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【SGDトーク】社会を醸成する、関係性のデザインを考える(ゲスト:馬場拓也氏, 金野千恵氏)

勇気ある一歩は壁を取り払い、庭を作ることから始まりました。そして、福祉施設が大きく地域に開かれ、地域住民が集う交流の場が作られたのです。

今回は神奈川県愛川町で社会福祉法人を経営する馬場拓也さん(社会福祉法人愛川舜寿会/理事長)と、浅草橋で設計事務所を主宰し、京都工芸繊維大学でも教鞭をとっている金野千恵さん(建築家/teco主宰)をゲストに迎えお話を伺いました。

2人が協働して立ち上げた「春日台センターセンター」は完成後、日本建築学会賞やグッドデザイン賞の金賞を受賞。場における営みを含めて、社会的意義のあるデザインがここに誕生しました。福祉と建築の側面から、新しい場の作り方を考えます。

SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDトークについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。

当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。

14:00 ご挨拶&今回のテーマについて(20min.)
14:30 基調講演(60min.)
-社会を醸成する、関係性のデザインを考える
馬場 拓也 氏, 金野 千恵 氏
15:30 トークセッション(50min.)
– 馬場 拓也 氏×金野 千恵 氏×三島 由樹×石川 由佳子×小松 正幸
16:20 投稿された質問への回答(30min.)
– 参加者の方から質問を受け付け、ゲストと共にディスカッションしていきます。
16:50 まとめ(10min.)
– 今日のまとめ

地域と施設が繫がるということ

それではまず、基調講演の内容から振り返っていきましょう。

馬場さんと金野さんは愛川舜寿会、凸凹保育園、春日台センターセンターなど、さまざまなプロジェクトを一緒に取り組んできました。まず2016年の神奈川県愛川町の特別養護老人ホーム「ミノワホーム」における外構「ミノワ座ガーデン」から2人の挑戦は始まります。ここでは特別養護老人ホームの外構の壁を壊し、地域と施設がつながるということを意識した外空間・中間領域のデザインが施されました。

馬場さん:壁を壊すことで、車が突っ込んでくるかもとか、誰かが入ってくるんじゃないかという心配もありました。それでも壁を壊すことで素晴らしい風景ができました。

金野さん:コミュニケーションが生まれるような植栽ではなかったので、座る場所のバリエーションをまず作りました。ダイニングテーブルや自販機を設置したり、芝生の中にかまどのベンチなどを作ったりしました。そこで避難訓練と称して、ホルモンを焼き始めるということもありましたね。町の庭のようなものとして使ってもらえるように設計を考えました。庭を通って道を通り抜ける人が出るくらい、壁が取っ払われたことで、内と外との関わりが生まれました。

春日台センターセンターができるまで

2015年末から「春日台センターセンター」の構想が始まりました。舞台は、地元に愛された春日台センターというスーパーマーケットです。1970年代からこの春日台地区の消費活動と人びとが集う中心だったこのスーパーも、コンビニエンスストアやショッピングモールの台頭により、全盛期の輝きを失っていき2016年4月に閉店。馬場さんは、自分が幼い頃から通っていたスーパーが閉店することを聞き、何かここでできることはないかと考え、まずは地域の人たちとの対話を重ねる活動として、金野さんらと共に2017年の3月から「あいかわ暮らすラボ」という住民参加型のワークショップを開催し、この場所に必要な風景を考えていきました。

また、生活の中の課題としては、例えば竹やぶが荒れている、耕作放棄地が多い、河川環境が変わってきたなどの話や、集まる場所がないなど地域課題が出たといいます。そしてその課題を逆手にとって、竹林整備としてタケノコ掘りをしてタケノコご飯を作ろうというアイデアが生まれました。他にも地域と対話を繰り返す中で、障害を持っている子や不登校の子の話もよく聞くようになったといいます。そのなかでも、外国にルーツのある子どもたちの不登校の問題などが深刻な状態であることを「あいラボ」のメンバーが知り、衝撃を受けたといいます。

その背景として、愛川町には「内陸工業団地」と呼ばれる広大な工業地帯があります。この総面積234万平方メートル(約71万坪)の工業エリアは、流通系、工業系など計152社からなり、従業員数は1万3千人にも及びます。そこには外国人労働者が多く従事していることから愛川町は人口に占める外国人の割合が神奈川県内トップの8.4%という外国人集住地域でもあります。南米ペルーやブラジルや東南アジアからの外国人労働者の子どもたちが言語や文化の違いから不登校になるケースが散見されているという現状も知ることとなったのです。

このような開かれた場づくりを通じてさまざまな分野の人が集まり、建築が立ち上がる以前からコミュニティが育まれていきました。その人びとのつながりや地域の課題が統合されるような流れで、2022年に「春日台センターセンター」が完成しました。

