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蹴られた「すりぬ」の遺品【すりぬける】

 「すりぬける」の語源には、いくつかの説があるが、そのうちの一つが、「すりぬ」と「蹴る」を組み合わせた言葉である、というものである。
 時は江戸時代。オランダ人は、長崎の出島に限って入国を許されていたとされているが、実際には、多くのオランダ人が日本の各地を訪れていた。彼らは、オランダ語で「賢い」を意味する「slim」と日本語の「奴」を組み合わせて「すりぬ」と呼ばれ、絵草子や草双紙といった出版物にも「すりぬ」の文字を見ることができる。そこには、日本人に蹴られているオランダ人の姿が多く描かれており、例えば

「あなしろし しまをいでつる すりぬける」
(なんて白いのでしょう。出島を出てきた「すりぬ」を蹴ってやりました)

といった狂歌も残されている。なお、関所を抜けることを「すりぬける」と言うようになったのも、この逸話による。
 今回の収集品は、東海道を旅し、鞠子宿で蹴られて亡くなったオランダ人の遺品である。用途は不明であるが、それを確かめる術は、もうない。

キュレーター 鵜川 龍史

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