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【SGDトーク】これからをつくる エコロジカルな仕事 〜その土地土地の文脈を編むみどりづくりの実践〜(ゲスト:吉岡 秀幸氏, 河合 菜採氏)

今回のSGDトークは、遠いようで意外と身近な「エコロジー」のお話。ゲストにとちどちランドスケープ室の吉岡秀幸氏とマメシバ造園の河合菜採氏をお迎えしました。「創造的メンテナンスのための、仕組みづくりと人づくり〜ガーデンキュレーター」と題して、2022年11月25日(金)に開催されたSGDトークの模様をお届けします。

SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDトークについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。

当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。

17:00-17:15:イントロ(15min.)
17:15-17:30:ゲスト紹介(50min.)
- エコロジカルな仕事とは?(吉岡秀幸さん)
- 庭づくりのプロセスをデザインする〜シモキタ園藝学校の実践から〜(河合菜採さん)
17:30-18:30:その土地土地の文脈を編むみどりづくりの実践に向けて(60min.)
18:30-19:00:参加型ディスカッション(30min.)
19:00-19:30:まとめとQ&A(30min.)


エコロジカルな仕事とは?(吉岡秀幸さん)

それでは「ゲスト紹介」における吉岡さんのトークの一部を振り返っていきましょう。

とちどちランドスケープ室のお二人、写真左が吉岡さん

吉岡さん:ランドスケープアーキテクトであり、一級造園施工管理技士です。2019年5月に長野県の伊那谷に移住してから関東との2拠点で「とちどちランドスケープ室」という名前で、活動をしています。

「とちどち」とは「土地土地」のことで、その土地ごとの個性やイトナミ風景やローカルな視点を尊重する想いが込められています。また、これまで人のためだけに作られたデザインは多かったですが、これからは人が暮らすことで逆に生態系が豊かになるデザインを当たり前にしたいです。

吉岡さんはフィールドデザイン、フィールド調査部、エコロジカル管理、ランドスケープエコロジースクールという4つの活動をされています。

吉岡さん:エコロジカルランドスケープデザインとは、個々の土地だけを見ていくのではなく、地域的な自然環境の一部としてその土地を捉え、人の営みとの良好な相互作用をデザインする技術のこと。その視点には鳥の目と虫の目があり、鳥のように俯瞰する視点も必要なのです。

とちどちの仕事を紹介

ここからは、実際に吉岡さんが最近取り組まれている長野県伊那谷でのプロジェクトについてご紹介いただきました。

吉岡さん:伊那市での仕事「みんなの丘プロジェクト 伊那谷編」では、四世帯一体型の住宅地を作りました。境界線を無視して、全体の環境が一体となる住宅地であり、水の流れや風の道などを考えながらデザインしていきました。借景のように外部環境といかに繋がっていくかを考えながらも、内部環境にも豊かな環境を作っていくという意識を持っています。

境界線をなくす住宅のデザイン(伊那谷)
ウッドチップを埋めて表面を焼いて腐りにくくして斜面を安定させる技術(伊那谷)
一番低い場所を貯留層にして、そこに向けて溝を作る(伊那谷)
雑草や残菜、落ち葉を溜め込むコンポスト(バイオネスト)の作成(伊那谷)
子供たちが自分の住む町のまちづくりに参画していくためのアート(伊那谷)
雨水を防止するためのブロックをベンチとしても活用(伊那谷)

吉岡さんの紹介していただいた事例では、家と家との境界線をなくしていくことで住民同士の交流が生まれ、それとともに地域の自然と接続していく知恵や工夫が感じられました。

庭づくりのプロセスをデザインする〜シモキタ園藝学校の実践から〜(河合菜採さん)

次に河合さんのトークの一部も振り返っていきましょう。

河合さん:普段はマメシバ造園の名前で、造園業を営みながら、庭づくり塾の運営も行なっています。幼少の頃、東京都武蔵野市に生まれ育ちました。街並みは徐々に開発が進み、畑や農家の屋敷林などの周辺の緑が消えていく危機感を感じていたことを覚えています。

河合さん:しかし、大人になってから、敷地をフェンスで区切らずに緑がその境界をゆるく繋ぐ、古民家シェアハウスと環境共生型のコーポラティブハウスに出会いました。住民がお互いに行き来して、交流が生まれる場所になっていたんです。これは緑が消えてしまう「ネガティブな危機感」ではなく、緑があることでコミュニティが生まれる「ポジティブな可能性」を感じました。そのような経緯で建築の仕事をしていましたが、造園業の道に進路を変えて、後に独立しました。

