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生成AI時代の弁護士の選び方

——コミュニケーション能力を軸に考える——

ChatGPTなどの生成AIの台頭により、法的リサーチや書面作成といった作業の一部は自動化が進んでいる。

私も毎日のように生成AIに触れており、常により良い活用法を模索している。

契約書のひな型作成や問い合わせのあったクライアントへの返信案などは、既にAIの得意分野となりつつある。

しかし、そうした技術進歩の時代にあっても、最終的に依頼者が「納得し、安心して依頼できる弁護士を選ぶ」ためには、人間同士のコミュニケーションが欠かせない。

ここでは、コミュニケーション能力の観点から弁護士を選ぶ際のポイントを詳細に解説する。


1. なぜコミュニケーション能力が重要なのか

1-1. 法的知識だけでは完結しない問題解決

AIがいくら優れた文書やリサーチ結果を提示しても、その情報を基に依頼者の利益を最大化する判断を下し、実際の行動を提案するのは弁護士本人である。

つまり、法律知識とAI活用スキルを持つだけでは不十分で、依頼者の意図・感情・状況を正しくくみ取り、問題解決に向けて整理・提案するためのコミュニケーション能力が不可欠である。この点までも生成AIに対応させることは「少なくとも」「現状では」難しい。

1-2. 誤解やトラブルを防ぐリスクマネジメント

法律問題はステークホルダー(当事者、相手方、行政機関など)が複数にわたるケースも多い。こうした場面では、弁護士が明瞭かつ一貫性のあるメッセージを発信し、誤解やトラブルを予防する必要がある。

要するに、生成AIが導き出した「正論」だけをただ示したとしても全てのステークホルダーの理解を得ることが難しい場合があり、いわゆる「根回し」「寝技」などの「政治力」が問われる場面において人間としての「高い」コミュニケーション力を十分に発揮しなければ、話がこじれたり不要な紛争が長引いたりして、結果的に依頼者のコストが増大する可能性が高まってしまう。

果たしてAIに「政治」ができるだろうか? ちょっとこっそり尋ねてみたいと思う。


2. 生成AI時代におけるコミュニケーションの課題

2-1. AIによる「自動化バイアス」のリスク

AIが生成した契約書や法的意見をそのまま鵜呑みにしてしまい、弁護士自身が依頼者との対話を省略するケースが増えるリスクがある。自動化による効率化はメリットだが、重要な意図確認やリスク評価が疎かになると、後々の紛争リスクが高まる。

  • :AIが契約書を生成しても、依頼者のビジネス上の背景や将来のビジョンを聞き取る工程を省くと、企業戦略と整合しない条項が含まれてしまう恐れがある。

結局のところ、最終的な責任を取るのはAIではなく法主体としての人間なので、本当に責任を取れる結論なのかとの自問自答を繰り返すことは人間側において避けることができないのである。

2-2. ブラックボックス化と説明責任

生成AIは、どのようなロジックやデータから結論を導いたかがブラックボックス化しやすい。依頼者が「なぜこの条文が必要なのか」「どのような判例に基づいているのか」を弁護士に尋ねても、弁護士がAIのアウトプットを適切に解釈・説明できなければ信頼を損ねる。

「生成AIがこのように言っていますので」との答えは0点どころかマイナスを叩き出す。責任を取るのは弁護士自身なのである。

  • 適切なコミュニケーションの要素

    1. 結論だけでなく、導き出した根拠や背景を説明する。

    2. AIが曖昧にしている部分を、人間の論理で再検証する。


3. 弁護士に求められるコミュニケーションの具体的要素

3-1. 傾聴力

最適な法的対応を行うには、依頼者の置かれた状況や希望を正確に把握する必要がある。

  • クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンを使い分ける
    依頼者の回答が「YES/NO」に限定される質問だけでは不十分だ。自由に話してもらう時間を設けることで、依頼者も気づいていなかった問題の本質に迫ることができる。

  • 沈黙を恐れず、相手が言葉を探す時間を尊重する
    対話のなかで沈黙を許容できる弁護士は、依頼者に安心感を与え、より深い情報を引き出せる。

生成AIに「食べさせる」情報を適切に「料理」することは弁護士の役割である。ある程度の「レシピ」までは生成AI自身が提案してくれるだろうが、同じレシピに従って料理をしたとしてもシェフ毎に仕上がりが異なるのは自然なことである。

