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未来を考えると楽しい、それは地球環境問題の解決の一歩です。

ここ数年、「12月になったけど、なんだか12月という感じがしないなぁ」と毎年思っていましたが、今年はさらにそれを強く感じています。ここ大阪では、ついに先週、新型コロナウイルス大阪ルールの赤信号が点灯。我が家は毎年大阪街中のイルミネーションを見に行くのですが、今年は行けそうにありません。

でも本来の12月というのはどういうことか、と考えてみました。僕が思い描くのは、小学生だったころの冬休み直前のあのわくわく感。クリスマスプレゼントはこれが欲しくて、お正月はおじいちゃんおばあちゃんの家に遊びに行って、いとこ達と遊んで、お年玉もらって、と楽しいことが始まる直前が12月。ということは、大人になると、必然とこのわくわく感が消えてしまい、ざわざわ感やせわしなさ感になってしまうので、「なんだか12月という感じがしないなぁ」と思うのかもしれませんね。

さて、今回の記事は、少々長めですが、今週某大学での行った講義の準備ノートです。気候変動問題を中心とした地球環境問題、身近なプラスチックごみ問題、それを改善するためには政策や技術も必要だが、私たちの人間の心も磨かないといけない、というメッセージを届けようと思い、講義させてもらいました。なお、関西にある大学なのですが、このゼミの授業はすべて英語。実は最近このような依頼が増えてきています。国連職員としては、多くの若い学生さんたちが世界で活躍することを目指すようになってほしいと思います。僕自身もこのような講義させていただく良い機会に恵まれ、楽しくお話しさせていただきました。

1.私たちの未来はどこにあるのでしょうか?

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私たちの未来はどこにあるのでしょうか?それは誰が作ってくれますか?大学でしょうか?政府機関でしょうか?国連機関でしょうか?未来というと誰かが作ってくれそうな気がしますが、全ての未来は自分たちの手の中になります。皆さんはどんな未来を作りたいですか?

宇宙が誕生してから138億年後の未来が今日です。地球が誕生してから46億年も未来が今日です。ホモサピエンスが誕生してから約20万年後の未来が今日です。そして皆さんが誕生してから数十年後の未来が今日です。当たり前ですが、すべての出来事がつながっている一番先端に私たちは生かされています。

今私たちが手にしているすべてのものは、過去の歴史を物語っています。今私は画面を通して皆さんにお話ししています。これは過去数十年かけて開発していたテクノロジーが私たちの生活に入り込んでいる結果です。Zoom授業や会議は今では当たり前です。それも、過去数十年のそれぞれの瞬間で考えられたもの、必要なもの、開発されたものの中から生き残った技術、つまり私たちが未来を追い続けてきたこの瞬間の結果を使っています。でも地球の歴史からすると、人間が科学技術を開発したのはたった250年間。地球の歴史46億年を1年に凝縮した地球カレンダーで言えば、わずか2秒間です。

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少し目線を外に広げましょう。今私たちが直面している地球規模課題は何でしょうか?新型コロナウイルスです。今から1年ほど前、その火種は地球の片隅でくすぶっていましたが、それを気にしていたのはほんの一部の人たち。ここ日本に住んでいる人は誰も自分と関係してくるとは思わなかったでしょう。皆さん、思い出してみてください、1年前の今頃。何をしていましたか?12月に入って、街中がクリスマスモードに入ってきらびやかになり、心がワクワクしていたころだと思います。では今年はどうでしょうか?私のいるお隣の大阪では外出自粛となっています。この事態、誰も1年前には想像すらしていませんでしたよね。でもこれもすべての過去がつながっている結果です。

地球の声はものすごく小さいのです。小さくても、人間以外の動植物にはよく聞こえています。人間だけがその声をなかなか聴くことができません。250年前、その声は徐々に聞こえ出してきました。ここ日本でその声が顕著になったのは、1950年代後半から1960年代にかけての4大公害時代(水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市喘息)。少なくとも、日本人はここでその地球の声を聴くことができるようになったと思います。でも地球レベルではどうでしょうか?そこからもう20~30年ほどの時間が必要でした。1990年代に入ってようやく、オゾン層問題、酸性雨問題、気候変動問題、化学物質管理問題が地球規模課題として取り上げられられるようになりました。

