見出し画像

x(旧)結晶群の一般化(3)

◆ことの起こり(前期):シュブニコフの反対称概念の発見(1945)まで

ヘーシHeeschとシュブニコフShubnikovは,シュパイサーSpeiserが1927年に提案した$${G_{321 } }$$群[3次元帯群]の解釈と,その2年後にウェーバーWeberが$${G_{32 } }$$群[3次元層群]が描いた図[黒-白2色を使い,単面平面上に両面平面を描画--色の違いで厚み方向の幾何学次元を表す]のアイデアに深い感銘を受け,その結果,独立して,反対称の概念の厳密な定義にたどり着きました.

1945年にシュブニコフが定義した反恒等元$${1'}$$とは,幾何空間には作用せず(位置を変えず)に,黒白の色だけを反転する演算です.
古典群に含まれる位数2の元に色の反転$${1'}$$を結合した演算(例えば,$${2'}$$,$${m'}$$)で,始めの群を置き換えると黒白2色群が得られます:$${p_{a}m2}$$ ⇒ $${p_{a}m'2}$$,$${p_{a}m2'}$$,$${p_{a}m'2'}$$:$${pmm2}$$ ⇒ $${pm'm2'}$$,$${pm'm'2}$$.
特に,反恒等元$${1'}$$を,古典群の単位元$${1}$$に結合すると,灰色群(元の群の2倍の位数)が生じます.

・Heinrich Heesch(ドイツの数学者)の関心は,高次元幾何空間の空間群でした.ドイツ,スイスの数学者の関心事は,$${n}$$次元の空間群は有限個かというHilbelt問題の一つに関するものでした.

単面平面(壁紙)の対称群から双面平面(層平面)の対称群を導く方法論は,「群の拡大理論」を基礎としています.
反対称群(シュブニコフ群)2値の色($${+/-}$$)の反転を古典群の位数2の対称操作に結合したように,対称操作の位数と矛盾なく整合の取れる複数色の巡回置換などを結合した演算で置き換えると,多色群が得られます:幾何空間の対称操作に結び付けて,色付き対称群(ベーロフ群)などや,さらなる群の一般化が発展します.この方法論は,低次元空間の対称群から高次元空間の対称群を導くのにも有用です.

●数学と物理学の立場の違い

20世紀初頭の結晶学者は,帯群,層群などの空間群の内部の群に興味を持っていました.
幾何学空間次元だけでなく,特性次元(=色)を付与して,対称性をより豊かにする(特性も記述する)という応用的な価値に注目したのは,A.V.Shubnikov(ソビエトの結晶学者)でした.
ソビエト結晶学派は,対称性の理論の改良は,自然科学の実践で機能するか,将来的に機能する場合にのみ価値があると考えているのです.

●層に対する空間群など,何に応用できるのかと思う方もおられることでしょう.層の対称性(空間群)は,表面や界面の記述に用いることができます.結晶学では液晶構造,ドメイン界面,双晶,エピタキシャル接合の研究に,物理化学では単分子層や薄膜の研究に,生物学では膜構造やその他の生体組織の研究に応用できます.また,建築芸術においても, 透かし彫りの格子構造,覆い,フェンス,看板などのデザインに応用できます.

(注)一般群の記号について

この表記法は1967年以降用いられています

◆空間群内部の小さい群「帯群,層群」

●2次元平面の表裏(2次元平面群$$G_{2}$$と3次元中の層群$$G_{3,2}$$)
2次元平面に裏表があると思いますか?それともないと思いますか?
2次元とは厚み方向の次元がない世界です.3次元に慣れ親しんだ我々は内部があっての表面ですが,2次元世界では表面だけで内部がありません.表側面や裏側面の区別が生じるのは,私たちの住む3次元世界に2次元平面を置くからです.2次元世界には,単面平面しか存在しません.

●周期的な2次元平面とは,面内に2つの独立な並進ベクトル$${a,b}$$があり,この2つのベクトルで挟まれる平行4辺形を単位胞(単位タイル)として,平面を張り詰めた構造です.周期的な2次元平面の対称性(平面群という)は17種類あります[17種類の壁紙模様].壁紙模様は,周期的2次元平面(単面平面)の世界で作ったものです.⇒$${17G_{2 } }$$
我々の居る3次元世界の中で,2次元平面を見たときに,表側面と裏側面の区別が生じます.このような双面2次元平面を「層」と呼びます.⇒$${80G_{3,2 } }$$
層の2次元周期的模様の対称性(空間群)は,80種類あります.もちろん,80種類のうちに(単面)2次元周期的模様の対称群(平面群)17種類は含まれます.


$${17G_{2 } }$$から,どのようにして$${80G_{3,2 } }$$が得られるか.

