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【SGDトーク】これからのみどりの話をしよう 〜みどり空間とエクステリアの10年を考える〜(ゲスト:梶原 博子 氏, 佐藤 千紗 氏)
これからの空間におけるみどりは、どのように変化していくのでしょうか?変化やトレンドを振り返りながら、ソーシャル・グリーン・デザインの事例やエクステリアの歴史と視点を交差させ、これからのみどりを考えます。
今回のゲストはGREEN is(株式会社商店建築社 発行)編集者の梶原博子氏と佐藤千紗氏。「これからのみどりの話をしよう 〜みどり空間とエクステリアの10年を考える〜」と題して、2022年9月28日(水)に開催されたSGDトークの模様をお届けします。
SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDトークについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。
当日のスケジュールは以下の流れで行われました。
17:00-17:15:イントロ
17:15-17:30:雑誌「GREEN is」について(ゲストトーク)
17:30-18:15:みどりづくりの変遷を振り返る
18:15-19:00:これからのみどりづくりを考える
19:00-19:30:まとめとQ&A
時代ごとに特徴的なみどりの取り組みを掲載
GREEN isとは、植物と共にある空間デザインを掲載する雑誌です。どのような経緯でこの取り組みが始まったのでしょうか?梶原さんと佐藤さんの自己紹介から振り返っていきましょう。
まずは自己紹介から
梶原さん:月刊商店建築でのグリーン特集や、季刊「庭NIWA」の編集に携わる中で、造園家などの仕事を取材をするようになり、植物と建築とが融合した空間づくりに次第に興味が湧いてきました。全国各地には面白い取り組みをしている方々がたくさんいらっしゃるので、そうした方々と読者とが結び付くきっかけを作っていきたいと感じています。
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佐藤さん:10年以上みどり、建築、インテリア、庭などの取材をしていて、空間というのはデザインだけでなく、それを使う人や作る人の思いが滲み出て、それを感じられるのが魅力的だと思っています。緑は生き物であるため、作る人と使う人の心の有り様みたいなものがすごく反映される気がしていて、そのような魅力的な空間を見つけて、空間に浸る、感じるということがこの仕事の醍醐味です。
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「月間商店建築」の増刊号として開始
梶原さん:GREEN ISは「月間商店建築」の増刊号として、2019年に創刊しました。植物を取り入れた空間が増えていることに注目し、人はなぜグリーンに魅力を感じるのか、その背景や心情を探りたいと思い立ち上げました。空間デザインとグリーンのデザインが優れていることや、時代性にマッチしていることを基準として考えながら取材を続けてきました。雑誌の内容を通して、読者の方には自身のアイデアや設計に生かして欲しいと感じています。
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時代性を考えながら発刊
佐藤さん:創刊号では「植物と共にあるデザイン」というテーマで、植物を取り入れることを前提に建築と植物が等価に紹介されている事例を取り上げました。対談を組み、「建築はコントロールできるのに対して、植物は時間をかけて成長するというコントロールできない豊かさがある」というお話などを伺いました。
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梶原さん:vol.2の頃には、環境に配慮するサスティナブルなムーブメントの影響があり、植物とともにある空間はますます増えていったと思います。また、気候変動を実感することも非常に多く、自然との共生をテーマとするプロジェクトも増えていることから、自然を感じる空間デザインをテーマに掲げて取材をしました。
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佐藤さん:コロナが始まって1年経った頃に、vol.3を発刊しました。コロナを経験する中で、人と人との繋がりや、身の回りの自然や地域に目を向けることが多くなりました。みどりが人と人、人と地域、過去と未来などを繋ぐマグネットのような役割になっている事例を取材しました。
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佐藤さん:これまで3号発行してきて、時代の変化に合わせてどういうテーマを設定するべきかを考え、編集してきました。読者の方にみどりはどういう存在なのかを考えてもらえたら、という想いで作っています。
みどりづくりの変遷を振り返る
ここからは、みどりづくりの変遷をさまざまな視点で振り返りました。
佐藤さん:2010年前後が今につながる植物ブームの始まりでした。若手建築家の中で、植物と融合するような建築を考え始める人々が出てきました。モダニズムという白くて均一でシンプルで、コンクリートを使った建築から脱する手法として、植物の持つオーガニックなフォルムや生き物としての生命力に注目したのではと考えています。その代表的な例が、2008年ヴェネツィア・ビエンナーレで石上純也さんが発表した作品です。
その他にも様々な事例とみどりづくりの変遷をご紹介いただきました。
