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【IR基礎】資本コストの把握と開示に関して

A:この前、とある会社のIR担当者から、資本コストとその開示方法に関して相談を受けました。「CAPMで計算した資本コストは、アナリストが計算しているものよりも高い」とのことで、「これをそのまま開示すると株価にマイナスに働くのではないか」と心配されていました。

T:なるほど。それで。

A:「ちゃんとしたアナリストは会社が出す数値に関わらず、ゼロから数値を導きだすためあまり心配しなくてよいのではないか」「会社の数値は参考値になるものの、それだけですぐに株価の低下につながることは想像できない」と答えました。また「そもそもCAPMでの資本コストは様々な仮定に基づく数値であり、絶対的なものではない。よって開示に際してはレンジで示すほうが良いと思う」「いっそのこと、数値を提示している各アナリストの考え方も踏まえ、注釈付きでレンジで示したらどうか」と返答しました。

T:CAPMの議論になるとβの引下げという話になることも多いけど、βはコントロールできるものではない。βの水準は0.8~1.2くらいとして、対応する資本コストをレンジで開示すればよいと思うよ。

A:ある学者の方も書籍で、βは一律1.0で良いと説明されていました。

T:同感。株式市場では例えばセグメントのローテーションが起きる。ディフェンシブに資金が流れる時もあれば、ディフェンシブが放置される時もある。こうした循環の中で、おそらくβも変化している。

A:資本コストの理論値を追求しても意味はないですよね。短期的には理由もなく株価は乱高下しますが、EPSをしっかりと伸ばしている会社の株価がそのまま放置され続けることはありません。四半期単位の目線ではなく2~3年の緩やかな目線で大きなトレンドを掴むことが大事ですね。

T:経営資源の適切な配分こそが真の課題。資本コストやエクイティ・スプレッドの把握はそのためにある。真の課題、主目的を忘れないことが大事。

A:はい。ちなみに、資本コストに関して各社はどのような開示を行っているのでしょうか。

T:例えば、コンコルディア・フィナンシャルグループ(7186)は、CAPMに基づく資本コストだけでなく、株式益利回りに基づく算出も行っている。そのため、同社は認識する資本コストの水準をレンジで示している。出光興産(5019)はCAPMに基づく資本コストは市場の期待リターンと乖離があるとの認識を示した上で、ROE目標の上方修正を表明している。

A:既にそうした実例があったのですね。

T:トレンドマイクロ(4704)は、毎四半期の決算説明会時に、アナリストや機関投資家に対して、資本コストに関するアンケートを実施している。東証スタンダード市場に上場するテクノスマート(6246)は、株主資本コストの水準だけでなく、算出するモデルやパラメータの設定値も開示している。

A:各社、様々な取り組みをおこなっていたのですね。

T:三菱商事の連結子会社で東証スタンダード市場に上場する三菱食品(7451)は、投資家の期待リターンに関するヒアリング結果とCAPMに基づく資本コストとの乖離を認識した上で、エクイティ・スプレッドの目標を設定している。チェンジホールディングス(3962)は、株主資本コストに関して、サイズプレミアムを考慮した算出を行っている。サイズプレミアムとは時価総額が小さい企業の株式に対して追加的に適用されるリスクプレミアムのこと。同社は東証プライム市場に上場しているけれど、時価総額はわずか880億円(2024年12月30日)。グローバル基準ではマイクロ株だよ。

A:βよりもサイズプレミアムのほうが多くの上場企業に関係しそうですね。

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