多すぎる上場地銀と滞留する莫大なお金
A:2023年3月期において、上場地銀73行・グループは純資産の1/4もの政策保有株を保有していたそうですね。
T:実に25%が政策保有株。金額で言うと純資産が22.2兆円。うち政策保有株が5.6兆円。また政策保有株5.6兆円のうち、約4兆円が含み益だったらしい。
A:含み益の4兆円とはどのくらいのインパクトなのでしょうか。
T:先ほどの地銀全体の純利益の4年分に相当する。
A:それは、すごい金額ですね。
T:多くの地銀が政策保有株を保有し始めたのは1960年台。だから取得単価は極めて低いことになる。
A:地銀はこうした莫大な含み益をどうするつもりなのでしょうか。
T:何しろ簿価が低いから、安定配当を得られる貴重な収益源になっている。それだけでなく、本業が良くないときも、こうした株式を売れば利益をねん出できる。だから、いわば預金として活用している。
A:地銀の中には当時、リスクを取って出資したところもありますよね。
T:リスクの対価を得ているわけで、政策保有株だからと一概に批判できない部分はある。実際、京都銀行を傘下に抱える京都フィナンシャルグループ(5844)の社長は「電子部品など京都の有力企業に創業初期から投資してきた。足元で9,000億円を超える含み益は、株価が低いときも持ち続けてきた結果だ」と発言。ただ、同社の時価総額は7千億円程度。保有株式の評価額をよりも低いけどね。
A:同社の場合、いわゆる京都銘柄(NIDECや村田製作所など)への投資なわけですね。
T:当時は今ほどVC(Venture Capital)が存在せず、地銀は大事な役割を果たしてきたと思う。
A:京都フィナンシャルグループ以外も、地元の企業を保有ですか?
T:地銀の開示資料をみると、目立つのは地元の銘柄ではないことが多い。
A:地元に有力企業があるのは一部に限られるということでしょうか。
T:大量にお金が集まる一方で、地銀はそれをどうにかしないといけない状況にあった。それで、大都市圏の企業向けの大口融資を行うようになった。その際に、政策保有株式の保有割合などが親密さの証として機能し、企業の借入先選定に影響を及ぼしたようだよ。
A:典型的な政策保有株式ですね。ところで、政策保有株式を純投資に切り替える動きがありますが、純投資にしても実際に売却できるのか、そもそも売却する意思が本当にあるのかという問題があります。
T:売却するとしても企業側が応諾しない可能性が高いとも言われている。仮に売却してもその資金を有効活用する投資先がないともね。
A:そうなると、大量のお金が滞留したままになります。
T:地銀の役割は本来、地元の新興企業の育成など、地域貢献のはず。お金の使い道がそれほどないとなると、地銀の存在意義も問われる。
A:上場地銀のPBRはいずれも極端に低いですので、資金の使い道がないのでれば、本来、含み益を実現させ株主還元を行い、PBRを向上させるべきです。でも実際には売却ができない。となると流動性がないため実は価値のない資産を保有していることになるのかもしれませんね。
T:売却の交渉力を高め、流動性を失った資産を活性化させるためにも、多すぎる地銀はどんどん合併し、今の1/10くらいになったほうが良い。政府とアクティビストは地銀にもっと働きかけてほしいと思う。