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さらにそこから20年経ったのが、2020年の今日です。地球にしてみれば、過去250年間声を出し続けてきましたが、人間だけがその声を真に受け止めませんでした。多分、地球が大声を出し始めたのでしょう、新型コロナウイルスを通して、人間の皆さん、本当にそれでよいのですか、と。地球が声を出し始めたのも、人間が科学技術を開発しだした250年頃前から、つまり地球カレンダーではたった2秒間の出来事です。地球が誕生してからの歴史を考えると、今の現状は大事故と言えるでしょう。

過去のすべてが全部つながっている。そこに私たちは生かされている。過去の人たちがその時その時でみることができた未来を目指してきたのが、この2020年の人間社会です。少なくとも日本にいれば豊かな生活を送れますが、それは過去数億年に蓄積した太陽エネルギーをたった2秒間で使い果たすような消費社会。

もう一度最初の質問をします。私たちの未来はどこにあるのでしょうか?私たちの手の中にあります。少なくとも、今を生きる私たちは、地球環境問題が起きていることを知っています。その上で、皆さんはどんな未来を創りたいですが?答えは一つしかないと思います。自然と一体化した人間社会、これは本来あるべき姿です。

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3.UNEPの仕事

私は環境に特化した国連機関、国連環境計画(UNEP)で働いています。国連の仕事は、皆さんが想像されるように、地球規模課題対策の最前線に立っており、193か国の加盟国とともに様々な地球環境問題に取組んでいます。もちろん、地球環境問題に関する科学的・政策的・学術的な専門知識を基に、各国の政府関係者や専門家の方と、多岐にわたるプロジェクトを実施しています。でも、このような専門知識に加えて、地球環境問題に挑むためには違う分野の知識も必要です。その知識は、日本風に言えば文系の知識、このような専門分野に枝分かれする前の哲学や古典が必要となります。

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なぜか?今私たちが手にしている地球環境というのは、過去の歴史がすべてつながっており、その時のそれぞれに人たちが見ていた未来に私たちは立っているからです。地球環境問題は多岐にわたる専門分野の知識が必要ですが、その真相には哲学的な考え方が必要だったり、古典から重要なヒントを得られることが多々あります。意外でしょう?今風でいえば、リベラルアーツ的に学び、そこから自分の考えを持つことが、私たちが手の中にしている未来を創るために重要です。

私が勤務しているのはUNEPの廃棄物部署で、大阪にある国際環境技術センター(IETC)です。UNEPの本部はアフリカ大陸のケニアの首都、ナイロビにあります。南アフリカ、エチオピア、パリ、ジュネーブ、コペンハーゲン、モスクワ、北京、バンコク、サモア、ワシントンDC、ニューヨーク、パナマ、ブラジリア、モンテビデオなど、世界各地に事務所があり、約700名ほどの職員が働いています。日本人職員は約20名程度です。

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4.気候変動問題 - 過去250年間のつけ

今まさに、デジタル化社会は加速度的に進んでいきます。この現代社会の中で、明日らか消費電力を削減するために、スマホやパソコン、ネットワークの接続を半分に減らすことはできますか?ここ日本は、何もかもが恵まれています。おなかがすいたらコンビニに行けば何でも買えます。でも世界では約7億もの人が食糧難なので、あなたのその食事を明日から半分に減らすことはできますか?そうすれば日本に輸入される食品が食糧難の人に回せます。

これは少々極端な例ですが、今まさしくこれに近い発想を用いなければ気候変動問題に対応することは全くできません。つまり目的を達成するための科学的な根拠による目標と私たちの普段お暮らしに大きなギャップが存在しています。数字で見るとそのギャップは明らかです。パリ協定に2℃を達成するための数値、そしてその後のデファクトスタンダードとなっている1.5℃を達成する数値、そして多くの国が必要と感じている経済発展計画をこのまま進めていった場合の二酸化炭素排出量のギャップは大きく開いています。つまり、世界は気温上昇を1.5度未満に抑える軌道から大きく外れて、化石燃料の生産を続けている、このままいくと、2030年には1.5度未満に抑えるために制限するべき量の倍の化石燃料を生産することが予想されています。

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実はこの予想も、一時期は楽観的な考えがありました。それは新型コロナウイルスが今までの経済社会を止めたこと、人間の動きを止めたこと、都市がロックダウンになったことから、化石燃料の使用量や二酸化炭素排出量がこのまま下がるのではないか、ということです。今年の4月や5月には、普通であれば真っ黒な空が消えて青い空が見えたとか、今まで見えていなかった当区の山々が見えるようになった、という記事を見た方もいると思います。このままいけば、気候変動問題も解決するのではないか?

