万華鏡の不思議
万華鏡には合わせ鏡の原理が使われています.私の前に鏡があり,私の後ろにも鏡があり,つまり,合わせ鏡の間に私が入ったとすると,私の前の鏡に写るのは,私の前から見た姿:実物の私が北向き(N)なら,鏡像は南向き(S).私の後ろの鏡には,私の後ろ姿の鏡像があり,これも南向き(S)です.横からこれらの像の配列を見るとSNSの配列です.
しかし,これだけで終わらないのが合わせ鏡の醍醐味です.
私の前の鏡でできた鏡像(S)は,私の後ろの鏡で反射しさらに後ろに鏡像(N)を作ります.反射するたびに像の向きは逆になる.生ずる像がこれで終わりということはありません.その像はどちらかの合わせ鏡の前にありますから次の像が必ず生じます.こうして,1列に無限に配列する鏡像・・・・・SNSNSNSN・・・・・ができます.これは,SNのペアが周期的に並んでいる状態です.
ここで,合わせ鏡が平行ではなく,交差角$${θ°}$$であったとすると,鏡像は直線状に並ぶのではなく,円周上に並びます.そして,SNのペアの中心角は$${2θ°}$$ですから,円周上に並んだ鏡像がきれいにつながるためには,
$${360 ^\circ /2\theta ^\circ =n}$$, $${n}$$は整数でなければなりません.
万華鏡Kaleidoscopeの命名と発明は,ブリュースターの特許(1817年)が起源です.特許には,2枚の鏡の交差角θ°を360°を偶数で割り切る角にすることが記載されています.
ブリュースターはエディンバラの偉大な物理学者(光学)で,燈台のレンズの軽量化を実現しました.(凸レンズが大きくなると重くなるのが問題でしたがこれを解決しました.これは,その後に現れるフレネルレンズやゾーンプレートの先駆です)
また,反射により反射面内振動方向(S偏光)の完全偏光になる入射角に名前を残しました(ブリュースター角と呼ばれる).
あなたが鏡に向かっているとして,鏡の中にはあなたとあなたの後ろの世界が広がっています.これを鏡像の世界と呼ぶことにしましょう.あなたのいる世界と鏡像の世界は,何から何まで完全に同じようですが,決定的に異なるところがあります.あなたが,もし,鏡像の世界に入り込めたとしても,鏡像と重ね合わせることは決してできません.右左が異なるからです.3次元空間での運動で,右手と左手を重ね合わせることはできません.
しかし,右手と左手は鏡に映す(鏡映操作)と重ね合わすことができます.結局,鏡映操作というのは,3次元空間内の剛体運動ではありません.3次元の鏡映像は,4次元空間の運動なら重ね合わせることは可能です.
私たちは,鏡映像に何か不思議な感じを抱くのですが,鏡映像の世界には我々の3次元空間内の運動で到達できないということに関係があるのではないでしょうか.
基本的な万華鏡は,3枚鏡の壁で囲まれた3角柱でできています.3角形の内部にガラス屑が分布した絵柄(3角形内部が非対称要素)があります.わたしはこの3角形のことを鏡室と呼ぶことにしています.3角形の辺が鏡です.これらの鏡映操作の従い,鏡室の絵柄を張り詰めていくと,秩序のある平面模様ができます.
しかし,秩序のある張り詰めができるためには,鏡室の3角形の形に特別な条件がかされます.
こうして,周期的に平面を埋める万華鏡パターンが得られる3角形は次の3種類に限られます.
実は,$${n, m, p}$$の整数解だけでなく,分数解の場合もきれいな万華鏡映像が得られます.分数解の万華鏡は無限にあります.ただし,分数解の場合は,周期的な平面充填ではなく,複雑な秩序(数学でいうと平面群に収まらない)の平面模様になります.
今回,作る万華鏡は分数解のもの($${n=m=24/11, p=12}$$) 82.5°・82.5°・15°の3角形です.その映像を以下に示します.
この万華鏡の映像は
https://youtu.be/VgNGY38opS0
10月16日に,中野ZEROでこの万華鏡を作ります.
■練習問題
青い正3角形が鏡室です.赤線は鏡です.鏡室を鏡で反射させると,下図のような模様が広がって行くことを確かめましょう.