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【SGDトーク】小石川植物祭から考える、植物園の「ひらきかた」(ゲスト:KASA, 田邊 健史氏)

植物園をひらく。2022年に始まった「小石川植物祭」は、誰にとっても全く新しい挑戦だった。第一回目の開催から約1万人の来場者が集い、大きな盛り上がりをみせたこの動きは、地域の関係性を解きほぐし、新しく結び直した。人を巻き込み、みどりを街にひらくために必要なこととはなんだろうか?

東京都文京区の小石川植物園を舞台に植物祭を企画している「KASA KOVALEVA AND SATO ARCHITECTS(以下KASA)」の佐藤 敬さんとコヴァレヴァ・アレクサンドラさん(サーシャさん)、そして、この取り組みを助成する文京区社会福祉協議会 地域連携ステーション フミコム コミュニティマイスターの田邊 健史(たなべ けんじ)さんをゲストに迎えお話を伺った。

SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDトークについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。

当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。

17:00-17:15:イントロ(15min.)
17:15-17:45:ゲスト紹介(30min.)
17:45-18:45:小石川植物祭について(20min.)
18:05-19:00:ディスカッション(55min.)
19:00-19:15:Q&A(15min.)
19:00-19:30:クロージング(15min.)
- 今日のまとめ

小石川植物祭に至るまで

まずは小石川植物祭に至るまでの活動について、KASAの佐藤さんとサーシャさんからご紹介がありました。

KASA:私たちは石上純也さんの事務所で出会い、2019年に独立して、2人で活動してきました。「つくることを繕う事と捉えてみる」と考えています。すでにあるものを自分たちで手を加える事でAとBの関係性が変わるような事をしていきたいです。

KASAはこれまでさまざまなプロジェクトを手がけてきました。例えばヴェネチアビエンナーレロシア館では、モノからヒトへと視点をずらし精神的な効用を追求した建築に挑戦しました。また、瀬戸内国際芸術祭では、「島の人にとっては海も庭なんだ」という気づきから、漁網を使っていくつも重ねて小学校の廃校校舎の中に海を表現する作品も制作しました。

ヴェネチアビエンナーレロシア館
瀬戸内国際芸術祭

このような経験を積み重ねた先に、小石川植物祭のプロジェクトは生まれました。

小石川植物園を眺められるところにKASAの事務所はあります。窓から眺める植物の風景が素晴らしいと感じ、事務所の立地を選んだそうです。植物園と住民の関係性を調整することで、違う街のあり方ができると考え「小石川植物祭」を企画したのが始まりです。とにかく足を運んでポスターを貼り、植物園と街との接点を作ることを意識したといいます。

「都心にこんな場所があるのかと知ってもらえたのがよかったです」と佐藤さん。当日は、高齢者、カップル、学生など、多様な方々が来園しました。

植物祭の期間はみんなで植物園の地図をつくったり、松葉湯のテイスティングをしたりと、五感を使った様々な体験が行われました。また、本屋さんによる植物園を舞台にした小説や随筆を集めて、参加者がロケ地巡りができるような企画や、実際の葉っぱの形のカルタをする企画なども実施されました。植物祭に向けて新しい体験や学びを生み出す過程の中で、街と植物園の垣根をなくしていくことができたといいます。

佐藤さん:来場者は3日間で1万人の大盛況でした。とにかくポスターをたくさん貼って、植物園と街との接点を作りました。植物祭をやって都心にこんな場所があるのかと知ってもらえたのが、よかったなと思っています。ご老人、カップル、学生、多様な人が訪れてくれました。

2023年のテーマは「命名」。名前は植物と人とを結びつけてくれるきっかけになるのではと考えていますとのこと。11月3日から5日、3日間開催されるそうです。さて、どのような展開が生まれるのか楽しみです。

挑戦者をサポートする仕組み

一方で文京区社会福祉協議会では、文京区のチャレンジを応援するBチャレを行っており、田邊 健史(たなべ けんじ)さんはその担当者として、小石川植物園の助成サポートを実施しています。

助成事業は文京区と社会福祉協議会の予算で成り立っていて、6年前から始まりました。文京区の地域課題を区民課がヒアリングして、公募をかけて応募してもらい、採択事業に対して人繋ぎなどの伴走もしています。

田邊さん:植物園でお祭りをやりたいという佐藤さんの声があって、「こういう人と繋がったら面白いんじゃない?」という事でデザイナーさんを紹介しました。助成を決めて終わりだけでなく、応援していきます。第三者だからわかる視点があり、時には引いて、時には寄って、プロジェクトと向き合っています。

ディスカッション、新しいことを始めるには?

