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qp人形【すりぬける】

 長年、子どもたちに愛されてきたキューピー人形は、もともとキュー人形と呼ばれていた。人形の生みの親の一人、ジェイ・スターリング博士は、キュー人形が幼児の発達に対して与える影響を研究するために、四歳になる娘にこの人形を渡した。
 ある日、娘はキュー人形を鏡の前に置き、そこに映ったもう一つの人形とお話しさせて遊んでいたのだが、突然キュー人形が鏡へと手を伸ばしたかと思うと、もう一つの人形をこちら側に引きずり出したのだ。スターリング博士はキュー人形と完全な対称性を持ったもう一方を、「q」を反転させて「p」人形と呼んだ。
 その後、qp人形(キューピー人形)と呼ばれることになったこの人形だが、初期ロットの中には、鏡に映らないものが混じっていたという。それは、まぎれもなく、鏡の向こうから来た「p」人形をかたどったものであり、今、目の前にある四体のうち一つがそれである。
 しかし、どれがその人形か確かめることを、私はおすすめしない。なぜなら、スターリング博士の娘は、「p」人形の代わりに鏡の世界に引きずり込まれたからだ。もし、彼女と入れ替わる覚悟があるなら、ぜひ試してみてほしい。

キュレーター 鵜川 龍史

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