SF思考で描く、未来社会といまを繋ぐための物語
早稲田大学ビジネススクールの教授で、Sci-Fi Prototyping Design(以下sfp)の発起人でもある入山章栄氏がパーソナリティを務める、浜松町Innovation Culture Cafeで、Sci-Fi Prototypingをテーマにした番組が2週にわたり放送されました。
1週目はマスター役の入山氏とアシスタントの田ケ原 恵美氏、ゲストとしてITER首席戦略官を務める大前 敬祥氏と、WOTA株式会社で代表取締役兼 兼 CEOを務める前田 瑶介氏の4名、
2週目にはトラストバンクの宮内 俊樹氏も加わり、計5人で「未来社会をデザインするには」をテーマに議論しました。
パーソナリティの入山氏に加えて、大前氏と宮内氏もsfpのメンバーとして活動しており、本記事はそのダイジェスト版としてお届けします。
テクノロジーの進歩が可能にする未来社会を妄想し、実装に向けた道筋を一緒に紐解いてみましょう。
1週目の記事はこちら
入山:前回は、大前さんが関わっていらっしゃるITERや、WOTAでの前田さんの活動についてお話しいただきましたが、今週は宮内さんにもお越しいただいています。宮内さんはトラストバンクという会社でゼネラルマネージャーをやられていたり、フィラメントという会社のCCOもされてるんですが、改めてどういう活動をされてるか教えていただけますか。
宮内:はい。ふるさと納税は単に返礼品をもらうだけではなくて、地域に対する想いや寄付金の使い道への共感など、寄付する方が意思を持って地域にお金を再分配できる仕組みですよね。それが面白いなと思って転職しましたが、今はクラウドファンディング型のふるさと納税をやっておりまして、返礼品がない場合もあるので純粋の寄付に近いんですね。ふるさと納税の4大ポータルサイト*と呼ばれているものがあって、能登半島地震では総額80億弱のお金が集まり、非常に可能性を感じました。
入山:80億はすごいですね!
さて、今週の浜松町Innovation Culture Cafeはこの三方をお迎えして、「未来社会をデザインするには」というテーマでお話ししていきたいと思います。
未来社会をデザインするための思考法とプロトタイピング
特に今週は、未来を想像・創造する方法について考えてみたいと思います。
実は宮内さんと大前さんとは、sfpという活動を通じて知っていて、要はSF的な思考で物事を空想したり妄想することが未来を読み解き、創造する力になるんじゃないか、という課題意識のもと立ち上がった会があって、それのメンバーなんですね。宮内さん、改めてこのsfpがどういうものかっていうの教えていただけますか。
宮内:はい。未来を考えるときに、ある地点でどうなっているのかというゴールから逆算して、そのプロセスやマイルストーンを考えていくっていうやり方がありまして、その手法がSci-Fiプロトタイピングと一般に呼ばれています。つまりバックキャスティングに近いですね。私たちも、それを実際やってみようと集まった有志のメンバーで立ち上がったのがsfpです。
入山:以前、大前さんにもsfpの活動にご参加いただいたと思うんですが、いかがでしたか。また、前田さんはこの手法の観点からご自身の取り組みを見た時にどう思いますか?
大前:私は何かプロジェクトをやるときって、宮内さんにお話しいただいた手法が一番効率的かつ合理的だなって思っているので、スムーズに、自然体で会に参加させていただきました。
前田:我々の場合、「水問題という概念そのものがなくなるには」、というのが大きな問いだと考えています。水不足や排水汚染の問題、あるいは人口減少の問題を全部紐解いていくと二つの要素があります。まずは水処理が誰でもできるものになっていないということ、二つ目は排水を水源にして、繰り返し使えるようになれば、水を遠くに送り届ける必要もなくなるということです。
とはいえ、最初からいきなり上下水道をベンチャーの我々が担わせていただくのは難しく、まずは災害支援などから入り、取り組んでいく中で少しずつコストを下げ、次に住宅向けの事業を展開していくというやり方で事業を進めています。ですので、課題解決のための手段をブレークダウンしていくことだと捉えており、いまの自分たちの実力を見極め、できる範囲で人々のお役に立ち、特定の問題を解決し、次のステージを描いていくイメージです。
宮内:イノベーションの生み出し方を忘れたまま、30年ぐらい悪戦苦闘してきた日本の歴史があって、でも近年はsfpのような発想を、少しずつではありますが取り戻してきているのかなと思いますね。
入山:この手法を取り入れる際に、何かポイントはあるんでしょうか?
