とある上場企業の短期間での動き(上場廃止、新規上場、TOBで再び上場廃止)
A:サムティホールディングス(187A)がヒルハウス(Hillhouse Investment Management)の買収により、上場廃止になりますね。
T:旧サムティ(3244)がサムティホールディングスの完全子会社になり上場廃止になったのが、本年5月30日。サムティホールディングスとして、東証プライムに新規上場したのが本年6月1日。そして、同社がヒルハウスよる上場廃止を企図したTOBに同意したのが本年10月11日。同日、東証はサムティホールディングスを監理銘柄(確認中)に指定。通常、監理銘柄(確認中)に指定された企業はいずれ整理銘柄に移行し最終的に上場廃止になる。
A:本年1月から新規上場企業の証券コードに英文字(アルファベット)が入ることになりました。アルファベットを4桁コードの中に持つ上場企業の中で、サムティホールディングスが最初の上場廃止企業かもしれませんね。
T:うん。新規上場した企業が、即座に買収されること自体は悪いことではなく、市場のダイナミズムと言えると思う。けれど、サムティホールディングスの件はちょっと不可解というか綺麗な印象はない。
A:それはどうしてですか。
T:サムティホールディングスは同じ10月11日に第3四半期決算と「公認会計士等の異動に関するお知らせ」を公表。後者には監査法人アリアからmc21監査法人への変更とその理由が書かれている。
A:監査法人の変更理由には様々なものがありますが、警戒すべき点ですよね。
T:要注意。退任する監査法人アリアが就任したのが2023年3月。わずか2年で退任予定。尋常ではない。公表資料では2023年3月に「当社において、特定の取引先との取引に関連し、過年度決算における会計上の連結対象範囲の判断等についての疑義が発生し、外部の弁護士及び公認会計士を委員として構成する特別調査委員会を設置し、調査を進めており、適切な会計監査を受けづらい状況となっており」とある。この結果、監査報告書において「限定付適正意見」が付与されたのだけど、どうやら退任するアリア監査法人の前任の監査法人も「限定付適正意見」をつけていたみたい。
A:そんな問題をはらんだ状況で、旧サムティは上場を廃止し、新サムティホールディングスが東証プライムに上昇したのですね。東証は審査などをしているのでしょうか。
T:従前の会社が新しい親会社を新設の上、上場し、その傘下になるようなケースは多く見られる。このようなケースでは東証は形式的な確認程度しかしていないのかもしれない。
A:一般の株主は、これだけ短期間に上場廃止、新規上場、TOBでの上場廃止が続くと、ついていくことはできません。しかも、会計不祥事とそれに伴う頻繁な監査法人の変更など到底フォローしきれませんね。
T:そう思う。だから、今回のサムティホールディングスへのTOBに良いものを感じない。
A:TOB価格が高ければ、既存の株主が経済的な不利益を被ることはないでしょうけど。
T:これも資本の論理というか資本市場の浄化作用なのかもしれない。けど、そもそも不祥事を抱え、すぐにTOBで上場廃止するような企業に上場の資格があったのか。東証の見解を知りたい。
A:ところで、TOBを行うHillhouse Investment Managementはどういうところなのですか。
T:米国のイェール大学の基金から出資を受けて2005年に設立されたオルタナティブ投資運用会社。シンガポールで出発し、今では世界中に拠点を有する。運用資産残高は非常に大きい。中国企業の投資で大成功したこともあり、創業者のLei Zhang氏は著名な投資家。今では巨大なPEファンドとして知られている。日本企業との接触も普通にあり、決して怪しい存在ではない。