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『賢い人のとにかく伝わる説明100式』が生まれるまでをまとめてみた―その1

「眼鏡をかけた子どもを連れている女の人」

あなたはこの文を読んで、どんな情景を思い浮かべましたか?
眼鏡をかけているのは子どもでしょうか?
それとも女の人でしょうか?

これ、『賢い人のとにかく伝わる説明100式』(かんき出版)の冒頭に載っているワークです。
読書系インフルエンサーのぶっくまさんがXで投稿してくださり、表示回数700万回超えになったワークです。

ぶっくまさんのXの投稿から引用

このご投稿のおかげで、説明100式は多くの皆様に知っていただくことができました。
いやもうほんと、「何が起きているのか?」とアワアワしていた私です。このときのことは、また改めて書きますね。

で、この手の「よーく考えたら、どっちの意味にもとれるじゃん」というのは、ほかにもあります。

では、これは?

「丸いテーブルとイス」

丸いのはテーブルだけでしょうか?
イスも丸いと思いましたか?

実はこういう、1つの文で複数の意味に解釈することができる文を「あいまい文」といいます。普段よく出くわすけれど、「あいまいさ」を意識することって、あまりありません。

けれども、これが実は曲者。
私は大学生のとき、友人と2人で京都に遊びにいく途中で立ち寄った喫茶店でこんな経験をしました。

「ご注文は?」
「(メニューを指しながら)このイチゴのショートケーキと、コーヒーを2つ」
「わかりました」

友人は甘いものを食べないので、私は自分が食べるためのケーキ1つと、2人分のコーヒーを頼んだつもりでした。
しかし、運ばれてきたのは……。

ケーキもコーヒーも2つずつでした。

えっ?
あのぉ。ケーキは1つのつもりだったのだけど……。

「いや、どう考えても、あの頼み方だったら、ケーキも2つくるやろ」というツッコミが聞こえてきそうですね。

はい、私の頼み方がよくありませんでした。

「ケーキは1つだと、ちゃんと言わないといけなかったのか……」
そう反省しながら、私は1人でケーキを2つ食べました。

そんなことがあってから、私は日本語の持つ「あいまいさ」に興味を持つようになりました。

この「解釈のすれ違い」、喫茶店での話なら笑い話ですみますが、もしビジネスの場だったら? 致命的なミスになりかねません。

話の聞き手が「あいまい」であることを認識すれば、「どっちの意味ですか?」と問いかけることができます。けれども、多くの場合は「あいまい」であることすら気づかないのではないか? 

だって、もしも喫茶店の店員さんが「ケーキは1つ?それとも2つ?どっちやねん!」と感じれば、確認してくるはず。
でも、確認もなく、店員さんは「ケーキも2つなんだ」と解釈して持ってきたわけですよね(もし注文を復唱したならば、「ケーキは1つ?2つ?」と気づくかもしれないですけどね)。

そんなことがきっかけで、私は、人がどのように「あいまい文」を解釈しているのかをテーマに、大学の卒業研究を始めました。

当時大学生だった私は、人工知能の研究をしようと思っていました。今から40年くらい前の話です。当時は人工知能なんて、まだまだ今ほど身近な話ではありませんでしたが、機械翻訳などの分野への応用が期待されていました。

人間がやっていることを機械にやらせるためには、人間がどのように物事を考え、処理しているのかを解明しなければなりません。言語に関して言えば、「人間は言語をどのように理解したり使用したりしているのか」といったテーマが古くから研究されていました。例えば過去の学術論文を紐解いてみると、1926年には幼児がどのように言語を理解していくのかを研究した論文が発表されています。

1960年代になると、人は文をどのように理解しているのか? といったテーマに関して、実験を用いた心理学的な研究がなされるようになりました。その中で、知識としての「言語能力」と実際の「言語使用」は一致しないことが示されました。ここで注目されたのが、「あいまい文」なのです。

つまり、「言語能力」とは、「この文は、2つ以上の意味に解釈できるな」と理解できることなのですが、実際に言語を使う場面では、「この文は、2つ以上の意味に解釈できるな。さて、どっちの意味だろう?」と受け取られる場合もあれば、話し手の意図に関係なく1つの意味でのみ受け取られる場合もあるということなのです。

実際に身近なところでも、先ほどの喫茶店での話のように、自分の意図と違う意味に受け取られてしまう「解釈のすれ違い」がちょくちょく起こります。

なぜそのようなことが起こるのか、そのメカニズムを解明するのは興味深いことでした。

そこで、過去に海外で発表されている研究論文を参考に、日本語ではどのような結果が得られるのかを、卒業研究で確認することにしました。

実験方法はこうです。

最初に「あいまい文」を3秒間見せ、その後「絵」を3秒間見せます。この「絵」が、先に見せた「文」の意味を正しく描いていれば「YES」、正しくなければ「No」と答えてもらい、答えるまでの「反応時間」を調べるというものです。

