ステレオ投影
球表面を平面に写像する方法の一つが,ステレオ投影です.球表面を平面に写像したとき,面積と角度の両方を保存することは不可能です.ステレオ投影は,角度を保存する”等角写像”です.ステレオ投影は,球表面を平面(円の中)に投影する方法です.面積については,投影円の中心付近の面積に比べて中心から離れた円周付近では面積が小さくなります.
このようにして作った地球の地図を,きっと見たことがあるでしょう.地図の他に,多面体の面や,多面体の対称要素の配置の記述など,特に結晶を記述するのにステレオ投影は欠くことができません.
さらに,双曲幾何のポアンカレの円盤モデルの理解のために,ステレオ投影は必要です.エッシャー作品「極限としての円」はすでに取り上げましたが,ステレオ投影の観点から,機会があったら取り上げるつもりです.今回は,ステレオ投影の作り方とその性質だけを,簡単に説明することにします.
地球の北極Nに視点をおき,球面上の点を南極Sでの接平面上に投影します.例えば,P(南半球の点)→P'(基円内の点);NPは地球の内部を過ります.
赤道(青の大円)の投影像は基円(黒の太線).
南半球の球面上の点は基円の内部に,北半球の球面上の点は基円の外側に投影されます.北極N自体は,接平面の無限遠点が対応します.
(注)投影面を赤道を含む面として,北半球の球面上の点は南極と結び,
南半球の球面上の点は北極と結び投影する流儀もあります.この流儀ですと,地球表面の点はすべて基円内に投影されます.北半球からの点と南半球からの点は,例えば,●と〇で区別します・
■写像の性質
この写像は等角写像なので,円は円に写像されます.
(球面)⇔(平面)
大円 ⇔ 基円上の直径両端を通る円弧
小円 ⇔ 小円
(注)大円とは地球の中心を通る平面で地球を切ったときの切り口です.小円は地球の中心を通らない平面で地球を切ったときの切り口です.
大圏コースというのは,地表に沿って,地表の2点を結ぶ長さが最小のもので,2点を通る大円の一部です.
(注)等角写像なので角度は保存されます.例えば,赤道に直交する小円(南半球球面上の部分,図の赤点線)は,基円に直交する円(赤の円弧)に写像されます.例えば,赤道⊥小円は,投影されても,基円⊥小円の関係が残ります.
■応用例
ステレオ投影は,大変重要な手法です.
この多面体には,各面に垂直にさまざまな回転対称軸があります.
ステレオ投影により,これらの対称要素の配置図を,平面(基円内)に得ることができます.
各面の対称軸の位置(■, ▲, ●など),鏡映面(赤い円弧),などが記号で図示されます.
このステレオ投影の例で用いた多面体の対称要素の配置の見取り図を見て下さい.このような見取り図で多面体を描くのは大変です.しかし,ステレオ投影を使えば,簡単にわかり易く,多面体や対称要素を表示できることがわかるでしょう.
■ 双曲幾何の世界と楕円幾何の世界をステレオ投影で結びつける話は,エッシャー作品の「極限としての円」などの双曲幾何平面のタイル張りに関連し興味深いですが,別の機会に譲ります.
美しい幾何学,p.136,137