プロジェクトが始まるときにかなり初期の段階でWBSを作ることは多いとおもいます。そのWBSの作成、プロマネやディレクターに任せっぱなしになっていないでしょうか。WBSはスケジュールをガントチャートで表したものを指していると思われがちですが、実はスケジュールだけでなく見積もりやアサインを精度高く行うためにも重要なものです。
たとえば「Webデザイン作成」というスコープにどのような実作業が含まれているかはWBSを作ることによって見える化しプロジェクトメンバーやクライアントと共有できるようになります。ときどき下記のように書かれたWBSを見ることがあります。
しかし、これでは「Webデザイン作成」に必要な知識、さらには作業量・スケジュール・予算も分かりません。Webデザイン作成の例を続けると、下記のように「作成」のスコープを分解してデザイナーが行う実作業を見える化することによって作業工数の確保や専門的な知識の必要性をプロジェクトメンバーやクライアントへ正しく伝えることができます。
今回は「Webサイトリニューアル」のプロジェクトを例として、要件定義〜公開までの全フェーズで、私たちがどれくらいの粒度でスコープを分解しWBSを作成しているかまとめてみます。
1. 要件定義
ここではリニューアル方針を決定するためにクライアントへのインタビューとワークショップを行うと仮定しています。ターゲットユーザー像はRFPに詳細がまとめられているため追加調査はナシとします。
2. 構造設計
構造設計は大規模サイトになるほど重要になります。たとえば「大学サイト」の制作で「受験生サイト」との仕分けが必要な場合や「ホールディングスのサイト」で「コーポレートサイト」との整理が必要な場合など、構造設計をしっかりと行うことで次の情報設計における迷いが少なくなります。またWebサイト全体にCMSを導入する場合には特にテンプレート設計は大切なポイントとなります。
3. 情報設計
ワイヤーフレームはレイアウトや装飾要素を作り込むと次のデザインがやりにくくなるため、あくまで情報の優先度や量を確認するための資料としてシンプルに仕上げることが重要です。ワイヤーフレームの作り方については以前noteに書いた記事 Webサイトのワイヤーフレームの作り方 - XDを開く前の3ステップ も参考にしてみてください。
4. デザイン
要件定義で言語化したキーワード・コンセプトと、情報設計で作成したワイヤーフレームを統合してデザインを作成していきます。基本的には色、文字、形、動き、配置などデザインの要素がリニューアルの目的に則した選択となっていることを説明できるように作成します。
5. コーディング
依頼されたスコープが「デザインまで」の場合でも、コーディングチェックはデザイナーも一緒に担当できないか必ず打診をしたほうが良いです。 文字やマージンの指定を全て抜け漏れなくコーディングに反映させるのはほぼ不可能な上、コーディングを見たうえで視認性を上げるなど細かな調整を行うことも多々あります。
6. CMS開発
ここではWebサイト全体にWordPressを導入すると仮定します。WordPressは特にセキュリティに気をつけなければならないため、ログインURLの変更、ユーザーパスワードの複雑化、プラグインの設定などを仕様書に細かく記載するようにします。
7. 移行
移行登録を進めると、記事セットが連続した場合のマージンの間隔に違和感がある、レイアウトが単調になってしまうなど、デザイン時に検証しきれなかった箇所が浮かび上がってくることがあります。数百ページを超える大規模サイトになるとデザイン時に全てのページを検証するのは難しいため、移行時に多少の調整を行うことを予めチームメンバーやクライアントにも了承してもらうことで下層ページの細部まで仕上げることができます。
8. 公開
ここでは公開はDNS切り替えを持って公開すると仮定します。新サーバーへのDNS切り替えのためリニューアル前の状態のWebサイトにメンテナンス画面などを表示する必要がない想定です。
●WBSを作成する際のポイント
スコープを分解する際に「作るプロセス」に含まれる「考えるプロセス」も制作工程として見える化させることがポイントです。そうすることでスコープに対して必要な知識や作業工数を共有することができます。
もしスコープを分解せず実作業内容がブラックボックス化してしまうと作業工数を低く見積もられ、スケジュールの短期化や予算の低下につながる可能性も生まれてしまいます。
またスコープを適切に分解することでプロジェクトが進んでいった際に何か上手くいかないことが起きたとき、どこに問題があるか特定することも容易になります。たとえばコーディング後にクライアントから「基本的に良いんだけどなんかグッとこない」と言われたとき、それを「デザインの問題」とせずに、問題点は「キャッチコピーのメッセージ」なのか「配色のバランス」なのか「インタラクションの気持ちよさ」なのか、と分けて検証することで的確に問題点を探り当てることができます。
WBSをしっかりとつくるメリットをまとめると下記のようになるでしょうか。
スケジュールだけでなく、見積もりやアサインといったプロジェクト全体計画の重要項目を精度高く行うためにも、WBSはプロジェクトに関わるメンバー複数人、場合によってはクライアントも一緒に作成できるとベストです。
またWBSはプロジェクトマネージャーやディレクターが作成することが多いためデザインやコーディングのスコープを上手く分解出来ないというケースもあるかと思います。そういう場合にも担当するデザイナーやエンジニアに一緒に作成してもらうのが一番ですね。初期段階からメンバーを上手く巻き込んでいくのもプロジェクトを上手く進める重要なポイントの1つだと思います。
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