周期的空間はデジタル化された空間
表紙は結晶空間のイメージです.同じ造作の部屋が無限に並んでいるホテルです.電子を1個だけ入れたら,電子はどの部屋に居るべきでしょうか?どの部屋にも同じように出現せねばなりません.電子の存在確率は結晶空間の周期をもった関数であることが知られています.
一種類の多面体を積み重ねて空間を充填します.許されるのは平行移動のみとします.
これを考えるのは「格子」を考えるのと同じことです.3次元の場合は,独立な移動方向は3つあります:それらのベクトルをa, b, c としましょう.
na+mb+lc,(n,m,lは整数)を格子点といいます.無限に続く格子点全体を格子と呼びます.ベクトルa, b, cの組みを対称性で分類したものがブラベー格子と呼ばれ,2次元では5種類,3次元では14種類,4次元では74種類ります.
無限に繰り返す「周期的空間」(「結晶空間」とも呼ぶ)の幾何学的表現が「格子」です.周期的空間は,点の集合と考えるとデジタル化された空間といえます.(注)整数全体は可算無限個の世界です.
■格子からディリクレ胞をつくる
ディリクレ胞は格子点1個の占有領域です.単位胞とは少し意味合いが異なります.物理ではウイグナー&ザイツ胞と呼ぶことが多いです.ボロノイ分割と似ているところもありますが,ボロノイ分割と異なり格子の分割に限定しています.
立方体(角砂糖)を積み上げたような格子の場合に,ディリクレ胞の作り方を説明します.手順を見ると,ディリクレ胞とは格子点1つが占有する多面体の形なのがわかります.格子点にディリクレ胞を配置すれば,空間が隙間なく充填されるのは明らかです.
そして,ディリクレ胞の対称性(点群)に格子の対称性が現れています.
◆立方面心格子→菱形12面体
面心格子のディリクレ(ウイグナー&ザイツ)胞を作図すると「菱形12面体」が得られます.
◆立方体心格子→半正多面体[4,6,6](ケルビン立体「切頂正8面体」の一つ)
体心格子のディリクレ(ウイグナー&ザイツ)胞を作図すると,この立体が得られます.
図は省略しますが立方体(角砂糖)を積み上げた形と,ここに示した菱形12面体やケルビン立体は周期的空間を隙間なく埋め尽くすことができ,これら3つの対称性は同じです.
■格子というのは,無限に続く周期的構造の<幾何学的表現>でした.格子点に置くのは繰り返される単位モチーフです.格子点に本当に点を置くのは最も単純な構造,面心格子の格子点に原子を配置した構造は,銅やアルミニウムなどの金属結晶で,体心格子の格子点に原子を配置した構造は,鉄,タングステン,セシウムなどの金属結晶で知られています.
◆純粋に数学的に空間充填構造を導くのはとても大変なことですが,結晶学者は昔から知っていました.
自然科学の分野に数学への源泉がいろいろありました.結晶点群や空間群なども化学や鉱物学で発展し数学に貢献した例です.
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