・2010年 BIOTOP TOKYO(東京 白金台)
花屋さんとは異なるボタニカルショップが、ライフスタイルショップやセレクトショップの一角に登場。
・2018年 アマゾン本社(アメリカ)
人間が植物と繋がりたいという本能的欲求(バイオフィリア)を空間に取り入れたバイオフィリックデザインの登場。
・2018年 Ginza Sony Park(東京 銀座)
民間による公園のような大きな緑地を持つ施設がオープン。公募設置管理制度(Park-PFI)によって、公園内に民間のカフェなども併設されていった時代背景がある。
・2019年 KURKKU FIELDS(千葉 木更津)
農園、レストラン、宿泊施設などが点在するサスティナブルなファーム&パーク。安全で新鮮な食材を、生産者から消費者に届ける。循環、サスティナブルなこれからの暮らしを体感する場所。
エクリテリアの歴史について
その後はモデレーターの小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック)から、エクステリアの歴史に関してもお話がありました。
小松さん:エクステリアという言葉自体は、ここ50年くらいの話です。外を囲う空間ということと、内部の庭という意味を含んでおり、とりわけ今から100年前にこういった概念ができてくるんですね。西欧文化の流入をきっかけに、今までの様式との折衷のため、生活改善同盟会による生活改善運動が起こりました。この時の庭園改善案は現代のエクステリアに通じるものがあります。
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SOCIAL GEERN DESIGNの時代背景を考える
また、モデレーターの三島由樹さん(株式会社 フォルク)からはSOCIAL GEERN DESIGNの時代背景についてもお話がありました。
三島さん:2000年代はバブル崩壊後の経済停滞を元にした経済再生の時代で、都心部で大きなディベロッパーによる再開発が行われました。しかし、2010年代はそれに対するカウンターカルチャーとして、都市再生から社会の再生へというプロジェクトが出てきた時代でした。社会の再生とは、地域文化の再生や、環境の再生、コミュニティの再生あたりが主なテーマだったと感じています。
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これからのみどりづくりを考える
ここからはGREEN ISの梶原さん、佐藤さん、モデレーターの小松さん、三島さん、石川さんの全員でディスカッションが行われました。
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石川さん:個人的に気になったキーワードとしては、まず野生の感覚や野生を取り戻すという考え方です。
佐藤さん:空間がオープンしても、みどりは完成形でなくてよいと考えることで、みどりに対する感性は広がりました。ワイルドなものでも美しいと捉えられますし、みどりに対する許容度が広がった感じがします。そこには枯れてても美しいよねという感性があるんです。
三島さん:人の密集度が高まれば高まるほど、そこに自然を作りたくなるという原理があると聞いたことがあります。人が少なくなれば都市のみどりの作り方は変わってきて、自然は変えずに人が変わるという事も必要かもしれません。これがある意味、都市における野生的な自然のあり方だと考えています。植物がないと人は生きられないということに皆少しずつ気付き始めているんです。
石川さん:家や庭の形はどうなっていくんでしょうね。
小松さん:住宅において仕切られた庭といえば、昔は大名や貴族のための日本庭園がありました。でも、今はカーポートすらない分譲地ばかりです。マンションでない戸建住宅、庭の価値はすごく大きいなと。なんとなく緑が見えていればいいよねというところから、活用する庭に変わっていってほしいです。
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梶原さん:造園業のなり手が少ないという問題をよく聞きます。3K的なイメージがあるのかもしれませんが、作るものが素晴らしいのでそこの魅力をもっと伝えてたいですね。今、こういう業界に入ってくる人をどうやって増やしていくのかが課題です。
小松さん:エクステリア・ガーデンの専門校である、E&Gアカデミーを5年間やってきました。昔は設計施工会社の息子さんなどが多かったのですが、今は転職組が多いです。行政、金融などさまざまな業種の方が来られます。そして、造園、エクステリアなど、仕事の幅広さに驚かれます。設計で来たんだけど結局庭師になったとか、園芸のショップに入ったとか、そういう方もおられます。幅の広さがあるからこそ、魅力が奥深いんですよ。
三島さん:今の時代はみどりに興味がある人が、すごく増えているなと思います。誰かの趣味で終わらないスキルになっていくことが必要です。50年前は環境問題があった時代で、緑化政策が進んでいきました。植木をどんどん生産する必要があり、工場や都市の緑化が進んでいきました。その時は量が重要でしたが今では質が重要ですし、個人所有から共有の時代になってきました。もうちょっと町にある既存のストックを廃棄せずに使い直す、アップサイクルするということが新しいマーケットに繋がるのではと思っています。
参加者からのQ&A
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質問①:これからつくりやすいみどり業界、長期的な視点が必要となりますが、予算の組み方、使い方の観点で行政はどのような意識が必要ですか?
