
エンジニアのツールキット
幾何学者にとって数学はそれ自体が目的であるが,エンジニアにとっては手段である.エンジニアにとっても,ノギス,ノミ,ハンドル,鍵屋にとってのヤスリ,大工にとってのハーフシアー,斧,鋸と同じように,数学は手段であり道具である.エンジニアは,自分の商売の道具の扱い方を知っていなければならないが,その作り方を完全に知っている必要はない.大工は,斧の鍛造や溶接の仕方を知らないが,良い斧と悪い斧を見分けることができなければならない.鍵屋は,自分でヤスリを切る方法を知らなくて良いが,必要なヤスリは自分で選ばなければいけない.つまり,新しい数学的結論を生み出す幾何学者は,想像上の万能工具職人のようなもので,あらゆる必要に応じた工具を用意する.彼は,スレッジハンマーから最高の顕微鏡,最も正確なクロノメーターまで,すべてを作る.幾何学は,現在のニーズから生じる問題だけでなく,明日かも1000年後かもしれない,将来生じるかもしれない問題を解決するための方法を創造する.数学の倉庫に入り,必要な道具を見つけようとするエンジニアを想像してみよう.彼はまず,2500年の間に蓄積されたすべての資料の広大さと圧倒的な多様性に驚かされることだろう.よく見ると,一見単純なものの中に,自分には理解できないが,多数の部品の仕上げと丁寧な取り付けに驚かされる非常に複雑な機械があり,しかも銀や金でできている.最も近代的な機械の中には,最も精密で細心の注意を払って商品を仕上げるための多くの器具,多数の異なるスクレーパーや研磨機も見られるだろう.また,時代遅れの古い機械もガラクタも数多く目にすることになる,しかし,エンジニアは,無数の宝物を鑑賞するためにここに来たわけではない.彼が求めているのは,金や銀ではなく,高速度鋼なのだ.
彼はスクレーパーを使うのではなく,荒削りで信頼できるノミを使う.ダボを削るのに,スクレーパーを使うことはないだろう.
よく見ると,この無数の種類の中に,明らかに長い間計画的に選ばれた,150年間ほとんど変わらない品揃えがある.
店主によると,それは非常に頻繁に必要とされるため不足はなく,あとは熟練工やアマチュアが手に入れるだけだそうだ.
遥か昔の巨匠たちが選んだ品々に信頼を置くべきではないだろうか.そして,何世紀とは言わないまでも,何十年も使われてきたこれらの古くて実績のある道具を利用し,正しく巧みに扱うことを学び,彼自身が専門家や職人になったら,他の宝物を選別して,必要なものを正確に引き出すべきではないだろうか?つまり,このような体系的な品揃えが,諸君が教わるコースであり,学ぶことを勧められるマニュアルであり,店主や道具屋は君たちを教える教授や監督である.彼ら自身はエンジニアではないかもしれないが,自分たちが任された道具のことをよく知っていて,どこに何があるのかを知っているのである.
ある記事からの抜粋
「造船業者にとっての数学の重要性」、1935年
Крылов Алексей Николаевич
p.42-43