ袋をその辺にポイ捨てする。その年間の負の結果がこの2兆円なんです。一度汚染された環境は100%元の姿には戻らない、一度失われてしまった生物多様性は二度と元に戻りません。例えば水俣病。当時あの企業が1億円かけて排水処理施設を建設し、適正に水銀で汚染された排水を処理していれば、賠償金額等で4000億円払わないで済んだのです。私たちは同じストーリーを今でも繰り返しています。
リサイクルが高いのは当たり前。その高いというのはリサイクル施設での資源化プロセスで必要だから、という意味もありますが、もっと大事なのは、この2兆円もの環境・健康被害を起こさないために必要な予防策だから高いのは当たり前と認識しなければなりません。皆さん、なぜ高い保険金を、未来に起こるかもしれない病気にかけているのですか?自分の命を守るためですよね。では、なぜ、私たちの地球を守るために少々高いコストを負担しないのですか?私たちが約1万年かけて作り上げてきたこの都市社会、そして約250年かけて作ってきた資本経済社会で肌感覚として身に着けてしまったこのマインドを変えなければなりません。変わらない限り循環経済は成り立ちません。
コロナ禍において世の中は大きく変わりつつあります。天然資源を搾取するうえで成り立ってきた資本主義も見直すべきだという声も出てきています。このコロナ禍において世界が大きく動き出している時こそが、循環経済を導入する別となタイミングではないでしょうか?
4.コロナ禍だからこそ循環経済を現代社会の中心に置くべき
コロナ禍であろうがなかろうが、76億人の人々は毎日ごみを出します。この76億人が生活ごみとして出す量が年間約20億トン、そのうち半分は管理されていない処分場や野焼きされています。新型コロナウイルスの世界的大流行による廃棄物排出パターンも変わってきました。完全に把握するにはもう少し時間が必要ですが、少なくともマスク等の個人防護用具や医療系廃棄物の増加、そして、やはり衛生面で重要な役割を果たすプラスチック製廃棄物が増加傾向にあるのは間違いありません。しかもこの戦いはやがて一年を超え、何年続くかわかりません。この1年間は、緊急事態措置として今ある廃棄物管理施設や活用できるシステムをフル稼働させ対応してきましたが、次の手を打たなければなりません。しかも、このまま自然資本を食い尽くしていくこの現代社会を続けるのであれば、きっと将来も同じような緊急事態を招くことになるでしょう。
それを防ぐためにも、3Rに加え、現代社会をRethinkしてRedesignする、そして私たちの未来社会をResilienceにする、という新たな3R Plusが必要です。その中心となるべき構造が循環経済です。では、この新型コロナウィルスの世界的大流行から学ぶべきこととは何でしょうか?
二つあります。一つ目はもちろん循環経済を社会の中心に置くことです。もちろん経済的な観点からも重要ですが、廃棄物管理の点でも重要です。先ほどのデータでもお示ししましたが、リサイクル率はわずか12%。このリサイクル率を伸ばしていくとともに、不適正な廃棄物管理から生じている年間2兆円もの環境汚染・健康被害を抑えていかなければなりません。先ほど議論したように廃棄物の適正なリサイクル・処理にはコストが必要です。でもそのコストというのは明らかにし、リサイクルや処理にコストの方が環境汚染・健康被害コストよりも圧倒的に低くなります。これを基本コンセプトとした循環経済を確立させない限り、今後も、我々は地球の限界をはるかに超えた社会を続けていくことになります。
二つ目は将来的に起こりうるこのような世界的な新型コロナウイルスを防ぐためにも循環経済が必要です。先ほども議論したように循環経済を構築してくためには、環境上適正な廃棄物管理を実施してかなければなりません。世界中から排出される廃棄物の少なくとも半分近くは適正に処理処分されていません。つまり、不衛生状態を引き起こしている原因になっています。また、循環経済の裏舞台では、世界には1000万人以上ものウェストピッカーの人が処分場で資源ごみの回収をしています。また、このような処分場には様々な動物も入り込んでおり、感染性ウイルスの発症の温床ともいわれています。また清掃員がコロナでなくなったというニュースも見られることから、循環経済の末端にいるこのような人たちへの感染リスクは危険レベルであると言えます。このような末端にいる人たちも守るような循環経済が必要です。
5.3R Plusでアップデート
今まで使ってきたReduce、Reuse、Recycleに加えて、今はRethink、Redesign、Resilienceが必要です。ここ日本や欧州では循環経済を目指してこの20年間様々な取組が行われてきましたが、まだこの先の道のりには険しさを感じます。この2020年という年は、改めて地球全体で循環経済を構築しなければならないことを再認識させられました。皆さん、この緊急事態においても今までの天然資源を搾取する社会に依存するのですか?安いからという理由で今までのものを使い続けますか?環境や健康を守るには、事前対策を講じた方がコスト的にも心理的にもすべての点において一番の最善策です。この最善策をするために、私たちの経済社会をRethinkし、Redesignし、そしてResilienceを持たせるためには、循環経済を中心とした社会に転換しなければなりません。