3-2. 説明力

法律問題は専門用語が多く、さらにAI関連の技術的要素が絡むと理解が難しくなる。弁護士には、わかりやすい言葉で丁寧に説明する能力が求められる。

  • 専門用語の言い換え
    たとえば「瑕疵担保責任」を「製品などに不具合があったときの保証ルール」と噛み砕いて説明する。

  • AIの使い方やリスク説明
    AIのアウトプットにおける不確実性や、機密情報の取り扱いについて依頼者が不安を抱かないよう、仕組みやリスク管理体制を明確に解説する。

3-3. 合意形成力

依頼者が納得しやすいよう、複数の選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを整理して提示する能力が重要である。

  • シミュレーションの可視化
    例えば、訴訟を起こした場合と示談交渉を選んだ場合で、想定される期間・費用・リスクを図表化して伝える。

  • 交渉相手への適切な言葉選び
    相手方がいる法的紛争の場合、いかに感情的対立を深めず、合意形成へ導くかもコミュニケーション能力にかかっている。

3-4. 継続的なフォローアップ

法的手続きは時間がかかる場合が多く、進行状況が見えにくいことから依頼者に不安が生じやすい。定期的に進捗報告を行い、必要に応じて追加説明や方針転換を提案することで、依頼者の精神的負担を軽減できる。

  • 進捗報告の頻度
    あらかじめ報告のタイミングを決めておくと、依頼者は安心して任せられる。

  • オンラインコミュニケーションの活用
    メールやチャットツール、ビデオ会議システムなどを柔軟に使い分けられると、忙しい依頼者でもタイムリーに連絡を取り合える。


4. コミュニケーション能力を見極めるポイント

4-1. 初回相談の様子を観察する

初回の法律相談は、弁護士のコミュニケーションスタイルを把握する貴重な機会である。

  • 話をどの程度聞き出してくれるか
    一方的に説明ばかりする弁護士は注意が必要である。

  • こちらの疑問に対する回答のわかりやすさ
    回答の内容だけでなく、論点を整理してから答えてくれるかなど、コミュニケーションの質を確認したい。

4-2. レビューやフィードバックの対応

書面の下書きやAI生成の契約書を依頼者に共有する際、フィードバックを求める姿勢があるかどうかは重要な指標となる。

  • 依頼者の修正提案を歓迎するか
    「専門家だから自分のやり方が正しい」と一方的にならず、依頼者の意向を柔軟に取り入れる姿勢があるか。

  • 言いづらい質問への対応
    料金や進捗遅れなどデリケートな話題を投げかけたとき、誠実に向き合ってくれるかは大きな信頼材料になる。


5. 依頼者として心がけたいこと

5-1. 自分の要望を具体化する

弁護士に相談する前に、自分が何を達成したいかを整理する。AIによる法的書面作成を希望するのか、それとも細かい手続きをすべて任せたいのかなどを自分なりに言語化しておくと、コミュニケーションギャップを減らせる。

5-2. 質問や不安は早めに共有する

コミュニケーションは一方通行ではなく、依頼者側にも主体的な情報提供と質問の姿勢が求められる。後になって不安や疑問点をまとめて提示すると、方針転換や追加コストが発生する可能性があるため、気づいたら早めに伝えることが望ましい。


まとめ

生成AIがいかに高度化しても、最終的に依頼者の意思決定や法的戦略を左右するのは「人間同士の対話」である。弁護士のコミュニケーション能力は、依頼者の心情を理解しながら法的に最適な提案を組み立てるうえで欠かせない要素だ。

  • 傾聴力・説明力・合意形成力・フォローアップの4点を軸にコミュニケーション能力を見極める。

  • 初回相談やフィードバックのやり取りで弁護士の対応姿勢を観察する。

  • 依頼者側も、自身の要望や不安を早めに伝えることで、弁護士とのスムーズなコミュニケーションを実現できる。

技術が進歩しても、依頼者が安心して依頼できるかどうかは、人間的な対話力に大きく左右される。生成AI時代の弁護士を選ぶ際には、コミュニケーション能力を最優先事項の一つとして捉えるべきだ。法的問題を解決するうえで、AIと弁護士の知見、そして依頼者の要望が適切に結びつくコミュニケーションこそが、長期的に見ても最も頼れるサポートとなるだろう。

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