PenroseタイリングとAmmann線の関係
■ PenroseタイリングとAmmann線
Penroseタイリング(小豆色の線)は,太った菱形と痩せた菱形の2種類のタイルで出来ている.Ammann線とは,タイルの表面に描かれた線分(装飾)のことで,これらの線分が繋がり5つの方向に走る直線[青色直線=Ammannバーと呼ばれる]になるようにタイルを組み合わせると,非周期のPenroseタイリングが完成する.アマチュア数学者Robert Ammannが,Penroseタイリングを観察していて発見したものだが,その一般的説明や構成原理はまだ十分に解明されていない.
下図に示すようなタイルの表面に描かれたAmmann線分は,Penroseタイルの縁に矢尻マークで与えたPenroseのマッチング規則と局所的[有限領域で]に同値である.
Penroseタイリングは多くの興味深い性質を持っており,いくつかの方法[置き換え法(分割とインフレーション),カット&プロジェクション法(高次元空間の切断と射影)]で生成することができるが,Ammann線は,Penroseタイリングを高次元周期空間と結びつける鍵になるので興味深い.部分周期が観測されるのも,高次元空間を2次元に投影したためであろう.
イスラムのモザイク模様を見ていると,大きなタイルユニットを張り詰めて作られているが,大きなタイルユニットのなかに,あたかもAmmann線を思わせるモザイク模様が描かれいるのに気づく.
イスラムのモザイク模様の特徴は,フラクタル性,自己相似性(自分の中に縮小された自分か繰り込まれていく)で,高次元瞑想空間へと誘われる気持ちになる.(giriタイルと呼ばれる5種類のタイルで作られるモザイク模様にはAmmann線を思わせる線分が見られる)
■ カット&プロジェクション法
カット&プロジェクション法は,1981年にドイツのEindhovenのN.G.de Bruijnによって代数的に研究された.彼の学生だったBeenkerは,これに基づきタイリングの全ファミリーを提示した.これには,Ammannがすでに独自に発見していたAmmann-Beenkerタイリングも含まれる.
Penroseが局所5回対称の非周期タイリングの発見は1974年,Martin Gardnerにより広く知られるようになったのは1977年だった.
Ammannの局所8回対称の非周期タイリングの発見は,Penroseの局所5回対称の非周期タイリングの発見と,ほとんど同時期であったが,Ammannはアマチュア数学者であったため知られるのが遅れた*2).
カット&プロジェクション法は,$${n}$$ 次元ユークリッド空間 ($${n>2}$$) を 2 次元平面によりデジタル化したとみなすことができる.最も簡単な$${2→1}$$ でタイリングの概念的な説明をしよう.
■ 高次元空間からの影(2次元の周期的世界→1次元の非周期の世界)
■ $${n → 2}$$
周期的な$${n}$$次元空間の格子点を,その部分空間である2次元の平面に射影してタイリングを作る.この2次元平面(傾斜平面)には1つの格子点が原点として含まれるが,他の如何なる格子点も含まれない(有理数勾配の線は含まれない)場合は,タイリングは非周期である.
Penroseタイルの場合がそうであり,これを定義するタイル集合は非周期:これを用いると非周期タイリングしかできない.
$${5→2}$$の場合は,Penroseタイリング(5回対称準結晶);$${4→2}$$の場合は,Ammann-Beenkerタイリング(8回対称準結晶)が作れる.
概念的な説明でまとめると次のようになる:
Penroseタイリングを例とする:5次元の周期的な空間の内部に,非有理数勾配の斜面「2次元の部分空間」を想定し,5次元周期空間をこの2次元に射影すると非周期の2次元パターンが得られる.この2次元パターンには,射影面の補空間の情報が畳まれて反映されているのだが,これが部分周期やAmmannバーの形で現れてくる.
引用文献
1.The Penrose Tiling is a Quantum Error-Correcting Code; Zhi Li and Latham Boyle; arXiv:2311.13040v2 [quant-ph] 25 Jan 2024
2.Images of the Ammann-Beenker Tilling; Edmund Harriss;
https://archive.bridgesmathart.org/2007/bridges2007-377.pdf
3.Ammann Bars for Octagonal Tilings;Carole Porrier Thomas Fernique;arXiv:2205.13973v2 [cs.DM] 7 Nov 2022
4.美しい幾何学,谷克彦,技術評論社(2019)