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青と赤の相克【すりぬける】

 あらゆる物質において、分子と分子との間には隙間がある。つまり、理論上、あらゆる物質は相互にすり抜け合う可能性を常に秘めている。
 仮に、二つの物質が、その接触のタイミングで衝突を回避し、互いに互いの分子の隙間を縫って進行したとして、反対側まですり抜け切るためには、確率の神に祝福されるしかない。たいていの場合、すり抜けの途中で、確率の神に見放される。
 それでも、時として、別の奇跡が起きることがある。二つの物質が、完全に重なり合った瞬間に、すり抜けの魔法が解け、一つの物質へと融合してしまうのがそれだ。目の前にあるペンは、もとは別々の青と赤のペンだった。今は一つに融合し、当然というべきか、二本分の重さがある。そして、いつか再び二本に分離する可能性を秘めている。

キュレーター 鵜川 龍史

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