名称の由来は春日台センターをもう一度まちの中心にしよう、という意味。認知症グループホーム、小規模多機能型居宅介護、放課後デイサービス、洗濯代行・コインランドリー、コロッケスタンド、寺子屋、コモンズルームなど、7つの機能が組み込まれました。

コロッケは地域の方から「以前、春日台センター内で人々に愛されていたコロッケ屋さんの記憶をつなげたい」という意見が上がり、そこに福祉を掛け合わせることで、障がい者のはたらく場(障害者就労継続支援事業)としてのコロッケスタンド「春日台コロッケ」が立ち上がりました。そうなると、コインランドリーを待ち合わせの場所にして、そこに座って話ができるのもよさそうということになったといいます。


馬場さん:「ここで洗濯物を干していたおばあちゃんっていたよな」と、子どもが大きくなって思い出すかもしれません。サービスを受けるのは認知症の高齢者だけじゃなくて、子どもが将来受益者になる可能性もあるんです。全員が老いに向かっていて、そこを悲壮感漂う場所にしたくないですね。窓際で子どもと高齢者が言葉を交わしたり、会釈だけでもコミュニケーションをとれるような関係性がまちのなかに必要です。

金野さん:内部と外部をどう解体していくか、人がどう重なるか、そういう可能性を考えて設計しました。人のつながりや交わりがどう生まれていくのかを議論を重ねて作りました。吹き抜けを作って、光や風を取り込むことも考えました。

ディスカッション、半屋外空間の発想はどこから

馬場さんと金野さんのお話の後、モデレーターの小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック)、三島由樹さん(株式会社 フォルク)、石川由佳子さん(一般社団法人 for Cities)を交えた様々なディスカッションが行われたので、その一部をご紹介します。

小松さん:2人のお話を聞かせていただき、工期は短く効率的にという施工の事例も多い中で、長い時間をかけて場所を作っていくというプロセスから、人のために場所があるということを改めて考えさせられました。

石川さん:コミュニティを作るって作ろうと思っても作れないですよね。長い時間をかけて作ってこられたんだなと思いました。

三島さん:デザイナーとして建物に感動しました。(何かテーマを決め込むように)主張を通すような建築も多い中で、人の振る舞いのバックグラウンドになるような建築でもあると思います。参考事例は何かありましたか?

金野さん:人が定着していく風景を常に考えており、その結果として庭を作るときもあれば、建築を作るときもあります。だからこそ人の振る舞いが前景化するんです。ただ時には建築もわかりやすいシンボル性を纏う必要があり、今回春日台センターセンターを設計する上で注目したのが、屋根付きの半屋外空間でした。研究をしていく中で、ヨーロッパなどにも視察に行きました。ネパールのバクタプルの広場なども参考になりました。何やってても良い、家でも仕事場でもない場所に集っているんですよね。公共施設ではなく住民自治で行われていて、縁側が肥大化した感じですね。掃除をしたり、屋根を直したり、協力しながら行っているんです。


馬場さん:建築として解決に導く、行き着くのはどんどんシンプルな形になっていくのだと思います。愛川町の牛小屋や豚小屋も参考にしました。

ゲストに対するQ&A

金野さん:私の場合はすごく細かいこと、例えば庭にある石のサイズのバランスについてなど頼んでしまいます。建築の中と外という分け方ではない、曖昧な環境をどう一緒に考えていけるかが大事だと思います。

馬場さん:僕らの仕事は地域を顕微鏡のように覗くお仕事をしていて、表層的には課題が見えてきません。そこがとっても重要なのです。大きなサービスの受益者の中には社会課題のSOSのサインを出せない人がいます。大きく変えていかないといけないのは、子どもの問題です。例えば、児童虐待などがありますね。ある意味弱者になってきてしまうこともあり、もっと真剣に考えていかないといけませんね。これはパッケージにして展開していくものではないです、市場に飲み込まれていくことは望んでいることではありません。

馬場さん:楽しそうにするということも大事です。今も会議室ではなくソファーに座って、こうやってトークを配信していますよね。(前述の住民参加型のワークショップ「あいラボ」では)「一回来たらあいラボのメンバーね」と言っています。バンドの無期限停止のような感じで、終わりをなくすということも工夫としてあります。微妙な調整をしているんですよね。

お話は多岐にわたり、素晴らしい対話の時間となりました。金野さんいわく「春日台センターセンターは「地域共生文化拠点」です。町の文化を作っていきたいという想いがあります。高齢者、障害者、子どもは昼間のプレイヤー、その町の風景を作っていく人ですよね。」と。福祉施設はその町の文化を作っていく可能性に満ちた存在であることを知れました。

