ロシアの数学教育教材と数学月間流数学
この本の書名「Математическая составляющая」は,形容詞が2つ重なり(後者は能動形動詞)省略されている女性名詞にかかる型である.省略されている女性名詞は多分частьであろう.「数学的に構成している部分」あるいは,『数学的構成要素』と訳すことにする.
ロシア科学アカデミー,ステクロフ数学研究所発行;大幅増補の第2版;2019年11月(367ページ).17,000部発行の初版は,啓蒙賞(2015)とロシア科学アカデミー金メダル(2017)を受賞.
我々周囲の「物」や「事」が,数学と無縁ではないことを,興味深い応用事例で説明している.
ロシアの数学教育は,学校カリキュラムとは別に,日常の事例や遊びの中に,数学を発見させる(実践応用力)を重視している.数学オリンピックの隆盛もこの流れにある.
『数学的構成要素』に取り上げられている応用事例と,対応する数学要素の関係をまとめて表にすると以下のようになる:
■どのような分野でどのような数学が使われるかの例を,もう少し詳しく見てみよう.ここでは2つのエピソードを取り上げる:
・ケーニヒスベルグの街歩きからゲノムの再構築まで
・インターネットの数学
切れ切れのDNA断片を繋いでゲノムを組み立てるのだが,まさに10億個のジグソーパズルを組み立てるようなものだ.数学的には一筆書きの問題に似る.すべての道を1度だけ通る一筆書きはオイラーサイクルといい,全ての頂点を1度だけ通る経路はハミルトンサイクルという.ハミルトンサイクルを見つけるには計算時間がかかる.
多数のサイトとサイト間のリンクで構成されるグラフがインターネットの世界である.サイトやリンクは生成・消滅し変化しているが,系は安定している.サイトに集まるリンクの数をそのサイトの次数というが,次数の高いサイトの割合が臨界値内なら安定が維持される.
■応用事例を踏まえて数学を紹介するのが数学月間流である.
1986年のレーガン宣言で始まった米国MAM(MathematicsAwarenessMonth)は,2017年からStaticsが増えてMSAMになった.その理由は,現実世界の多くの問題に対処するために,統計学の重要度が増したためだ.数学と統計学は,新しいシステムや方法論が複雑化し続ける技術世界において,イノベーションの重要な推進力となっている.
統計学,機械学習,AIは,人文科学への応用も盛んであり,すべての応用数学を飲み込む勢いに見える.しかし,これらの基礎にある数学:線形代数と微積分を疎かにしては不可である.
■数学月間懇話会の第3日目は,生活や社会につながった数学を体験できる
日時●8月5日(月)13:30-17:00(開場13:00)場所●東大(駒場)数理科学研究科棟002教室
●「算数・数学と生活や社会のつながりを実感 体験できる授業と、 Do MATH 同志社中学校数学博物館」
園田毅(同志社中学校)
●「古代の数学エジプト紐と現代のピタゴラス三角形3分木」亀井喜久男(愛知県立大)