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目付字・目付絵の数理トリックとその400年史,秋山久義(パズル研究家)

2021年(第17回)の数学月間(7/22~8/22)は,昨年に引き続きZOOMによるリモート開催になりました.

■第1日(7.22)のzoom講演は,秋山久義氏の表題のものでした.
「目付字」,「目付絵」とは,類似した多数の候補から,客が心の中で選んでいるものを当てる遊びで,直接的でなくyes/noで答えられる数回の質問で当てる数学マジックです.秋山氏の研究によると,平安時代末期には公家の間で遊ばれていたといいます.藤原資隆の「簾中抄」に「いろはの文字くさり」の記述があるのがその証拠です.
これらの遊びの原理は,2進数にあります.2進数で,11111と書けば,2^4+2^3+2^2+2^1+2^0=31のこと,つまり,5桁の2進数で31までの数が記述できます.2進数といえばコンピュータ時代のもののように思うかもしれませんが,400年も前の遊びに使われていたとは驚きです.

塵劫記椿の目付字

例えば,塵劫記の「椿の目付字」(上図)を例にしますと,花弁に書かれているどれかの字を当てるには,その字が出現する花のある枝に書かれた数値を足し合わせます.「椿の目付字」には5つの枝があり,それぞれの枝には,1,2,4,8,16の数字が書かれています.例えば,「正」の字なら,2,4,8の枝にある花弁に出現するので,「正」の字に対応する数字は14.もし,14は「正」という対応表を持っていれば当てることができます.同様に,花弁に「不」の字がある花の枝は,4,16なので,「不」は20に対応します.これらの5つの枝1,2,4,8,16は,2進数の各桁に対応するわけで,意中の字が出現する枝を質問によって知れば良いのです.質問の仕方には色々な演出が考えらますが,意中の字の存在する花が枝1にあるか問い,yes/noの答えを聞くと,全部で32の候補があったとして,候補は半分に絞られます.次に枝2での有無を聞くとさらに半分に絞られ,このように繰り返し,枝16での有無を聞くと,結局,5回の質問で32分の1と絞られ一意の答えが得られます.

講演者の考案・改良した五角形の数字盤とマスクを使用する数あてマジックでは,当てる数字の候補の半分を常にマスクで隠し,半分が穴あき窓から表示されます.マスクを5回回転させながら数が見えるか見えないかを問うことが,椿の目付字の5回の質問に相当します.マスク内での穴あき窓の配置に対称性をうまく利用するなど非常に洗練されたマジックに仕上がっています.もちろん,この数あてマジックの源泉は2進数にあります.その400年の歴史は,平安,室町,江戸,明治,大正,昭和のそれぞれの時代の世相を絵柄に反映し変遷しました.講演と併行して歴史資料として貴重なコレクションの紹介もなされました.秋山氏の数当てマジックについては,以前に書いた記事がありますのでそちらもご覧ください.


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