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相棒蛙【すりぬける】

タイのちょっとしたお土産市場。
通勤ラッシュの品川駅ほどではないが、引けを取らないほどの大洪水。
荒波に飲まれながらも目が合った一匹の蛙の木彫り。
運命を感じ、右手を伸ばした。
値段はかなり安く、払っても財布の重さは全く変わらない。
お金を払った時、いかついネックレスを首から下げた店主であろう男性が話しかけてきた。
『それはな。俺の危機を救ってくれたやつなんだ。俺が22の時、金の身払いで追われていたんだがもう無理ってとこまで追われちゃってな。何とか隠れたんだが音を立ててしまったんだ。その時、勝手に手が動き俺の右手はこの蛙の鳴き声を奏でてた。何とか危機をすり抜けたよ。もう今の俺には必要ない。きっとこいつはお前を救ってくれるよ。』
店主に別れを告げ、帰路につく。
右手で蛙の鳴き声を奏でてみる。
ゲコゲコゲコと頼もしい声が夜のタイの街にこだました。

キュレーター 神野 祐介

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