佐藤さん:味の素スタジアムの隣のみどりの広場の管理手法がヒントになるかなと思いました。2012年にランドスケープデザイナーの田瀬理夫さんが手掛けた場所なのですが、在来種を残して、外来種を抜きながら、武蔵野の自然植栽を再生しようとしています。管理にはお金がかかりますが、まずは自分たちでやってみようと、選択除草のワークショップを開催し、集まった人で草刈りをしています。みんなでやると、草刈りも楽しくて、ボランティアで続けていくことで実績ができ、他の場所の管理にも取り入れられるなど、広がりが生まれています。まずは(予算のことを考えずに)やってみるというのもありなのかなと思います。
三島さん:予算の組み方や使い方で大事なのは、やりたい人が自分でお金を出してやるということだと思います。行政が予算を組んで無料でやってもらうというよりも、ユーザー、プレイヤーの方々がお金を出し合って、社会を変えていく時代です。プロの視点では、味の素スタジアムの件で、こんな風な成果が得られるというエビデンスを作って、違うところの公園管理の根拠にすることが大事であるという話も聞きました。
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質問②:とても極端な話なのですが、人口減少の中で全ての空き地を豊かにというのは難しそうで、うまく自然化していくプロセスが大事な気がしています。空き地を野生化していくプロジェクトをやってみたいです。
三島さん:空き地はどんどん増えているので、どこに皆の力や知恵を集約していくかというメリハリが重要な気がしています。または粗放管理ということで、楽に管理していける方法を提案していけたらと考えています。
佐藤さん:野生化したお庭は素敵なのですが、素敵にできる管理やデザインが難しいなと思っていて。素敵に見せる管理、技術はどういうものがあるのでしょうか。
小松さん:里山という考え方でいけば、人間の手が加わることで、森が豊かになっていきます。人間が薪を採って、燃料や堆肥などの材料に変えていくわけですが、人間が程よく関わっていく自然は豊かで美しいものでもあるのかなと。公園の一角を完全に野生化していくのもありですが、人間にとってプラスな実用的な空き地、森、里山を作っていく時、日本古来の営みにアイデアがある気がしました。
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質問③:エクステリア業界で(既存のストックを廃棄せずに使い直す)アップサイクルは、業界構造的にハードルがありそうです。まず取り組めるアクションはありますか?
小松さん:スケルトンインフィル(「スケルトン(構造躯体)」と「インフィル(設備・内装)」を分けて建築する方法)的な考え方があります。全てコンクリートなどハードで埋め尽くすと、壊すのにエネルギーがいります。変化する時代に耐えうる作り方があると思っていて、未来には車がいらなくなる時代が来るかもしれません。時代や住まい手が変わっても、変化に耐えうるものを作っていくことはサスティナブルにつながります。
梶原さん:建材のアップサイクルは住宅建材で色々動きがあります。内装施工会社の株式会社 船場さんは、自社のオフィスをアップサイクルで作っておられます。自分たちの施工ででた廃材を使用されているのです。リユース、リサイクルなど、環境に配慮することが、未来の建物づくりに必要です。廃材を使ったアート作品もあります。今後のヒントになる事例ですね。
石川さん:自分の日常の中で実践して発信していくことで、可能性は広がりますね。
【SGDトーク】今回のまとめ
・みどりの必要性は高まっていて、空間はより自然を取り入れた、環境に配慮したものへと変化している。
・空間というのはデザインだけでなく、それを使う人や作る人の思いが滲み出て、それを感じられるのが魅力的。オーナーシップの形態も変化しつつある。
・行政に頼りきらず、やりたい人が主体となって、日常の中でできることから予算を作り実践していく時代。
梶原さん:歴史を並べてみることで、社会の動きや未来への方向性が見えてきました。これからの仕事に生かしていきたいです。
佐藤さん:幅広いお話で、未来に対して、想像が広がりました。「野生の庭」や「育てる・関わる」ということがキーワードに感じました。まずは自分たちの庭からですね。
【SGDトーク】 プロフィール
ゲストスピーカー
梶原博子(かじはら・ひろこ)
「GREEN is」編集、ライター。長野県出身。インテリアの専門誌「室内」を経て、2006年よりフリーランスの編集・ライターとして活動。2015年から季刊「庭NIWA」編集に携わる。2019年より商店建築増刊「GREEN is」の編集に参画。「月刊商店建築」「PenOnline」などに寄稿。全国各地の造園家、ランドスケープデザイナー、植木生産者の活動を取材し、建築と庭、植物を近づけることをミッションに日々奔走中。
佐藤千紗(さとう・ちさ)
「GREEN is」編集、ライター。東京都出身。住宅情報誌の編集を経て、「月刊商店建築」の編集に携わる。2014年からフリーランス。「GREEN is」には、立ち上げから編集として参画。「庭」「商店建築」「Subsequence Magazine」などに寄稿。建築、インテリア、庭など、空間ににじむ個性、社会や自然に対する個人の向き合い方に興味がある。祖母が手入れしていた野草の庭の影響で、学生の頃から庭が好き。
モデレーター
小松 正幸(こまつ・まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 代表理事
NPO法人ガーデンを考える会理事、NPO法人渋谷・青山景観整備機構理事。
「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデンにおける課題解決を目指している。
https://www.rikcorp.jp/
三島 由樹(みしま・よしき)
株式会社フォルク 代表取締役
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 理事
一般社団法人シモキタ園藝部共同代表理事
ランドスケープデザイナー ハーバード大学大学院デザインスクール、マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院都市工学専攻助教の職を経て、2015年株式会社フォルクを設立。 ランドスケープデザイナーとして全国の様々な地域における文化と環境の資源をベースにした場やコモンズのリサーチ・デザイン・運営を行う。季刊「庭NIWA」にて「庭と園藝-社会とコモンズのデザイン論-」を連載中。
https://www.f-o-l-k.jp/
(執筆:稲村 行真)
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