シモキタ園藝部の活動を紹介

世田谷区下北沢の線路街で行われている、シモキタ園藝部の活動。東北沢から世田谷代田までの1.7kmの線路街にある緑が、街の人々を繋いでいるそうです。

河合さん:普通であれば造園業者に管理を委託するところを、街に緑を増やしたい「北沢PR戦略会議 緑部会」と線路街のグランドデザインを考える「株式会社フォルク」が共同し、そこに様々な方々が関わるような形で活動に取り組んでいます。

河合さん:小田急電鉄さんから、園藝部が拠点を構えて街の緑化活動に関わる「支援型開発」の提案をいただきました。それで植栽管理の範囲が広がったり、拠点の入居にあたって家賃が発生したりして、持続可能な事業計画を考える必要がでてきました。その中で、私は植栽管理とスクールの事業を任せていただくことになったんです。

植栽管理とスクールの事業の連携
一年間のスクールで学べること
スクールで学んだ後、植栽管理やスクールの運営に関わってくれる人もいる

その土地土地の文脈を編むみどりづくりの実践に向けて、ディスカッション

吉岡さんと河合さんのお話の後、モデレーターの小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック)、三島由樹さん(株式会社 フォルク)、石川由佳子さん(一般社団法人 for Cities)を交えた様々なディスカッションが行われたので、その一部をご紹介します。

三島さん:なぜエコロジーという視点で、活動をしようと思われたのですか?

河合さん:子どもの頃、お金以上の価値を認めないとあっさりなくなってしまう自然を見てきました。異常気象などもある中で、身近な地域から失われているものがあり、気がついたら全体として後戻りできないところまで来ていることに危機感を感じました。緑を触っているからエコロジカルなわけではなくて、庭を作ることも消費することや捨てることと無縁ではありません。吉岡さんのプロジェクトからも大きなヒントをいただいています。

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小松さん:エクステリアや造園の業界がもっとエコロジカルを意識するためにできることは何でしょうか?

吉岡さん:このエリアだからこうするという土地性に関する視点を持つことが大事ですよね。同様にビオトープを学ぶと生き物の生活や生態を俯瞰して知ることができ、自分とは逆の視点が得られるんです。例えば自分の作った庭は果たしてトンボにとって良かったのかどうか?ということを考えることもありますよ。

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石川さん:都市は経済合理性が優先されるので、地域として連帯していくことには難しさがあります。エコロジカルなデザインを作っていくには、何かしらの新しい指標や評価軸を使ったコミュニケーションが必要かと思うのですがどうお考えでしょうか?

吉岡さん:都市は地方と比べて、自然資源が少ない分、人の資源が多いですよね。東京には人が作り出すクリエイティブな力があると思うんです。ただ、環境を使い尽くしているのでオーバーユースですよね。本当の土地の姿はこうだったということをデザイナーが可視化していくことは必要ですね。

河合さん:そうですよね、今見えているものが全てではないということに共感しました。シモキタ園藝部のスクールでは、下北沢の地層を学ぶ講座もあります。時間軸と空間軸で見えていない世界への想像力を働かせるということですね。開発の歴史を知ると地面の下で起こってきたことがわかり、それは植物の成長を考える上でも大事です。

参加型ディスカッションとQ&A

今回も、視聴者の皆様から本当にたくさんの質問をいただきました。今回は画面をオンにしていただいて、参加者とのコミュニケーションも進みました。質疑応答の一部をここでご紹介させていただきます!

河合さん:植物のそばに虫が生活していることを体感してもらうため、虫が食った自然栽培の野菜と農薬を使った野菜を食べ比べしてもらうなどの体験を取り入れた工夫があると良さそうですね。

吉岡さん:エコロジカルの定義は難しいですが、土地ごとの植生や生物や土壌などとの繋がりがあることでしょうか。緑を植えるのは何の目的なのかを考えることが大事です。例えば、人が暮らしの中で手を入れて利用して、そうすることで生物多様性が高まるという緑のデザインがあります。一方で手を入れたくないのであれば、落葉広葉樹ではなく照葉樹林を植えて光を入れずに林間を閉じて安定した樹林を作るとか、人を楽しませる花を植えるとか、いろんなデザインがあり得ますよね。

河合さん:植栽など様々な仕事を単にプロにお願いするだけでなく、プロがその場所を気に入ってくれている人に対して学びの機会を提供することもできます。それが例えば竹垣作りの技術を学べるなど「滅多にできない体験」だと良いでしょう。そのようなことを1年や2年じゃなくて、長いスパンで考えていくことが大事です。