第1の方法は,層の内部に,対称心,鏡映面(あるいは,映進面),2回軸(あるいは,2回らせん軸),などの,位数2の対称操作を導入し,片面の世界を他の面の世界に写像することです.つまり,
片面のみの壁紙模様の17種類の平面群と,層の内部に置いた位数2の対称群との直積で「層の空間群」を生成する方法です.

第2の方法は,2次元(片面)平面群の生成元の一部を,表面と裏面との間を
変換するものに[回軸対称軸を位数2のらせん軸に,鏡映面を映進面に]変える方法です.

こうして,17種類の平面群から,80種類の層の空間群を導くことができます.層の対称性(空間群)をすべて導くことは,1930年までにドイツの科学者;Hermann,Weber,Alexanderらによって完了しています.

層に対する空間群など,何に応用できるのかと思う方もおられることでしょう.層の対称性(空間群)は,表面や界面の記述に用いることができます.結晶学では液晶構造,ドメイン界面,双晶,エピタキシャル接合の研究に,物理化学では単分子層や薄膜の研究に,生物学では膜構造やその他の生体組織の研究に応用できます.また,建築芸術においても, 透かし彫りの格子構造,覆い,フェンス,看板などのデザインに応用できます.

それにもましてこの概念が重要なのは,層の空間群は,それを含む3次元空間群の内部構造を理解することになり,群の拡大理論に直結し,反対称などの新たな概念を導入した群の構築の基礎になることです.

31の帯群$${G_{321 } }$$, 80の層群$${G_{32 } }$$,75の丸棒群$${G_{31 } }$$は,230のフェドロフ群の部分群[特異(不変)平面や特異直線を持つ]として導出されます.*)
1930年,数学者Heeschは,80の層群$${G_{32 } }$$(2次元群の黒-白群$${G_{2}^{1 } }$$)の導出を,17の層の2次元Fedorov群$${G_{2 } }$$から:
4次元の”超層”群$${G_{43 } }$$(3次元の黒-白群$${G_{3}^{1 } }$$)の導出を,230のフェドロフ群$${G_{3 } }$$から行いました.
同時に,122の4次元の点群$${G_{430 } }$$(黒-白3次元群$${G_{30}^{1 } }$$)を32の結晶点群$${G_{30 } }$$から導出しました.
3次元の空間群$${230G_{3 } }$$に,色特性の次元を加えて(反対称,色付き対称)$${G_{3}^{1 } }$$を考えると,4次元空間群の一部$${G_{4,3 } }$$を得ることができます.

●上図のEscher作品(1943年)は,色の区別をしないで純幾何空間的に見れば,1つの蜥蜴のモチーフで平面が埋め尽くされています.蜥蜴の左手の集まる点には6回回転軸$${6}$$がある.
色を区別する超幾何空間的に見れば,3色の巡回置換が空間の3回軸と結合しており(これを$${6^{(3)} }$$と表示),かつ,色を保存する2回回転軸と共存している.格子は単純な3角格子である.
したがって,色の見分けができなければ古典群$${P6}$$($${G_{2}}$$),色の見分けができれば$${P6^{(3)} }$$($${G_{2}^{1,3}}$$)の3色群である.
この3色群は,純幾何空間的に見れば,らせん軸$${6_{3}}$$があると見て3次元空間の$${G_{3}}$$に属する$${P6_{3}}$$とも解釈でき,これら両者の群は互いに同型である.
興味深いのは,Escherがこの作品を作ったのはShubunikovの反対称概念の発見よりも早いことだ.

空間群$${G}$$には正規部分群として並進群$${H}$$が含まれる.$${H}$$に関するラグランジュ展開の各剰余類を図解すれば,すべての格子点に1つの向きの蜥蜴1匹が配置された格子6種類である.並進群$${H}$$を法として同値とは,無限に繰り返す全格子点に散らばっている蜥蜴を1つの格子点の周りに集めることである.これが代表元系で,点群$${ {1, 6, 6^2, \cdots , 6^5 }=G^*}$$に同型な群に還元される.

◆まとめ
1956-1970 色付き群(ベーロフ)まで :今回
1970-    群の一般化(後期)(コプツィク,ザモルザエフ)⇒次回

幾何空間だけの対称群は,「古典対称群」と呼ばれます.幾何空間の各点に特性(例えば,色,符号など)を付与した空間の対称群は,「反対称群,色付き対称群,一般化群」などと呼ばれ種々あります.これらは,強誘電体,磁性体などの物質の性質の記述に応用できます.

References;

Шубников и Копцик, Симметрия в науке и искусстве (1972)
Shubnikov and Koptsik; Symmetry in science and art (1974)
Вайнштейин, Современная кристаллография, том 1(1979)
Заморзаев и др.; Симметрия, ее обобщения и приложения(1978)
Zamorzaev; generalized antisymmetry, Comput.Math.Applic. Vol.16,No.5-8,p555(1988)

いいなと思ったら応援しよう!