例えば、あなたが「眼鏡をかけた子どもを連れている女の人」という文を見たとしましょう。

次にこの絵が登場します。
だいぶ昭和感満載の絵でスミマセン。実際に卒業研究で使った絵です。

文を見た時、あなたはきっと「眼鏡をかけた子ども」を思い浮かべたことでしょう。大部分の人がそうなのです。だから、この絵が出た時は、文の内容と絵が合っていると感じ、皆さん即座に「Yes」と答えました。

では、「眼鏡をかけた子どもを連れている女の人」の文のあとに、こちらの絵が出たときは?

一瞬「あれ?」と思いませんでしたか。
「眼鏡をかけてるのは子どもでしょ」と思っていたら、それとは違う絵が出て一瞬戸惑う……。

実験に参加してくれた人もそうでした。

「そういう意味にも解釈できるのだろうか?」と考え直すことで、答えるまでの反応時間が長くなる人が明らかに多かったのです。
さらには、「この絵は間違っている」と判断した人もいました。

実験の結果は、こんな感じです。なかなか面白いデータがとれました。

では、「丸いテーブルとイス」という文については、どうだったのでしょうか?

こっちの絵が出ても

こっちの絵が出ても

YESかNOかを答えるまでの反応時間や正解率には差がなかったのです。

つまり、テーブルが丸いかどうかが重要で、イスが丸いかどうかは、重要じゃない情報と解釈されているのかもしれません。

ところが、絵を見せてから文を作る場合には、テーブルもイスも両方丸い場合、「丸いテーブルとイス」という文を作る人が多かったのです。「丸いテーブルと丸いイス」とは書かないのです。

結局結論から言うと、文を解釈するときには「形容詞(句・節)は直後の名詞を修飾する」という法則性があることが、実験の結果からわかりました。しかし、「丸いテーブルとイス」のように、「形容詞+名詞1+名詞2」のような文の場合、解釈するときは形容詞は直後の名詞1だけを修飾するのに、文を作る時には2つの名詞を同時に修飾するという解釈に基づいて作られるということがわかりました。

これが「解釈のすれ違い」を生む原因になるのです。

「なかなか面白い結果が出たなー」
「もっと多くの人数で実験していったら、もっと精度の高い結果が得られるかもなー」

このまま研究を続けて、研究者として生きていくということをボンヤリと考えていました。
でも……

この実験、イラストを書くのがとにかく大変だったんです!

私には絵心がありません。時は1980年代。フリー素材なんていうのもありません。

書店で「イラスト集」を買ってきて、トレーシングペーパーでイラストを写し取り、カーボン紙を使って紙に転写し、それをスライドにする。
スライドといっても、パワポのスライドじゃないですよ。
こういうやつです↓

ひょっとしたら「トレーシングペーパー」とか「カーボン紙」っていうのも、もはや伝わらない? 
「なんじゃそりゃ?」と思った方は、こちらのサイトで紹介されているやり方が、一番イメージに近いかも。

とにもかくにも、手間がかかる。
そして、イラスト集に載っているイラストから、あいまい文を考えないといけない。文を先に考えたら、それに合うイラストがあるかどうかわからないからです。

「あの面倒な作業をずっとやっていくのか……」
と思ったら心が折れて、プライベートな事情もあって結局大学院へは進学しませんでした。

今だったら、文を入れたらAIが即座に絵をつくってくれます。
「今から大学院で研究したいぜ」と心の中でひっそりと思っていたりします。

説明100式の本を書くことになって、改めて振り返ったときに、この学生時代の経験が原点になっていたんだと気づきました。
卒論は「一太郎」っていうワープロソフトでつくったのだけど、当時はフロッピーにデータを保存していたから、もはや今じゃデータは取り出せない。
紙に印刷したものを後生大事にとっておいてよかったー。
40年近くの時を経て、また使うことになるとは夢にも思わなかったです。

というわけで、今回は「原点」のお話でした。

そして大学卒業してから十数年。
「ハイ?凝集沈殿?何それ?」
専門用語がまったくわからん世界に飛び込んだときのことは次回へ。

※たぶんこれ、15回くらいのシリーズになりそうなので、毎回この分量で書いたら全部で5~6万字いってしまう。長すぎるので、1回ずつ分けて書きます。

それでは、また。


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