でもそれはつかの間の妄想にしかすぎませんでした。ロックダウンで経済社会が止まると大打撃を受けたのは私たち自身。少なくとも日本の完全失業率も上昇中、少なくとも200万人もの方が現在失業中です。世界でもこの影響は共通して出てきており、国の収入レベルに関係なく、低賃金労働者、女性、非正規雇用者に直撃しています。例えば、ILOの報告によれば欧州さえも男性の賃金の削減割合よりも女性の削減率が高かったという報告もあります。またコロナの影響により人道支援が必要な人が2億人以上も増えたとの報告もあります。予防接種を受けられない、家を持っていない、衛生状況の良くない環境に住んでいる人・働いている人などの貧しい人たちに顕著に負の影響が出ています。やはり経済活動を進めなければ、という強い経済対策を打ってきているのがここ最近の現状です。

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この結果として、多くの国ではコロナ禍においても経済を進めていくために、コロナ以前よりもさらに強力な経済政策の立案・導入を始めています。例えば、2020年11月において、G20先進各国政府は、化石燃料の生産を進めるために2330億ドルを拠出していますが、再生可能エネルギーやエネルギーの効率化といったグリーンエネルギーへの拠出はそれ以下の1460億ドルにとどまっています。さらに、その他の国もこの傾向が見られます。コロナ対策は緊急事態として対応していくが、同時に、この250年間で築き上げた社会の基盤をベースにした経済支援や復興パッケージを活用していくのが基本方針となっています。つまり、今後も化石燃料に依存した経済社会をベースとしている国が現実的には多くなっています。

少なくとも日本や欧米はデファクトスタンダードとなっている2050年の脱炭素化社会に向けて今後シフトしていくのは間違いありません。なんせ、既に高所得国・先進国である欧米諸国は資本での経済を発展する余地がなく、経済が安定状態に入っているので、別のファクターでの経済発展が必要です。なので、脱炭素化社会・循環経済・分散型社会がパッケージとなったグリーンニューディールに進むのは自然です。

でもまだまだ消費が伸びるその他の国はどうでしょうか?気候変動は理解しているけど、これらの国にはグリーンニューディールを目指すインセンティブがかけています。なんせ作れば売れる、そして経済が伸びる、数十年前に日本や欧米諸国が通っていた社会の道のど真ん中なので。ここにも国際的なギャップが見られます。

では最初から脱炭素化を目指した循環経済を導入すればよいのではないか?という意見はもちろんあります。でも、循環経済というのは、この250年、もっというなれば1万年前の農耕が始まって都市が作り出してきた、人間の社会の型とは全く違うのです。地球環境問題に気が付いたのはほんの数十年前、残念ながら弱者は負のスパイラルから逃れることが非常に難しいというのが今私たちが手にしている世界経済です。そこから脱出できるのが資本主義、というのがいまだに世界の潮流でしょう。

このままいくとどうなるでしょうか?

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・2030年代:地表の氷が解け続け、海面が最大20cm上がる。90%サンゴ礁が絶滅の危機を迎え、60%は既に絶滅している可能性あり。気候変動のより農作物の収穫率が下がり、さらに1億人の人が最低貧困層(1日の生活費が150円程度以下)に陥る。大気汚染等で年間25万人もの人が命を奪われる。

・2040年代:世界の平均気温が1.5℃上昇する。バングラデッシュ、ベトナム、タイではより多くの洪水が発生する。全人口の8%(約7億人)は飲料水にアクセスができなくなる。夏場、北極圏内から氷と雪が完全に消える。海水面は30cm上昇する、という事は日本でもそれを実感するようになるので、台風や豪雨時により大規模な水害が起こりやすくなる。

