カギっ子のピンチ
先日自宅で仕事をしていた時のこと。
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴り、はーいと出てみると『あの〜となりの佐藤(仮名)です…』と、こどもの声。
受付ロビーからではなく、玄関扉のチャイムからでした。
おや?どうしたかな?と、『ちょっと待ってね〜』と扉を開けると右向かいのお部屋の佐藤さんちの次男くんと、左向かいの山田(仮名)さんちの長男くんでした。
次男くんの横で俯いて悲しげな表情の長男くん。
『長男くんが家の鍵忘れちゃったみたいで、俺んちの鍵で開かないか試してみたんだけど、おばさんちの鍵でも試してもらえませんか?』
次男くんが状況を代弁してくれました。
次男くんが小学生5年生、長男くんは一個下の4年生なので、普段から交流があって、きっと困ったこの状況に助けを求めたのだなと思いました。
でも、同じマンションに住んでいるからと言って、同じフロアだからと言って、うちの鍵でお隣の家は開きませんよね。イチカバチかでやってみた、というこどもながらの発想が可愛らしい。
困った状況とは対照的に気持ちは少しほっこり。
そしてこんな日に限って、どんより曇って今にも雨が降り出しそうで肌寒いなか、半袖の長男くん。
お母さんが帰ってくるのは15:30過ぎだと言います。その時点で13時を少し過ぎたばかり。あと2時間近くあります。
『おばさんちの鍵では開けられないけど…もしよかったらうちで待ってていいよ。テレビでも見てたらすぐだから、ね。』
次男くんも、そうさせてもらったら?と声をかけますがなかなか首を縦に降ってくれません。
そのうち自分の部屋の扉の前で開かないドアノブをガチャガチャしたりつま先で軽くこづいてみたり、2メートルほど離れた先にある自宅のベランダを覗いてみたり(行けないか?とみている様子。いや、無理だから。鍵もかかってるしね。)、やがて手摺りにおでこを乗せてうなだれてスネスネモードに入ってしまいました。今にも泣きそうです。
すれ違ったりエレベーターで一緒になった時に挨拶する程度の交流しかしていない、言わば知らないおばさんの家に、じゃあお邪魔します、とは言えないのはよーくわかります。しかも4年生にもなれば、失敗を恥ずかしがったりカッコつけたかったりする年頃でしょうし。
ならば、図書館とか児童館に行って時間を潰すか、学校(すぐ近所)にもどって先生に事情を話して居させてもらうとか?と提案してみるも、首を横に振るばかり。
このままでは埒が開きませんので、空気をチェンジ!
旦那にチェンジ!!
男同士の方が話しやすいだろうと、交渉役を旦那に交代して、仕事しながら動向を見守ることにしました。
そして30分ほど経った頃、話し声と共に扉が開く音がして、次男くんがやってきたのでした。
えらいぞ、旦那。交渉成立!
後から、どうやって連れてきたのか聞いたら、めっちゃ悔しがって泣いてたからまあまあいいじゃん、と押し切った、との事。
鍵を忘れた悔しさと、家に入れない不安や怒られるかもしれない不安とかいろいろあったんだろうな。
昨今の事情でお友達の家に遊びに行くことはダメと言われているらしいです。
なので佐藤さんちの次男くんの家に行くって言う選択もなかったのか、と合点がいきました。
家庭のルールなのか学校のルールなのかはわからないけど、ああそうなのか…と寂しい気持ちになったりしました。
冷え冷えした身体をストーブで温めて、コーンスープを飲ませ、テレビと漫画(あいにく小学生の喜ぶ漫画が全然なくて、原作のナウシカを渡してみるも…)で、とりあえずのんびりしててね、おばちゃん達お仕事してるけど気にしないで〜。としばし放置。
リビングのソファーに座っていると、ダイニングテーブルで仕事する私が監視するようなポジションになってしまっていた事と、女のわたしに少し気後れしているのか、私がキッチンに立つと旦那の部屋にささーっと移動し何かをゴニョゴニョと話しているのです。
ちょっと買い物に出て戻ってくると、アマプラでポケモンを見てました。
ああ!アマプラ!Disneyプラスも契約してた!
昼過ぎのニュースばかりのテレビじゃなくて、はじめからネット見せてあげればよかったんかー!言ってよ言ってよ〜。
そうこうしていると、次男くんの弟くんも帰宅。
弟もうちにやってきて2人揃ってポケモン鑑賞していました。
お母さんの携帯番号を聞いて旦那が連絡してくれていたので、お母さんが帰宅してピンポーンとチャイムがなると一目散で玄関へ向かう次男くん。
居心地悪かったかな、心細かったんかな。
それと逆にポケモンの続きが気になりながら荷物をまとめる弟。可愛い。
平謝りの山田さん(仮名)に、
いえいえ、なんのお構いもできなくってすみません〜
兄弟達に、
困った事があったらいつでも言ってね〜!
と手を振り送り出しました。
それから2時間ほど経った頃、ピンポーンとまた玄関チャイムが。
おや?お礼にいらした?と思い玄関を開けると、弟くん。
旦那)どしたー?
弟)お母さんとお兄ちゃんがでかけてひとりなの。
旦那)お父さんは?1人でお留守番?
弟)うん
旦那)えらいね!
弟)うん。…?
旦那)えーっと…。…?
ピンと来ました。
さっき別れ際に困ったことあったらいつでもおいで、と言ったその言葉を頼りに来たんだな、と。
私)うんうん、なにか困ったことあった?
弟)(首をふる)
私)こっちで待ってて、ってママ言ってた??
弟)…ううん。
旦那) ひとりでお留守番できそう??
弟)…うん。
そして自宅に戻って行ったのです。
可愛い〜!!
あの別れ際の言葉で頼ってきてくれたの、嬉しい〜。
でもよくよく考えて、
あ、ポケモンの続きが見たかったのかも。
と、思ったのでした。
弟、いや末っ子ってちゃっかりしてるもんね。
それにしても可愛い兄弟でした。