X線の微小ビームをつくる
X線は光(電磁波)の仲間です.次の図をご覧ください.波長で言うと左の長い方にはラジオ波,マイクロ波,などの電波があります.われわれの目に見える可視光線はvisibleと記載したほんのわずかな領域です.波長がさらに短くなっていくと,ultrvaiolet,softXrays,hardXraysの領域になります.(ALS資料を加工.日本語の部分をKTが追加)
さて,X線を集光する凸レンズは作れません.その理由は,X線に対する物質の屈折率(n=1-δ-iβ)が,真空中(n=1)とほとんど同じ[わずかに1より小さい(δ~10^-6,従って,n≒1)]だからです.
物質による電磁波の散乱現象は,電場中に置かれた物質中の電子(それぞれの原子核に束縛されて存在)が,電場と同じ周波数で振動子し,振動する双極子(原子核と電子)から同じ周波数の電磁波が放射されることです.
原子核に束縛されながら振動している電子の周波数(原子の種類jにより固有の値)ω_jが,入射した電波の周波数ωに比べて,可視光線の場合はω<<ω_j,X線領域ではω_j<<ωの違いがあり,これが,物質の光に対する屈折率が1より大きく,X線に対する屈折率が1より小さく(ほとんど1)なる原因です.
■X線に対する物質の屈折率はほとんど1でしたから,物資に入射したX線は屈折せず直進します.しかし,物質の屈折率が,1より小さいので,物質表面で全反射させることはできます.これを利用して,X線を集光する反射光学系がいろいろ作られています.
■もう一つのX線を集光する素子はゾーンプレート
2種類のX線顕微鏡の光学系を上に掲載しました.トロイダル・ミラーやシュワルツシルト光学系が使われる例と,ゾーンプレートが使われる例です.
Hichcock教授のSTXMでもゾーンプレートが用いられています.
以下で,ゾーンプレートの仕組みを解説します.ゾーンプレートは光に対しても,X線にたいしても効果がありますが,光源は単色光(波長λ)である必要があります.
ゾーンプレートは,下図のような同心の輪帯環よりなります.図の黒い輪帯環はX線をストップする金属膜がある輪帯環で,白い輪帯環はX線が通過できる輪帯環です.ゾーンプレート前面に入射するX線は,単色(波長λ)である必要があります.最初の白い輪帯環を通過したX線と,次の白い輪帯環を通過したX線の行路差は,焦点位置でちょうど波長分λだけ異なるようします.他の白い輪帯環でも同様で,すべての白い輪帯環を通り抜けたX線は,焦点までの行路で波長λの整数倍だけずれるようにするので,焦点位置で位相が全部そろい強め合います.こうして,単色(波長λ)のX線が焦点に集光できることになります.
Hitchcock教授のSTXM装置にはゾーンプレートが使われています.1st orderの焦点というのは,輪帯環を通る光(X線)が,波長λ分だけずれて集まる焦点で,3rd order 焦点というのは,隣の輪帯環では3λづつずれて集まる焦点です. order sorting apertureの位置を調整して,1st orderの光(X線)だけ集光するようにします.この焦点がサンプル面上に来ます.
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