
シンガポールのアクティビスト3D、米プライベート・エクイティ企業2社(KKRとBain Capital)に振り回され続けた富士ソフトに関して
A:富士ソフト(9749)を巡る一連の騒動が2月20日に終了しました。同日、富士ソフトは米PEファンドKKRによる第2回目のTOBが2月19日に完了し、56.79%を保有するKKRが2月27日付で親会社になることを公表しました。
T:教科書の事例になると思われるほど、異例な展開がこれでもかと続いた。まずシンガポールのアクティビスト3D Investment Partnersの存在・活動が契機となり富士ソフトが非公開化に向けて動き出したこと、というよりもアクティビスト主導で非公開化が進んだこと。次に、PEファンド同士の争奪戦に発展したこと。米Bain CapitalのTOBはあくまで(正式な手続きを踏まない)予告に過ぎない形で終始したこと。KKRが2段階形式のTOBを採用したこと。会社はKKRに賛同し、創業者はBain Capitalに賛同したこと。企業の経営陣と友好的な関係を築いた上で、ともに事業を強化する存在がプライベート・エクイティ・ファンドである中、Bain Capitalが同意なき買収を発表したこと。最終的にBain CapitalがTOB予告を取り下げたこと。米PEファンドが相次いで価格を引き上げ、TOB価格が企業価値よりも乖離したこと。そもそも、何のための非公開化なのかわからず、富士ソフトの意向や声がまったく伝わってこなかったことなどが挙げられる。アクティビストとPEファンドだけが当事者となり、富士ソフトおよびそのステークホルダーは置き去りにされ続けた。
A:非公開化を主導した3DがKKRと結託して始まったようにも見えた案件でした。
T:Bain Capitalはそうした構造に対抗する意味合いもありTOBに参画したものの、結果的に損な役回りになったと思う。TOB予告だけを行い、事案を複雑にしただけの厄介者になってしまった感がある。
A:富士ソフトが非公開化を決断する際に、提案を広く募れば、このような事態にならなかったとの批判が多いですね。
T:アクティビストに主導権を奪われた富士ソフト。富士ソフトの頭越しにKKRと話をつけようとした3D。非公開の場で実質的に富士ソフトを取得しようとしたKKR。TOB予告しかできなかったという苦しい状況があったものの、結果的に大掛かりな相場操縦を行っただけのBain Capitalと、いずれのプレイヤーにも問題があるように感じる。各プレイヤーには飛び切り優秀な人材が集まっているのだろうけれど、外部からすれば頭の良さ競争に終始しただけに感じられる。
A:富士ソフトの幹部の声、社員の声、お客様の声、他のあらゆるステークホルダーの声、いずれも何一つ聞こえてきませんでした。メディアにも責任があるとは思いますが、長い長い空中戦でした。
T:ウクライナ抜きで米国とロシアが交渉していることに似ているように感じる。
A:それにしても一体何のための非公開化なのかが全く分かりません。
T:同感。この点は大問題だと思う。非公開化でなければ成し遂げられない何かがあるのだろうか。公開企業のままではそれは達成し得ないのだろうか。
A:買い手はどのようなメリットを富士ソフトとその顧客、ステークホルダーにもたらすことができるのか。
T:なぜ、アクティビストに主導権を握られてしまうのか。富士ソフトの幹部たちは責任を負わないのか。富士ソフトの社員たちは、この騒動をどのように思ってきたのか。
A:なぜ、最近の買い手はプライベート・エクイティ企業で、他の企業(上場企業以外も含む)は買い手に名乗りを上げないのか。
T:この事案を契機に日本株市場がより強くなることを願う。