香港のアクティビストが議決権の一部を行使できなかった事案について
A:香港のオアシス(Oasis Management)が保有株式の一部で議決権行使ができない事案がありました。
T:北越コーポレーションの岸本社長の解任議案でしょ。
A:証券会社側の手続きミス。けれど、オアシスは、ミスした相手を提訴する予定はないとのことでしたね。
T:この事案からは学びが多いというか、いろいろなポイントがある。まず、貸株を行うと、その間、議決権は借りた側に移転する。但し、一般的に、貸した側は要求すれば、比較的短期間で株を戻してもらえる。今回は、この戻す手続きが上手くいかなかった。
A:そもそも、オアシスは何で貸株をしていたのでしょうか。
T:株式をすぐに売却するつもりがない場合、ただ保有しているよりも、借りたい相手に貸すことで、貸株金利という金利収入が得られる。こうした目的で貸株を行うことは一般的。今回、非常に例外的だったのは、証券会社というか、プライム・ブローカーのミスが生じた点。
A:株を借りる側は基本的に空売りのためですよね。そうなると株価が下落するのではないでしょうか。オアシスは貸株に伴う金利収入を得られる代わりに、保有株式の株価下落というダメージを受けるのでは。
T:確かにそうしたメカニズムはあると思う。但し、借りた側は必ずしも利益追求目的で空売りをするとは限らない。あと、空売りというのは難しい。連騰が続いてさらに上昇するような場合、空売りの買い戻し(ショートスクイーズ)が原因であることも多い。つまり、空売りするから株価が下落するほど単純ではない。
A:はい。北越コーポレーションは、オアシスの実質的な保有株式数が大量保有報告書に記載されている株数よりも少ない可能性があるとのことで、オアシスに質問状を送りましたよね。オアシスは回答で「大量保有報告書に記載の株数は正確。保有株式の処分も担保提供も行っていない。根拠のない主張をやめるように」という趣旨の回答をしていたそうですね。この点をどう思いますか。
T:不正はないと思う。例えば、株主判明調査ではアクティビストなどにも直接ヒアリングして保有株式を確認することがある。こうした調査でも虚偽の報告をするとは考えづらい。オアシスはヘッジファンドに注力していた際には、様々な不正で摘発された過去がある。けれど、さすがに今は虚偽記載などの不正行為はないと思うよ。
A:不正をしたら、金融業界でオアシスにサービスを提供するところはなくなりますよね。
T:そう思う。オアシスは日本の上場企業にとっては脅威で大きな存在かもしれないけど、金融という巨大な産業の中では小さな存在。いつでも切り捨てられる。オアシスがミスをした証券会社、というかプライム・ブローカーを提訴しないのも、もしかしたら、それだけ頭が上がらないからかもしれない。というのは、過去不正を犯し、必ずしも評判が良くないオアシスのプライム・ブローカーを引き受ける会社は貴重なはずだから。
A:なるほど。日本でもファンド立ち上げ時に苦労するのは、受託銀行の選定であったりしますね。グローバル・カストディアンやサブ・カストディアンも不正を行うような運用会社との取引は避けますよね。
T:オアシスは北越コーポレーションの岸本社長に関して、真偽不明のスキャンダルを流して印象操作していたとの情報もある。岸本社長の解任に関しては、他の大株主の大王海運がオアシスに賛同する一方、議決権行使助言会社のISSはオアシスの提案に反対するなど、目まぐるしい展開だった。
A:オアシスは時に汚い手口を駆使するとしても、金融業界で生き残るために不正まではできないということでしょうか。もし、大量保有報告書の虚偽記載でもあれば、アセットオーナーも離れますよね。
T:大量保有報告書の不正に関してはウルフパック事案が摘発されたばかり。当局も監視を強化してる。
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