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N君の名刺入れ【すりぬける】

これは、かつての私の友達N君の遺品の名刺入れです。
N君は名刺入れを自分の名刺を入れる為でなく、もらった名刺をしまうために使っていました。他人に優しい彼らしい使い方です。
しかし、彼はある時おかしな人物から名刺を貰ったそうです。その人物は体中を黒い服で包んだ不思議な人物だったと彼は言っていました。
そして、それ以降彼の様子はおかしくなりました。ひっきりなしにその名刺に書かれているという電話番号に電話を繰り返すようになり、そのために食事や仕事を疎かにするようになってしまったのです。自分にも会ってくれなくなり、彼はまるで何かに取り憑かれているかのようでした。
そして、彼はある日こんなメールを送ってきました。『ようやく予約ができた』そのメールに一抹の不安を抱いた自分が彼の家に行くと、彼は首を括って死んでいました。そして、側にはこの名刺入れだけが残されていたのです。
ひょっとするとこの中には彼が狂気的なまでに執着していたあの名刺が入っているのかも知れません。

キュレーター 春山 林

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