【SGDトーク】今回のまとめ

・馬場さんと金野さんは福祉と建築の立場から、地域と施設がつながるということを意識して、建物の内と外の中間領域のデザインを考えている。
・開かれた場づくりを通じて単なる福祉施設としての仕事にとどまらず、広く地域課題を知り、そしてそれを長いスパンで解決したい。
・春日台センターセンターは集まる場所をもう一度街の中心にすえる、という意味があり、認知症グループホーム、コインランドリー、寺子屋など7つ機能がある。
・地域を顕微鏡のように覗き、そして町の文化をつくる仕事でもある。

【SGDトーク】 プロフィール

ゲストスピーカー

馬場 拓也 氏
社会福祉法人愛川舜寿会 理事長  洗濯文化研究所 代表
1976年神奈川県生まれ。
日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント修士課程修了。
大学卒業後イタリアのファッションブランド「ジョルジオ アルマーニ」にてトップセールスとして活躍した後、2010年に2代目経営者として現法人に参画。
これまでに、空間から人と人の社会的距離を再考し、介護施設の庭を地域に開放する「ミノワ座ガーデン」、居室のプライバシーを改善する「ミノワセパレイ戸」を建築家・造園家・大学生らと共に実践。
2017年より公民館にて市民の語り場「あいかわ暮らすラボ」を運営。
2019年に障がいのあるなしによらず共に過ごすインクルーシブ保育「カミヤト凸凹保育園+凸凹文化教室」を開園した。
2022年には地域共生文化拠点「春日台センターセンター」を開設。洗濯事業「洗濯文化研究所」を開設。
著書「介護業界の人材獲得戦略(2015、幻冬舎)」
共著「わたしの身体はままならない(2020、河出書房新社)」「壁を壊すケア:「気にかけ合う街」をつくる(2021、岩波書店)」。

金野 千恵 氏
建築家 t e c o主宰  京都工芸繊維大学 特任准教授
1981年神奈川県生まれ。東京工業大学大学院在学中の2005-06年スイス連邦工科大学奨学生。2011年 東京工業大学大学院博士課程修了、博士(工学)。2011年KONNOを設立ののち、2015年より t e c o主宰。現在、京都工芸繊維大学 特任准教授、東京工業大学、東京藝術大学にて非常勤講師。住宅や福祉施設、公共施設などの建築設計とともに、まちづくり、アートインスタレーションまでを手がけ、仕組みや制度を横断する空間づくりを試みている。主な作品に住宅 「向陽ロッジアハウス」(平成24年東京建築士会住宅建築賞金賞、2014年日本建築学会作品選奨 新人賞ほか)、高齢者幼児複合施設「幼・老・食の堂」(SDレビュー2016 鹿島賞)、ヴェネチア ビエンナーレ建築展2016 日本館 会場デザイン(特別表彰 受賞)、地域共生文化拠点「春日台センターセンター」(2023年 日本建築学会賞(作品)受賞)。主な著書に「WindowScape窓のふるまい学」(2010、フィルムアート社、共著)など。
https://teco.studio/

モデレーター

小松 正幸(こまつ・まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 代表理事
NPO法人ガーデンを考える会理事、NPO法人渋谷・青山景観整備機構理事。
「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデンにおける課題解決を目指している。
https://www.rikcorp.jp/

三島 由樹(みしま・よしき)
株式会社フォルク 代表取締役
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 理事
一般社団法人シモキタ園藝部共同代表理事
ランドスケープデザイナー ハーバード大学大学院デザインスクール、マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院都市工学専攻助教の職を経て、2015年株式会社フォルクを設立。 ランドスケープデザイナーとして全国の様々な地域における文化と環境の資源をベースにした場やコモンズのリサーチ・デザイン・運営を行う。季刊「庭NIWA」にて「庭と園藝-社会とコモンズのデザイン論-」を連載中。
https://www.f-o-l-k.jp/

石川由佳子(いしかわ・ゆかこ)
一般社団法人 for Cities 共同代表理事
アーバン・エクスペリエンス・デザイナー
「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに、様々な人生背景を持った人たちと共に、市民参加型の都市介入活動を行う。(株)ベネッセコーポレーション、(株)ロフトワークを経て独立、一般社団法人for Citiesを立ち上げ。「都市体験の編集」をテーマに、場のデザインプロジェクトを、渋谷、池袋、アムステルダムなど複数都市で手がける。学びの場づくりをテーマに、アーバニストのための学びの場「Urbanist School」、子供たちを対象にした都市探求のワークショップ「City Exploration」を実施。最近では、渋谷区のササハタハツプロジェクトにて街路樹のオンラインデータマップ化を目指す「Dear Tree Project」を立ち上げ、都市のみどりづくりにも携わる。
https://linktr.ee/YukakoIshikawa

(執筆:稲村 行真)



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