吉岡さん:お金が付くような詳細な植生調査をしなくても、リサーチはすると思うんですよね。例えば闇雲に塀や扉を作ったり木を植えたりするのではなく、歩き回って風の向きや日当たりなどを観察することが大事です。それを踏まえてお客さんにプレゼンすると、どれだけ設計料などのお金にフィードバックされるかわかりませんが、少なくともその場の価値を高めることにはなります。

たくさんの質問をいただき、とても有意義なディスカッションの時間となりました。地球の時間を刻むように長期的な視点で考えていく必要があるエコロジカルランドスケープの世界において、自分たちが今生きている足元からコツコツと活動を展開していく必要性のようなものを強く感じました。

【SGDトーク】今回のまとめ

・エコロジカルランドスケープデザインとは、個々の土地だけを見ていくのではなく、地域的な自然環境の一部としてその土地を捉え、人の営みとの良好な相互作用をデザインする技術である。
・金銭的以上の価値を認めないとあっさり緑が消えてしまうという「ネガティブな危機感」ではなく、緑があることでコミュニティが生まれる「ポジティブな可能性」を感じている。

【SGDトーク】 プロフィール

ゲストスピーカー

吉岡 秀幸(とちどちランドスケープ室代表)
阿佐ヶ谷美術専門学校デザイン科卒業後、公園緑地、環境保全林等の設計事務所勤務等を経て、1999年横浜にてエコロジカルランドスケープデザイン事務所を開設。 2019年5月 伊那谷の環境と人に魅了され、伊那市に移住すると同時に事務所名を「とちどちランドスケープ室」に改称し、関東と2拠点でのデザイン活動を開始。RLA(登録ランドスケープアーキテクト)、一級造園施工管理技士。
https://www.facebook.com/tochidochi.landscape/

河合 菜採 (マメシバ造園代表)
東京都下、井の頭に生まれ、深大寺で育つ。雑木林を遊び場にして、動物や植物に親しみながら幼少期を過ごす。大学では文学部哲学科に進み、主に建築と社会との関係を学ぶ。卒業後、建築設計事務所、住宅設備会社に勤務し、主に住まいの内部の裏方を担当する。心地よい空間を追究した結果、住まいの外側を丁寧に作ることの大切さに気づいて造園の世界に転向する。造園会社勤務を経てマメシバ造園設立。個人邸の庭を考えて作り育てることをまでを一貫して手が ける仕事のほかに、最近は造園技術を通し人が関わる場所 づくりに貢献することを目指して、宝庵庭づくり塾やシモ キタ園藝部などで教育普及活動にも参画。
https://www.facebook.com/mameshiba.zouen

モデレーター

小松 正幸(こまつ・まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 代表理事
NPO法人ガーデンを考える会理事、NPO法人渋谷・青山景観整備機構理事。
「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデンにおける課題解決を目指している。
https://www.rikcorp.jp/

三島 由樹(みしま・よしき)
株式会社フォルク 代表取締役
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 理事
一般社団法人シモキタ園藝部共同代表理事
ランドスケープデザイナー ハーバード大学大学院デザインスクール、マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院都市工学専攻助教の職を経て、2015年株式会社フォルクを設立。 ランドスケープデザイナーとして全国の様々な地域における文化と環境の資源をベースにした場やコモンズのリサーチ・デザイン・運営を行う。季刊「庭NIWA」にて「庭と園藝-社会とコモンズのデザイン論-」を連載中。
https://www.f-o-l-k.jp/

石川由佳子(いしかわ・ゆかこ)
一般社団法人 for Cities 共同代表理事
アーバン・エクスペリエンス・デザイナー
「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに、様々な人生背景を持った人たちと共に、市民参加型の都市介入活動を行う。(株)ベネッセコーポレーション、(株)ロフトワークを経て独立、一般社団法人for Citiesを立ち上げ。「都市体験の編集」をテーマに、場のデザインプロジェクトを、渋谷、池袋、アムステルダムなど複数都市で手がける。学びの場づくりをテーマに、アーバニストのための学びの場「Urbanist School」、子供たちを対象にした都市探求のワークショップ「City Exploration」を実施。最近では、渋谷区のササハタハツプロジェクトにて街路樹のオンラインデータマップ化を目指す「Dear Tree Project」を立ち上げ、都市のみどりづくりにも携わる。
https://linktr.ee/YukakoIshikawa

(執筆:稲村 行真)

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