・2050年代:20億人の人々は、年間30日程度、気温が60℃になる激暑を耐えなければならない。世界中で大気汚染がひどくなり、大気汚染から身を守るために世界中の多くの人は日々マスクをつけなくてはならなくなる。世界各地で洪水が多発し、約1億4千万人の人々が住居の移動をしなくてはならなくなる。日本でもより強力な台風や豪雨に見舞われ、国内でもさらに大規模な水害が発生しやすくなる。

・そして、2100年以降:世界全体では気温が4度以上上昇する。日本を含めた北半球ではそれ以上の気温となる。海水面は1メートル程度上昇する。水俣の沿岸部の一部は水没、東京や大阪でも水没してくるエリアが多くなる。サンゴ礁はほぼ絶滅。大部分の昆虫も絶滅し、それらにと共存していた農作物も育たなくなる。地表の40%が砂漠化、スペインの南地方とポルトガルは砂漠化する。アメリカでは九州の面積の8割ぐらいが毎年山火事になる。

このまま何もせずに過ごせば、これが現状です。

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気候変動対策には、今ある全てのインフラをグリーンテクノロジーに変えていかなければなりません。そのためには今後世界レベル30年間で約1京円の技術開発・インフラ設備投資がいると言われています。ちなみに、日本の一般会計国家予算は約100兆円、つまり100年分の金額に相当する環境技術投資が必要です。数字が大きすぎてもはやよくわかりませんが、とにかく莫大なお金が環境問題の事後処理として必要であるには間違いありません。事後処理はお金がかかるのです。

僕は経済学者ではありませんが、この1京円を自分なりに考えてみたいと思います。まずは、この1京円は過去250年間の環境汚染つけなので、1京円を250で割ると年間40兆円。この40兆円を先進国数の80で割ると5000億円となります。つまり先進国が年間5000億円負担しなければなりません。ちなみに日本の一般会計国家予算は約100兆円程度なので、年間一般会計国家予算のたった0.5%を環境投資すればよいと言う解釈もできます。0.5%ならたいしたことではないレベルではないでしょうか?

別の観点からこの5000億円を考えてみましょう。それは、水俣病から学んだ経験から考えることです。水俣病の場合は、当時排水処理設備に1億円投資し適正に排水処理をしていれば未然に防げたと言われています。でもそれをしなかったので、水俣病の総被害額は約4000億円、つまり未然対策よりも事後対策の方が4000倍もかかったことになります。ここに重要なポイントがあります、全ての環境問題は事前対策を取った方が圧倒的に低いコストであるという事。と言うことは、すでに起きている環境問題には残念ながら1京円ものお金を過去のつけとして使わなければなりませんが、これから環境問題を未然に防ぐ手を打つことが重要です。

5.一番身近な環境問題。それはごみ

さてここから視点を身近なものに移して地球規模課題を考えてみたいと思います。地球上には約76億人の人が住んでいますが、この76億人の毎日の生活で共通する環境問題は何でしょうか?いくつかあると思いますが、その一つはごみ問題です。住んでいる国が違くても、生活習慣が違くても、76億人すべての人が毎日何らかのごみを出します。ちなみに、皆さんは今日朝起きてからどんなごみを出しましたか?

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例えば、日本に住んでいる人の排出するごみの平均値は、年間で400㎏ぐらい。一日1キロちょっと出しているような感覚です。統計的に調べると廃棄物排出量というのはその国の経済レベルと相関関係にあります。つまり高所得国で消費社会への依存度が高ければ高いほど、廃棄物を排出量も多くなる、という、この250年間で作られてきた資本主義社会をある意味反映している結果となります。廃棄物排出データも資本主義社会におけるダッシュボードの一つの指標になります。ではここから詳細なデータを見ていきたいと思います。

