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ある六月の物語⑤

東京は嘘の様に晴天が続き

もう梅雨明け間近だと

今朝のテレビでも

トピックニュースに挙げられていた。


今日の予報は晴れ。

夕方から局所的に強い雨が降るかもしれないと

いつもの天気予報士が

重要だと言わんばかりに言っていた。


今日は6月最後の週の金曜日。

降りそうもない青空を見て

1度玄関を出たが、

あの天気予報士が正確だと

最近のツイートで見た事を、郁人は思い出した。

反射的にもう1度家に戻り

シューズラックに無造作に入った

折り畳み傘をビジネスバッグに差し込んだ。


やはり金曜日は仕事が忙しい。

昼御飯にありつけたのは、ランチタイム

ギリギリの14時。

オフィスに戻ると

資料を見ながら、肩に携帯を挟んだ曽根が

郁人に気付かず、横をすり抜けていった。

小林が、すれ違い様に

「今日忙しそうだな」

と、頑張れの意味なのか、肩をポンと叩かれた。


午前中に明日の土曜出勤は

もう決まっていた。

今日は千都を思い出す事も

目で追う暇もなかった。

やっと一息つけた時は

もう千都はオフィスにいなかった。

このまま、この気持ちが終わっていく様な

そんな予感すら、郁人の心を掠めるのだった。


エレベーターに乗り、1人だと分かると

もたれるように壁に背を合わせた。


「疲れた…」


エレベーターが1Fに付くと、

エントランスから向こうは雨景色だった。

あの天気予報士はやはり正しい。


バッグから折り畳み傘を出そうと

していると、雨脚の前で

空を見上げている後ろ姿があった。


千都だった。


強い雨と風は、千都の髪の毛と

ストライプのワンピースを

なびかせていた。


郁人は早歩きで駆け寄った。

「傘…忘れたんですか?」


驚いて振り返った千都は

あの日、自分が言った言葉と同じだった事に

気付き、目を小さくして笑った。

その笑顔につられて郁人も笑った。


「帰りましょうか」

「ありがとう」


飲み会以来、

近くなった2人が歩き出す。

郁人は左にいる千都が濡れないように

傘を傾けた。


「この前の飲み、楽しかった」

「俺もです。 曽根が急に中田さん誘って
   何かすみません」

「そんな事ない。
      ちょうど飲みたい気分だったから」

と、視線を落とした千都を見ていて

胸が詰まった。


「…彼氏です…か?」


「もう嫌だ、終わりにしようと思っていたのに
     やっぱり思い出してしまってね」


千都の目が少し潤んだ事は、

郁人しか気付いていない。

雨が少しずつ弱くなってきていた。

傘を閉じる人達。

少し濡れても構わないのだろう。

雨が止むと、2人の会話も止んだ。

千都に元気を出して欲しかった。

そして、もっと近付きたい思いだった。

「来月、近所の神社で祭りがあるんですよ。
良かったら来ませんか」

千都は、一瞬驚いた表情を見せたが

「行く」


そう言った後、唇の口角が

また上がった。


翌日、梅雨明けしたとニュースで

あの天気予報士が言っていた。


屋台の香ばしい焼きそばの香りと

お囃子が何処からか聴こえてくる。


もう雨に濡れる事はないだろう。

                           end


 読んで頂きありがとうございます。
 誰かにちくっと届きますように。

                       LOW


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