アシックスと日東電工(上)
A:アシックス(7936)と日東電工(6988)について、今日はお願いします。
T:ともに、クオリティ銘柄と言われるし、直近では政策保有株式の売却などで注目を集めたよ。
A:そもそも、クオリティ銘柄とは何ですか。
T:条件というか定義は、営業利益率の変動が小さく安定的であり、かつ、ROEやROICなどの収益性が高いこと。業界において優位性があり価格決定力を持つこと。債務水準が低いこと、つまり借入金が限定的であること。これらの条件を満たしている企業が一般的にクオリティ銘柄と言われている。そして、高い水準にある収益性(ROEやROICなど)を長期的に維持できる企業であること。経営陣が優れていて、持続的な成長を達成できる、あるいは達成してきた企業という要素も含まれているように思う。クオリティ銘柄という場合、代表格はリクルートホールディングス(6098)かもね。
A:リクルートホールディングスの時価総額はいつの間にか15兆円を超えていてビックリしました。
T:そのリクルートホールディングスも、株価は2022年から2023年にかけて大幅に下落していた。
A:2024年は絶好調に見えますが、クオリティ銘柄でさえ、株価の動きは難しいですね。
T:それでアシックスだけど、本年10月15日時点の時価総額は約2兆円。日東電工は1.76兆円。アシックスの株価は2024年1月に比べて3倍。時価総額も3倍。今年大注目の企業の一つ。
A:これほどの大型株が1年でトリプルバガーですか。
T:アシックスは12月決算会社。本年5月10日に第1四半期決算を公表。四半期純利益は前年同期比63.9%増の267億円。同時に上場来初となる株式分割(4分割)と増配も発表。翌日株価はストップ高。この時点で、年初に比べて株価は2倍程度になった。
A:もともとそれなりの時価総額の企業ですよね。
T:そうだよ。このクラスの会社でストップ高というのはなかなかない。さらにアシックスは、本年7月12日に通期業績予想の上方修正(3期連続最高益)を公表した。
A:確か、連休明けの7月16日に株価は大幅に続伸して、上場来高値を更新しましたよね。
T:何しろ、通期業績予想の上方修正の中身は、市場予想を大幅に上回ったからね。そして、ここからが今日の問題。アシックスは同日、グループを含めて保有する政策保有株式(25社)を全売却すること、また金融機関など15社が保有するアシックスの株式(発行済株式総数の11%相当)を売出すことを公表した。IR関係者はこの資料を一読しておいたほうが良いくらい凄い。何しろ、アシックスの株式を保有する相手企業に能動的に働きかけて実現させた。そして保有する政策保有株式の売却と同時に公表した。
A:この売出しによって「資本効率を向上させること」「資本市場への説明責任を果たすこと」「グローバルな資本市場と全面的に向き合うこと」「優良機関投資家を取り込むこと」「個人株主を拡充しOneASICS経営を推進すること」「資本コストの低減を図ること」を達成したいと。もの凄いです。
T:気迫、熱量が凄い。アシックスの会長兼CEOの廣田康人氏は、資本市場と全面的に向き合うことについて、日経で「怖さがないと言えばウソになる」と述べられている。
A:売出しは順調だったのですか。
T:IR関係者であれば垂涎の大成功。国内と海外の売出し分があったのだけど、国内の機関投資家は約19倍、海外勢は約14倍もの需要があった。そして127の機関投資家が取得し、米国の代表的な長期投資家を含む94社が初めてアシックスの株主になった。さらに個人も約1.5万株を取得。
(アシックスと日東電工(下)へ続く)