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この排出されている廃棄物のすべてが日本のように適正に処理されていれば良いのですが、現実はそうではありません。その状況を世界銀行のGNIカテゴリーに分けるとそのギャップが明確です。低所得国で排出される一般ごみのほぼ90%は管理されていない処分場に運ばれて投棄され、その一部は野焼きされています。でもその傾向はある程度経済が豊かになってきている高位中低所得国でも見られます。所得レベルが高くなるにつれて、リサイクル率、廃棄物発電によるエネルギー回収や焼却が増えてきていますが、それでも高所得で排出される一般廃棄物の半分は埋め立て処分されています。つまり、地球から掘り出した資源を人間社会で使用した後は、そのままごみとして捨てる、という、資源の一方通行社会です。

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では今度は一般廃棄物の今後の処理処分形態をグローバルレベルで見てみたいと思います。2020年に排出される一般ごみの量は約21億トン。2050年には約26億トンまで増加することが見込まれています。今後30年間で廃棄物管理システムの向上や技術の導入・高度化が行われ、単純埋立の割合は減りますが、そもそもの排出量が増えてしまうため、結果として単純埋立量も増えてしまいます。リサイクル率も増えていきますが、30年経ってもわずか4%の増加しかなりません。

先日日本でも菅総理大臣が、2050年までに脱炭素化を目指すと宣言しました。先進国の中では少々出遅れた感じはしますが、これから日本も大きく脱炭素化に向けて動いていくことが見込まれます。脱炭素化社会を目指すうえで3つの重要な分野があります。それは、エネルギー部門を中心とした脱炭素化、分散型社会の構築、そして循環経済の構築です。循環経済というのは、地球を掘ることなく今使っている資源を人間社会で回していく、つまり今までの資本主義社会から循環型経済主義に変革していくことが求められています。このように直線から循環への社会の変革が本当に起こるのでしょうか?廃棄物管理関係のデータを見ただけでは、到底、世界的には2050年までに循環経済社会への変革は遂げられません。ではどうすればよいでしょうか?それを考えるためにもう一つのデータを見てみましょう。

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循環経済に関する国際的な議論や先進的な研究から、どのように循環経済を目指すべきか、というのは徐々に見えてきています。それを現実にするために、直線から循環に向けた大きなうねりが経済社会に入り込んできています。でも現実はどうでしょうか?様々なデータを基に、それらを組み合わせてみたのがこのデータ。このため、正確性には欠けますが、一つの目安にはなるでしょう。2019年において、私たちは約800億トンの天然資源を採掘し、約700億トンを使用し、約500億トンの廃棄物を排出しましたが、リサイクル量は100億トン、採掘量と比較するとわずか12.6%です。このシナリオで2050年までを想定すると、リサイクル量はあまり増えません。逆に人口増や経済のボトムアップが進むため、資源採掘量や使用量は今後も増えていきます。既に私たちは地球1.75個分の資源を毎年使用しているので、私たちの経済社会を直線から循環に変えない限り、ますます地球の声は大きくなるでしょう。

このデータを見たうえで、自分の生活の中で何か削減できそうな資源はありますか?皆さんが毎日捨てるごみを考えてみるとこの質問の答えが隠れています。プラスチックごみ。これが普段の生活の中で一番簡単に減らすことができるごみです。日本でも始まりました、レジ袋有料化。今まで当たり前のように使用していたプラスチック製のレジ袋が、今年7月から有料化になりました。皆さんも、もちろん使っていますよね、マイバック。消費社会においてお客様のサービスや利便性のために行っていたレジ袋無料サービス。資本主義社会の大量生産・大量消費・大量廃棄物時代では至って当たり前でしたが、今目指さなければならない循環経済においては、明らかにおかしな状況です。だってたった1回だけ使って捨てる、というのは資源の完全無駄ですよね。

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ここでプラスチック関係のデータを見てみましょう。年間約21億トン排出される都市ごみのうちプラスチックごみは約11%の約2.1億トンぐらいです。この2100万トンのプラスチックごみのうち、プラスチック製レジ袋は約16%、つまり約3400万トン。数字で見れば、プラスチック製レジ袋をやめてマイバックにすることで減らせるプラスチック量は、単純に言えばこれだけ。プラスチックごみのわずか16%にしか過ぎないのです。この16%を皆さんはどう考えますか?この議論は少々後に行いますので、皆さん考えてみてください。ちなみに、ここ最近気候変動に並んで喫緊の地球規模課題となっている海洋ごみ問題ですが、プラごみの海洋への流出は約600万トンぐらいです

