アシックスと日東電工(下)

A:アシックス(7936)と日東電工(6988)の続きですね。

T:前回、アシックス株式を保有する15社の保有株式を、国内外で売出すことによって、アシックスは127の機関投資家を獲得し、米国の代表的な長期投資家を含む94社を新規株主として獲得したことを説明したよね。アクティブ投資家を開拓しようと努力しているIR関係者であれば、この凄さがわかると思う。

A:当社の今年のIR目標の一つは、アクティブ投資家による保有株数を増やすこと。また、大口投資家を最低1社以上増やすことです。これがなかなか難しいから目標に据えているわけです。アシックスが成し遂げたことは、驚きを超えていて、異次元のレベルです。

T:アシックスが公表した本年7月12日の「株式の売出しに関するお知らせ」はいわばIRの教科書。気迫、決意、熱量にも圧倒される。また同資料にある「2018年以降の経営改革とその成果の振返り」も勉強になる。どのように企業経営を進めていくのか、IR活動を進めていくべきか、この点でも学びの宝庫。

A:IR活動だけではないかもしれませんが、凄い会社はとことん凄くて、他社との差が開く一方ですね。

T:そうだね。それで、もともとのお題にあった日東電工だけど、こちらも今年凄い発表を行った。先にアシックスの話をしてしまったけれど、日東電工は本年3月28日に『すべての政策保有株式の売却完了および「政策保有株式ゼロ方針」策定のお知らせ』を公表した。

A:お題として名前を挙げておきながら、日東電工をあまり知らず、どのような企業なのでしょうか。

T:ニッチ分野で世界トップシェアを目指す「グローバル・ニッチ・トップ」戦略を基軸に据えていて、偏光板や保護フィルムなどで稼いできた。いまは、「デジタルインターフェース」「パワー&モビリティ」「ヒューマンライフ」の3つを重点分野に据えている。化学セクターではあるのだけど、電子部品メーカーと形容されることも多い。一言で説明することはできず、アナリスト泣かせの企業と言える。

A:昔から優良企業との認識だけはあったのですが、事業内容を理解できずにいました。

T:優良企業であるにも関わらず、株価があまり伸びきらないのは、事業内容を理解することが難しいからかもしれない。ちょっと前まで、時価総額1兆円の壁みたいなことが言われていたけれど、2024年は株価が上がって、今の時価総額は1.76兆円くらいになっている。

A:それは良かったですね。

T:それで、先ほどの政策保有株式の話に戻るけど、日東電工は2015年から政策保有株式の売却を進めてきて、2024年3月に売却を完了。また「政策保有株式ゼロ方針」を定め、資本・業務提携を目的とする株式の取得を除き、今後も政策保有株を持たないという。

A:政策保有株式の売却だけでなく、将来の方針まで明確に定めた事例は他にないような印象です。

T:うん。当初はそれほど話題にならず残念に思っていたけど、幸いその後、政策保有株式の売却に関する文脈の中で、日東電工の事例が引き合いに出されることが増えてきたように思う。

A:こうした優れた取り組み、方針こそもっと評価してほしいですね。

T:株主資本に占める比率10%、純資産に対する比率20%未満あるいは10%未満という方針を掲げている企業も多いけれど、まだそれだけの保有を継続するつもりなのかと驚くよ。

A:日東電工やアシックスのような企業こそ、プライム市場に上場する資格というか品格がありますね。

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