KASAのお二人と田邊さんのお話の後、モデレーターの小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック)、三島由樹さん(株式会社 フォルク)、石川由佳子さん(一般社団法人 for Cities)を交えた様々なディスカッションが行われたので、その一部をご紹介します。

三島さん:KASAの事務所の前を通った時に「なんてかっこいい事務所なんだ!」という印象が残っています。まだ生かしきれてない場所がこれだけアクティブになっているんですね。行き着くのは土地の自由さや寛容さを作っていくことになるのではと思ってました。(中略)この取り組みを行う上で、制度などの障壁はあるのですか?

田邊さん:資金面で助成金だけではなく、企業の協賛などを募っていく必要もあるのかなと。今回、企業や大学を含め対話のきっかけ探しをしており、数字で測りやすい成果(参加者一万人とか)を提示することは、違う分野の人と話をするのに必要です。

小松さん:ビジネスとして考えた時に、収益的に回っていて持続可能な形はどのようにお考えですか?

佐藤さん:本当に気持ちで回しているって感じです。ビジネス的に厳しい部分がありますが、楽しく思えるというのが、みなさんを巻き込めている理由です。どこかでシリアスな問題はありますが、まずは「やりたいこと、発明かも?」と思ったことを掘り下げてみることが大事なのではと考えています。企画運営にはイベント会社を入れてなくて、自分たちでやっています。

石川さん:来場者の蓋を開けてみれば1万人が、みどりのパワーに惹きつけられています。植物園をどう地域に開いていったのでしょうか?

佐藤さん:コミュニティをつくることはあまり意識していなくて、やりたいことがあってそれに集まってきています。場所に縛られると堅苦しくていづらいからです。回数を重ねて面識を持つうちに、名前を覚えて、さまざまなことをお願いしあっての繰り返しです。

サーシャさん:植物園を開くと、町の雰囲気が変わります。だからボランティアさんは植物園のことを知りたい、助けたいと思ってくれるんです。

ゲストに対するQ&A

今回も、視聴者の皆様から本当にたくさんの質問をいただきました。質疑応答の一部をここでご紹介させていただきます!

佐藤さん:植物園の視点で見た時に植物は美術品のような扱いなので、ぞんざいにしてはいけなくて、日々のメンテナンスや手入れが必要なものです。僕らはそれを理解して、出店者や来場者に伝えていかねばなりません。伝えていくっていうことが重要だったんですね。

佐藤さん:地方の方が良い自然がないという感覚があって、東京の方がみどりがあるなと。僕らが立ち入れないような藪化しているものには価値を感じていなくて、おばあちゃんが手入れしている植物が植えてある場所が増えていけば良いと思います。ここは東京や地方で差異がないです。

佐藤さん:学芸員の方も最近楽しそうで取り組まれています。陽の当たらない仕事ですが、そこを地域に伝えていくことで誇りを持てる仕事になるという良い循環は生まれています。

田邊さん:以前は植物学としての学びを大事にする植物園側に対して、地域側から「どんな意味があるんですか?」という対話のコミュニケーションが投げかけられていたわけではありませんでした。ただ、自分たちも出店していこうということで、植物園自体も小石川植物祭に出店してくれて、その関係性もより良い方向に変わりましたね。

議論は最後に近づいてまいりました…。

田邊さん:活動をすることに期待や不安があった時に、期待を持てるコミュニケーションをしていくことが大事だと思います。自分ではこう思うという話はあり、地域住民が「まちづくりしたいです」なんて考えていません。「もっとこうなったらよくなるのに」が話ができるくらいです。チャレンジは「かもしれないの塊」です。自分なりに楽しめる、どうやったらよりよくできるのか考えてみることが大事ですね。

佐藤さん:小石川植物園は江戸のお薬園を発祥としており、関東大震災の時の避難所だったり、赤ひげさんが貧困の人をケアしていたりと機能していました。それが東大の研究施設になりました。未来に向けてここをどう位置づけるのか、価値を常に解釈していく必要があります。この場所と街をどう捉え直し、位置付けていくかが重要ですね。物事をH2Oではなく水として、身体的に近くに感じることで、新しいアクションにつながります。水的な精神的なことを大事に育てていきたいと考えております。

サーシャさん:なんとかできそうというモチベーションがあれば、素晴らしい人が集まります。グリーンレボリューションですね。すごいものがあるところを残して、あるものから考えて、新しいものを作っていくことが大事ですね。

議論は尽きず「ぜひ植物祭を商標登録して、それをクリエイティブ・コモンズの形で、広めてみては?」というお話など、などさまざまな展開が見られました。ゲストの3名の皆様、本当にお越しいただきありがとうございました!