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さてこのグラフにも戻りましょう。でももう一つグラフを重ねます。これは年間約500億トン排出される全廃棄物の量を分類したものです。圧倒的に多いのは約7割を占めている産業廃棄物、昨今問題視されているプラスチック廃棄物はわずか0.4%、日本でも始まりましたがレジ袋はわずか0.07%。また、コロナ禍において懸念されている医療系廃棄物に関しては全体の1.4%という数値です。

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さて皆さんにもう一度同じ質問をします。今私たちが日々取り組んでいるマイバック全廃棄物量のうち、全部削減できたとしても微々たる量。皆さんどうお考えですか?

レジ袋は微々たる量だから無視してよい、ということでは決してありません。ここにプラスチック製レジ袋をなぜ有料化にしたのか、という本当の意味が隠れています。それは、プラスチック製レジ袋というのは環境問題の中でも一番身近にあるもの。それをやめることによって、他の環境にやさしい行動をとってみようと行動変異を起こすことが、本当の意味です。マイバックを持つことで環境問題に興味を持ってもらうこと、そこからマイボトルを持つとかペットボトルの飲料水を買うのをやめるとか、車に乗らず自転車にするとか、このように自分自身で問いを立てて自分でできる答えを見つけて、それを実行していくようにするためのはじめの一歩が重要です。例えば、関西大学の100人の学生さんがそれぞれのアクションをする、1億2千万人の日本人すべてがアクションをする、76億人の人が毎日何らかの環境にやさしいアクションをする、これが地球規模課題を解決するために一番重要なんです。地球環境問題を解決するためのミラクルなマジックはありません。だからこそ、みんなで自分の生活を見直して、環境にやさしい行動を毎日続けることが必要です。皆さんもマイバックを持つということから、自分の生活全体を見直してみませんか?

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6.環境汚染コストを考えてみる

ではここで廃棄物管理からの環境汚染はどれくらいなのかを考えてみたいと思います。廃棄物の不適正管理からの環境汚染コストは年間2兆円(200億円)です。今回は不適正処理の中でも気候変動にも直接かかわる野焼きに注目して考えていきたいと思います。

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まずなぜ我々は廃棄物の焼却をしてきたのか?そのメリットは、有機性廃棄物の量を劇的に削減する、病原菌(Pathogen)等も殺すことができる、安い処理方法であるからです。歴史的に見ても廃棄物の焼却処理は1890年頃から行われています。廃棄物焼却と言うのは、歴史的に見ても長年にわたり行われていますが、人間はいつも同じことを常に忘れます。すべての環境問題に共通するもの、それは共有地の悲劇。メリットに隠れているデメリットを見ずに行動してしまいます。水俣病はまさしくそれを目のあたりにした例でした。

廃棄物焼却もその一つ。メリットはたくさんありますが、人間はそのデメリットを気が付くには相当時間がかかります、つまり地球の声を聴くことができません。高所得国で廃棄物焼却処理が本格的に始まったのは1950年代後半から。ダイオキシン問題が浮上したのはその40年後。そこから20年かけてようやくダイオキシンが発生しない施設で廃棄物の焼却処理が始まり、焼却処理の高度化・高効率化が実施されてきています。

では、なぜ我々は廃棄物の野焼きをするのであろうか?答えはシンプルに一つ、廃棄物の量を減らすこと、オープンダンプ処分場で多くの廃棄物を受け取れるようにすることです。

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一般ごみは年間で21億トン排出されておりますが、その半分はオープンダンプと言われている、ということは10.5億トンは少なくとも低所得国や中低所得国でオープンダンプされています。10.5億トンのうちの約60%、約6.2億トンが野焼きされているという情報もあります。このほとんどは有機系廃棄物、つまり燃やすと消える(科学的には分解される)ので、廃棄物を燃やすことで最大そのボリュームを8割も減らすことができます。数字的には野焼きによって約5億トンの廃棄物量を減らすことができることとなります。これは世界で排出される一般ごみの1/4にも達し、廃棄物管理としては、量の減少にはかなり貢献しています。

