著名アクティビストや他の上場企業がこぞって学びに行く日本のとある上場企業
A:11月19日に米国のアクティビストであるエリオット(Elliott Investment Management L.P.)が東京ガスの5.03%を新規に取得したとの大量保有報告書が話題になっていますね。
T:2024におけるエリオットによる各社(三井不動産、住友商事、ソフトバンクグループ)への投資はいずれも外電のリークが発端。それが今回は大量保有報告書を通じて判明。ここ暫くなかったことだよ。
A:東京ガスの時価総額は上記の3社に比べて小さいため、5%超になった可能性はありますよね。
T:それはあると思う。何しろ、大阪ガスに時価総額で逆転されるような状況にあったし、エリオットによる取得が判明する前は1.4兆円程度だった。ドルで換算すれば100億ドル未満。グローバルでは中小型株だからね。
A:エリオットの運用資産残高は約10兆円。1.4兆円程度であれば買収されかねないですね。
T:うん。ちなみに、11月11日にエリオットで日本株投資の責任者を務めるNabeel Bhanji氏が米国の大手ヘッジファンドCitadelに移籍することが判明した。エリオットで日本企業への大型投資(大日本印刷、三井不動産、住友商事、ソフトバンクグループ)の指揮を取ってきた人物。2011年にエリオットに入社し2023年にDirectorに昇格したばかり。業界関係者は驚いているよ。
A:これに伴い、エリオットによる日本企業へのアクティビスト活動に変化が生じるのでしょうか。
T:東京ガスなどへの活動が悪い方向に働かないことを願う。ちなみに、世界最怖と恐れられているエリオットや香港のオアシス(Oasis Management)が学びにいくような日本企業が存在している。
A:そんな日本企業があるのですか。
T:日本瓦斯(8174)。「にっぽんがす」と読む。通称「ニチガス」。ここは資本政策やIRで評価を高めている。調べてみると実に興味深いというか、凄い取り組みを次から次へと行っている。
A:ニチガスは都市ガスではなく、主に関東圏へLPガスを供給している会社ですよね。
T:岩谷産業の創業家が設立した会社。ニチガスの時価総額は約10年で5倍になった。2024年3月の時点での時価総額は約2,900億円。IR専門部署を設けた翌年の2014年に比べて約5倍。
A:具体的にどんなことをしてきたのですか。
T:まず、ニチガスは機関投資家との面談件数が業界の中で圧倒的に多く、同業他社の数倍と言われている。柏谷社長と清田CFOの二人がIRに積極的に関与し、通訳なしに英語で面談に臨む。とりわけ資本政策を強く意識し、不必要な株主資本を持たずに株主に還元することを徹底。最適な自己資本比率は40%とのことで、自己資本比率を引き下げる方針。また向こう3年間の総還元性向を3年間通算で100%超とし、配当をより重視。こうした方針を定める際に、コンサルタントに頼るのではなく、投資家に直接聞く、つまり株主から学ぶとのこと。さらに金融機関に保有するニチガスの株式売却を打診し、自らも政策保有株式の売却も進め、2022年に持ち合いを全廃した。
A:こんなにすごい会社だったのですね。まったく知りませんでした。
T:2026年3月期にはROEを22%まで高める方針。ROEやPBRが高いだけでなく株主還元の点でも魅力的。2031年3月期には時価総額を5,000億円へ。さらに1兆円という目標も掲げている。また「株主と同じ船に乗る」ということで、会長、社長、CFOは自ら自社株を購入し1億円以上を保有する。
A:みなニチガスのプロパーの方々なのですか。
T:柏谷社長と清田CFOは元オリックスらしい。清田CFOはニチガスに来るまではIRの経験はなかったというから、なおさら驚き。清田CFOは社内やグループ会社にもROICの重要性を説いているとのこと。