【SGDトーク】今回のまとめ

小石川植物園では江戸時代から続く長い歴史の中で、価値を常に再解釈していく必要がある。この植物園をどう捉え直し、どう位置付けていくべきか。新しい挑戦はこれからも続いていく。佐藤さんは「物事をH2Oではなく水として、精神や身体に近くに感じることで、新しいアクションにつながる」と話す。ハードなモノや空間、そして学問のようなものを、より柔らかく流動的なものへと解きほぐし、万人が手にとってすくえる水にする感覚にも近いかもしれない。植物祭という新しい試みは、市民に寄り添い新しいムーブメントを作り出し、我々に植物と人間との新たな関わり方の可能性を示してくれている。

【SGDトーク】 プロフィール

ゲストスピーカー

KASA / KOVALEVA AND SATO ARCHITECTS

東京とモスクワを拠点に活動する日露建築家ユニット。主な受賞歴に、2022年Under 35 Architects exhibition 2022「伊東賞」、2022年 三重県文化賞「文化新人賞」、2021年 第17回ヴェネチアビエンナーレ国際建築展「特別表彰」、2019年 第38回 SDレビュー「鹿島賞」。2022年 瀬戸内国際芸術祭に参加。2022年より 小石川植物祭総合ディレクターを務める。
https://www.kovalevasato.com

・コヴァレヴァ・アレクサンドラ / Aleksandra Kovaleva

1989年 モスクワ生まれ。2014年 モスクワ建築学校MARCH大学院修了。2014-19年 石上純也建築設計事務所を経て、2019年よりKASA共同主宰。2022年東京藝術大学 COI嘱託研究員。

・佐藤 敬 / Kei Sato

1987年 三重県生まれ。2012年 早稲田大学大学院修了(石山修武研究室)。2012-19年 石上純也建築設計事務所を経て、2019年より KASA共同主宰。2020-22年 横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手。2023年より 横浜国立大学非常勤講師。

田邊 健史(たなべ けんじ)
文京区社会福祉協議会 地域連携ステーション フミコム コミュニティマイスター1979年、神奈川県大和市生まれ。新聞奨学生、外食サービス業勤務を経て、2005年からNPOサポートセンターに入職。2010年より東京都中央区の協働推進施設「協働ステーション中央」のチーフコーディネーターを兼務。2016年から個人事業主となり、文京区の地域連携ステーション「フミコム」におけるコミュニティマイスター。Bチャレ(文京区のチャレンジを応援する提案公募型協働事業)の事務局を含め、これまで活動相談4,000件以上、事業構築50件以上に携わり、行政・NPO等による共創のコーディネートを手掛ける。
娘の小学校入学を機に「三鷹市 市民参加でまちづくり協議会(Machikoe)」コミュニティグループなど、住んでいる地域でも活動を始める。趣味は盆踊り。

モデレーター

小松 正幸(こまつ・まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 代表理事
NPO法人ガーデンを考える会理事、NPO法人渋谷・青山景観整備機構理事。
「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデンにおける課題解決を目指している。
https://www.rikcorp.jp/

三島 由樹(みしま・よしき)
株式会社フォルク 代表取締役
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 理事
一般社団法人シモキタ園藝部共同代表理事
ランドスケープデザイナー ハーバード大学大学院デザインスクール、マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院都市工学専攻助教の職を経て、2015年株式会社フォルクを設立。 ランドスケープデザイナーとして全国の様々な地域における文化と環境の資源をベースにした場やコモンズのリサーチ・デザイン・運営を行う。季刊「庭NIWA」にて「庭と園藝-社会とコモンズのデザイン論-」を連載中。
https://www.f-o-l-k.jp/

石川由佳子(いしかわ・ゆかこ)
一般社団法人 for Cities 共同代表理事
アーバン・エクスペリエンス・デザイナー
「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに、様々な人生背景を持った人たちと共に、市民参加型の都市介入活動を行う。(株)ベネッセコーポレーション、(株)ロフトワークを経て独立、一般社団法人for Citiesを立ち上げ。「都市体験の編集」をテーマに、場のデザインプロジェクトを、渋谷、池袋、アムステルダムなど複数都市で手がける。学びの場づくりをテーマに、アーバニストのための学びの場「Urbanist School」、子供たちを対象にした都市探求のワークショップ「City Exploration」を実施。最近では、渋谷区のササハタハツプロジェクトにて街路樹のオンラインデータマップ化を目指す「Dear Tree Project」を立ち上げ、都市のみどりづくりにも携わる。
https://linktr.ee/YukakoIshikawa

(執筆:稲村 行真)

アーカイブ動画について

▼今回のSGDトークの全ての内容は、以下のYoutube動画にてご覧いただけます。




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