しかも、廃棄物の野焼きは最も安い処理方法である。だって火をつけてほっておくだけで、廃棄物の量を8割削減することができるし。低所得国において、例えば廃棄物を管理型処分場に処分して場合は廃棄物1トンあたり20ドル程度(高所得国は100ドル程度)かかるが、オープンダンプは2から5ドル程度、野焼きのコストはほぼゼロ。コスト的に見ても1/5程度である。

廃棄物の野焼きによる汚染コストはどれだけという数値はないが、関係するデータを用いで私個人的に算出すると、一般廃棄物の野焼きによる環境汚染コストはUSD60-80billion、それを野焼き1トンあたりに換算すると、1トン当たり100ドルから130ドル。

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低所得国において管理型廃棄物処理場における管理コストは1トン当たり20ドル程度。オープンダンプと野焼きの場合は、1トン当たり2から5ドル程度。でも1トン当たり100ドルから130ドルの環境汚染を引き起こしているんです。まさに、水俣病と同じストーリーが今起きているのです。オープンダンプと野焼きはその時点のコストは確かに安いが、汚染コストを考えると一番安くない。むしろ管理型廃棄物処理場での管理コストのほうが安くなる。これが現実です。

資本主義社会は経済的利益を追っていく社会構造です。でも目の前の経済的利益を得ることしか見ないと、その負の影響を見ることができません。しかも、私たちは過去に経験していたようにその負の影響が見えるようになるには、目の前の利益を得てから何十年も先になります。この瞬間、経済的な利益を得たとしても、トータルで見れば実はマイナスである、事が事実でしょう。水俣病の件そうです、気候変動もそうでしょう、今後30年間で8000兆ドルもの環境投資がいると言われています。

廃棄物分野も同じです。私は職業柄よくこの質問を聞きます。「そのリサイクル、採算性はあるのですか。」。この考え方を変えなければなりません。この考えだったからこそ、不法投棄や不適切な廃棄物管理により約2兆円もの環境汚染・健康被害コストが生じています。廃棄物処分にお金がかかるので、管理されていない野ざらしの場所に廃棄物を投棄、めんどくさいからレジ袋をその辺にポイ捨てする。その年間の負の結果がこの2兆円なんです。一度汚染された環境は100%元の姿には戻らない、一度失われてしまった生物多様性は二度と元に戻りません。例えば水俣病。当時あの企業が1億円かけて排水処理施設を建設し、適正に水銀で汚染された排水を処理していれば、賠償金額等で4000億円払わないで済んだのです。私たちは同じストーリーを今でも繰り返しています。

リサイクルが高いのは当たり前。その高いというのはリサイクル施設での資源化プロセスで必要だから、という意味もありますが、もっと大事なのは、この2兆円もの環境・健康被害を起こさないために必要な予防策だから高いのは当たり前と認識しなければなりません。皆さん、なぜ高い保険金を、未来に起こるかもしれない病気にかけているのですか?自分の命を守るためですよね。では、なぜ、私たちの地球を守るために少々高いコストを負担しないのですか?私たちが約1万年かけて作り上げてきたこの都市社会、そして約250年かけて作ってきた資本経済社会で肌感覚として身に着けてしまったこのマインドを変えなければなりません。変わらない限り循環経済は成り立ちません。

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コロナ禍において世の中は大きく変わりつつあります。天然資源を搾取するうえで成り立ってきた資本主義も見直すべきだという声も出てきています。このコロナ禍において世界が大きく動き出している時こそが、循環経済を導入する別となタイミングではないでしょうか?

6.未来を考えると楽しい、それは地球環境問題の解決の一歩です。

私たちの未来はどこにあるのでしょうか?その未来は誰が創ってくれますか?未来は自分たちで考えることができます。でも未来を創る前に、過去の結果としての現状を理解しましょう。その現状を理解するためには、小さな小さな地球の声に耳を傾けなければいけません。地球はいつも何かをささやいています、人々に向けて。

でもそれは突然大声になりました。人間の皆さん、本当にそれでよいのですか?この声を正直に正面から受け止めることが、未来を創るはじめの一歩です。その声を自分の問題とすること、自然と一体化になること、そして未来の人間社会が自然と一体化になる事、これを目指して進まなければなりません。

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