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電力自由化とは何だったのか?電力自由化は失敗ではないのか?

昨日、電力自由化に関する30分ほどのセミナーを開催しました。その際に使用した資料を、こちらで共有いたします。


① 電力自由化とは何だったのか?


2016年に実施された電力小売自由化は、それまで地域ごとに1社に限られていた電力小売事業への新規参入を可能にした制度改革です。

これは自由競争を促進し、電気料金の抑制や新たなサービスの開発、そして消費者の選択肢の拡大を図ることが目的とされています。

一方、この制度改革の背景には、別の意図があったとも言われています。
それは、地域独占によって強大な影響力を持つようになった電力会社を牽制する狙いがあったという見方です。

特に、2011年の原発事故以前は、東京電力をはじめとする電力会社の影響力が非常に大きく、政府との関係についても様々な議論がなされていました。

ただし、こうした背景について政府や官僚が公式に認めることはないでしょう。電力自由化は、あくまでも消費者利益を重視した政策として位置づけられています。


② 「電力会社」によくある誤解


電力会社とは、どのような仕事をしている会社だと思いますか?
多くの方々は、“電気を作り、家庭や企業に届けている会社”と考えるでしょう。
この認識は、2016年の電力自由化以前であれば、概ね正しかったと言えます。
ですが、2016年の電力自由化と発送電分離によって、電力事業の構造は大きく変化しており、従来の認識のままでは、現状を正しく理解できません。

改正電気事業法による発送電分離

自由化以前は、発電・送配電・小売の3つの事業を一体的に運営する事業者を「電力会社」と呼んでいました。
しかし、改正電気事業法により、これらの事業はそれぞれ独立した会社として分離されました。

現在、主な電気事業は以下の3つに分類されています(他にもありますが、ここでは割愛します)。

・発電事業者:電気を作る会社
・送配電事業者:電気を送る会社
・小売電気事業者:電気を売る会社

かつては一つの「電力会社」がこれらのすべてを担っていましたが、2016年以降、これらの事業者がそれぞれ独立し、正式な事業名称が定められています。
そのため、「電力会社」という言葉は、これらを総称する通称として使用されている点をご理解ください。

電力会社と電気事業者の言葉の定義

『電力会社』という言葉は、かつて発電・送配電・小売の全てを一体的に行っていた事業者を指す場合と、現在の送配電事業者を指す場合の2つの意味で使われています。
文脈によっては誤解を生む可能性があるため、以下のように用語を使い分けます。

・自由化以前の電力会社 ⇒ 大手電力会社(または旧一般電気事業者)
・送配電事業者 ⇒ 送配電事業者
・発電事業者 ⇒ 発電事業者
・小売電気事業者 ⇒ 小売電気事業者(または新電力会社)

なお、私たち一般需要家が電気を購入する際には、小売電気事業者と契約を結びます。発電事業者や送配電事業者と直接契約を結ぶことはありません。

自由化された部分と規制が残る部分

このうち、送配電事業だけは、電気の安定供給という公共性の高い役割を担うため自由化はされておらず、現在も国の規制下にあります。

一方、発電事業と小売電気事業は自由化されており、新規事業者の参入や競争が促進されています。
これにより、電力事業や業界の構造は大きく変化しました。


③ なぜ新電力に変えるだけで電気代が安くなるのか?


電力システム改革の一環として、2003年に電気の卸売市場(日本卸電力取引所・JEPX)が創設されました。

政府は電力小売の自由化を促進するため、大手電力会社の保有する一部の電力(約10%程度と言われています)を、原価同然で市場へ売り出すよう求めています。
また、太陽光や風力などで発電され、国のFIT制度で買い取られた電気も最終的にはJEPXで取り引きされていますので、小売電気事業者(=新電力会社)はこれらの安価な電気を市場から調達できるようになっています。

JEPXの電気に加え、独自の調達ルートや自社保有の発電所などを組み合わせることで、大手電力会社より安い料金を提示できる新電力会社も多数存在します。
このような新電力会社と電気の小売供給契約を結ぶことで、電気代を削減できるケースがあるわけです。

ちなみに、JEPXの取引価格は需要と供給のバランスによって大きく変動します。
太陽光発電が豊富で電気の消費が少ない春秋の一部時間帯には、1kWhあたり数円以下、あるいはほぼタダ同然になることもあります。
一方、太陽光発電が十分に得られず、電力需要が急増する夏や冬は高騰しやすいのが実情です。

JEPX(日本卸電力取引所)からの調達のみに依存している小売電気事業者は、市場の価格変動に大きく影響されることから、常に割安な電気を販売しているとは限りません。
需要が低く供給が潤沢なときには割安な電気を仕入れられますが、需要が増加したり燃料価格が高騰すると、調達コストが上がる場合もあるからです。

④ 本当に安くなってる?電力自由化は失敗ではないのか?


もともと電力小売の自由化は、事業者の参入促進や消費者の選択肢拡大が主な目的で、国が「安売り」を促すための政策というわけではありません。
(電気料金の抑制も重要な狙いの一つですが、それだけが目的ではないのです)

ですから、自由化以前からある規制料金(従来の大手電力会社の料金)よりも、高い価格で販売する新電力会社が存在しても、決して制度の趣旨に反しているわけではありません。
新電力側から見れば、付加価値の高いサービスで需要を獲得できるなら、割高な販売価格でも事業を成立させられるからです。

電力自由化は「安さ」だけを評価基準とするものではなく、多様な選択肢と活発な競争を生み出すこと自体が大きな目的なのです。

したがって、「従来よりも安く買える」のも自由化の成果であり、
「より高く売れる価値を提供できる」 こともまた、自由化によるビジネス機会の拡大という意味で一種の成功といえます。

⑤ 電気料金の仕組み


電気料金は、主に以下の4つの要素で構成されています。

①基本料金
②従量料金
③調整額
④再生可能エネルギー発電促進賦課金
(ほとんどの場合、これらには消費税が含まれた形で表示されます)

1.基本料金

・契約容量(アンペア数・kVA数・kW数など)によって決定されます。
・一度に利用できる電力の大きさを上げるほど、基本料金は高くなる仕組みです。

水道に例えると、蛇口の太さに相当します。
・蛇口が小さい(契約容量が小さい)ほど、一度に使える電力は限られますが、基本料金は安くなります。
・蛇口が大きい(契約容量が大きい)ほど、一度に使える電力は多いものの、基本料金は高くなります。

2.従量料金

・実際に使った電力量(kWh)に応じて課金される料金です。
・使えば使うほど比例して増えていきます。

3.調整額

・燃料費調整制度や市場調整制度などに基づいて設定され、電気の使用量(kWh)に応じて加算または減算されます。
・大手電力会社の燃料費調整額は、比較的ゆるやかに変動する傾向があります。
・一方、市場調整制度を採用する事業者の場合、各社が独自の調整額を設定できるため、市況によっては大幅な値上がりが生じることもあります。

・近年は基本料金や従量料金を抑える一方で、調整額を高めに設定する小売電気事業者が増えているため、実際の総額を確認することが重要です。

4.再生可能エネルギー発電促進賦課金

FIT(固定価格買取制度)による再生可能エネルギーの買い取りコストを、電気の使用量に応じて負担するための賦課金です。


以上の4つを合計したものが、最終的な電気料金となります。

特に、調整額の仕組みは事業者ごとに異なるため、「基本料金と従量料金が安そうだから」という理由だけで契約すると、結果的に割高になる可能性もある点に注意が必要です。


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