【日本酒】曖昧になった季節酒、どうすればいいのか
ごきげんよう、しまてるです。
日本には四季があり、同時に四季ごとの文化や催事が多数存在します。
しかも、四季の中にさらに細かな気候が表現された稀有な国でもあります。(初夏や梅雨、晩秋、果ては一日のみの夏至など。)
そこに寄り添うように季節ごとのお酒が存在し、それは食文化にも大きな影響を与えています。
しかし、現代の日本酒文化においては、この季節のお酒の概念がとても曖昧になっているように思うのです。
なお、防衛線のように感じられてしまうかもしれませんが、決して季節のお酒の概念等を否定したり蔑むものではありません。これだけは明示させて頂きます。
それでは、今回もお付き合い頂けたら幸いです。
~代表的な季節のお酒~
この話をさせて頂くにあたり先ずは、みなさんに季節のお酒を知って頂く必要がございます。代表的な酒類は下記の通りです。
・新酒:11月頃~2月初旬に出荷、その年の最初に出来たお酒。しぼりたてなどといった名称を付けられている事が多い。
・春酒:2月中旬~4月初旬に出荷、季節の雰囲気から薄にごり(濁りが少し瓶内にいる状態)のものが多い。霞酒(かすみさけ)という風情のある呼称がされることがある。
・夏酒:5月初旬~7月初旬に出荷、爽快ですっきりとした酒質に仕上げているものが多い。最近は高アルコールにしてロックを推奨したり、逆に低アルコールの原酒に仕立てて爽やかさだけではない演出をしている蔵元もある。
・秋酒:代表的なものが“ひやおろし”、新酒を一度火入れしてそれぞれの蔵の環境下ひと夏の熟成を経てから出荷。火入れ等の縛りを省いた場合、秋あがり、夏越し酒と呼称される。軽度の熟成から程よく円やかな味わいになっている。
・冬酒:蔵ごとに個性や考え方の違う酒が出そろう時期。燗酒専用酒なんて謳い文句のお酒や、デリケートな取り扱いが必要となる活性にごり(スパークリング)などが出そろうのも、気温が低いこの時期ならでは。
~シーズンを正しく謳えているのか~
そして、この中で季節酒としてのアイデンティティが破綻しているのではなかろうか、と思うのが“夏酒”と“ひやおろし”です。
まず夏酒。
なんと早いものだと4月末に出荷されています。初夏でもありません。そもそも夏酒というカテゴリが出来たのも、夏の日本酒需要の伸び悩みが最たる要因で、出始めたのも2007年と歴史が浅いので、軸がブレやすいのかと思います。
味わいも「これ爽やかって言ったもん勝ちだろう・・・」というような“通常のお酒を少し水で伸ばした”ようなものもあるほどです。
次にひやおろし。
早いものだと7月半ばに出荷されています。夏真っ盛りの猛暑日が続く時期です。夏の暑さが“冷えてきた”時期に出荷されるから、という名前の由来のひとつも覆ってしまうようですね。
本来であれば日本酒の日である10月1日にリリースされるべきでは?と考えている酒造さんや販売者の方もいらっしゃいます。
こちらの味わいも熟成とは程遠く、フレッシュでジューシーで「これ・・・新酒や夏酒とどう違うの・・・?」と困惑するようなものがちらほら。
このような状況から、いくつかの酒造さんたちからは「もう夏酒と秋酒は、やらないほうがいいのでは?」という声も上がってきているほどです。
~止めたら消えるのみ、改案をすべき~
声を上げてらっしゃる造り手の皆さんの意見と私の考え方は、少し違います。もちろん、造りの最前線である蔵の方たちが止めようと考えるのも無理のない事だとも思います。
でも、せっかく飲食の現場やお酒好きの間で耳なじみが良くなったのに、このまま止めてしまうだけでは、まったくもって勿体ないです。
だから改案すればいい、と考えます。
例えば、夏酒。酒質は自由に早期予約開始のみで海の日一斉リリース。
秋酒もそう。必ず“蔵が考える程よい熟成を経たものに限り”早期予約で開始のみの日本酒の日である10/1の一斉リリース。
この時期を逃すと飲食店さんもお客様も飲めないよー、遅れてしまうと少ない種類しか楽しめないよー、という特別感にも繋がると思いませんか?
お客様は、期間限定感が増すので率先して楽しみたいと思うでしょうし、飲食店さんは、そのニーズを掴むべく季節品に対するアンテナをもっと高くされるでしょう。
酒蔵さんや私たち酒販店も早期予約による見込み数量が立てられるし、過去のボージョレ・ヌーヴォーのように業界がしっかり各日に向けて盛り上げることの出来る、“ヤマ”のあるコンテンツになるのでは?と思うのです。
~清酒製造の歴史上、最高の技術力の現代こそがチャンス~
清酒と呼ばれるものが世に生まれてから現在に至るまで、今がまさに醸造技術が最高レベルの状態だと言われております。
このタイミングで季節のお酒を曖昧なものにせず、付加価値をしっかり訴求できるようにする事が、より一層、日本酒業界をハイクラスなものにするのではないでしょうか?
~他の酒類との差別化を意識した展開を~
現在、圧倒的自由度のクラフトビール、副原料の使用がほぼ無限大なクラフトリキュール、このあたりが再燃しつつあります。
これに対して日本酒は自由度が極めて低い。何か混ぜたら即『その他雑酒』もしくは『リキュール』にされてしまいます。
これからの日本酒は、『複雑にして最高の醸造技術と地域性が反映された土地表現で仕込まれる酒』として確立させ『シーズナルにおいても厳格なルール』に守られた地位の高いものにして、差別化をしてもよいのかな?とも思います。(もちろん手に取りやすい地酒文化はそのままに、です。)
同じ市場の中でも様々な考え方や思想があるのでしょうが、いつの間にか限定酒や季節酒を打ち出すことに追われ、本来のあるべき姿や地位を失ってしまうのは、一日本酒愛す者としても、販売者としてもとても悲しいことですね。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
四季の移ろいを楽しめるお酒と皆様が出会える事を心より祈念いたします。