宮内:時間軸をある程度揃えることと、事前のリサーチだと思います。
まず時間軸を揃えないとアイディアがばらけてしまって、具体性が上がらないというのが一つ。もう一つは、ある程度技術は先に作られていて、その集合体で大きなシステムはできていくので、技術で予想されている部分をしっかりリサーチすることですね。
大前:私は自分のやっていることは100年単位で考えています。というのも、我々の視点から見ると、5〜10年っていうのはそんなに長期じゃないですし、見ているのは自分が生きていない未来の世界なんです。自分がっていう意識ではなく、自分の次、あるいはその次の世代に対していま間違った判断を渡してはいけないという意識を持ってやっています。
前田:私は21世紀の前半と後半、あとは22世紀までの時間軸で今は考えています。これから加速していく人口減少局面に備えて、有効なソリューションを考えたい。人口減少局面で色々な困りごとが出てくるので、未来の課題に対していまの時点で備えていくことで、21世紀後半には世界中の人々のお役に立てますし、その結果として、22世紀の地球と人類の関係性はより良いものになっていくと考えています。
極論、WOTA自体は2040年頃にはもう必要なくなってる状態が望ましく、我々の技術は色々な人が使えるようにしていく必要があると思っています。
核融合の技術も、製造業的にどこでも・誰でも使えるようにするには、という課題が未来のある時点であるならそれに取り組みたいし、究極的には自然と人間生活が調和して、どちらにも無理や我慢のない世界を実現していきたい、という考えです。
描いた未来を実現するために必要なチームのあり方
田ケ原:皆さんはよく未来に思いを馳せることがあると思うんですけど、自分ごと化するのが難しい方も一定数いるのかなと思ってて、未来に思考を飛ばすところから、さらに一歩踏み込んで課題を自分ごと化して、実際に何か行動を起こすのに必要な考え方とか何かありますか?
前田:私は一人一人のタネ・文脈を最大化するのが一番いいと思っています。例えば、ずっと自動車会社に勤めていて、世界中で工場の立ち上げをされてきたような方とお会いしたときには、「水インフラの量産工場を世界中で作ると、その方の人生が次のストーリーとしてもっと面白くなるんじゃないか」と思って誘いますね。
大前:実は、知ってかしらずか、日本の皆さんは全員ITER計画に関わってるんですよね。なぜかというと、加盟している国々の税金を使ってプロジェクトを進めているので、皆さんは日々応援してくださってるわけです。だから何をやってるかというのを私が伝えていく義務がありますよね。その時に必要なのはストーリー、つまり物語なわけですけど、これはノンフィクションになる物語なんだと伝えることを大切にしています。課題とか問題って、学校の勉強を連想して嫌だなっていうネガティブな感情を想起されるかもしれないですけど、全くないですよね。少なくとも自分は好きでめちゃめちゃ楽しんでやっています。
宮内:社会課題っていうと難しく聞こえるけど、実は身の回りのことだから誰しもが関係するし、例えば社会を変える可能性のある何か新製品が出来たとしても、使う人が受け入れなかったら社会に広まらないじゃないですか。だからまずは使ってみましょうよとか、ポジティブに体験してみましょうよと。その先に、社会実装が進んだ未来があると思うので、よくそういうメッセージをお伝えしています。
田ケ原:自分で何かを始めるだけでなく、この人についていきたいという動機でスタートアップの世界に飛び込む人もいると思うので、皆さんのように未来を見せてくれる方たちに相乗りさせてもらって、未来のために貢献してるんだって思えている方もいるんだろうなと感じました。
前田:その観点では、純度が高いチームビルディングが大切だと思っています。つまり、目的からブレークダウンされた取り組むべき課題がたくさんある中で、寄り道せずに100%の純度を持ったチームで調べて、検討して一番いい道を選ぶ文化を持った組織であることが重要、ということです。「スタートアップ=何も持たない者たち」なので、それがゆえにいま何を持っているかじゃなくて、何に向かっているかだけで意思決定していけるのは強みだと思ってます。
大前:核融合開発がうまくいけば、夢のようなエネルギー源が手に入ることになるので、各国がどの国にも先駆けて、かつ自国だけが持てればいいという時代もかつてあったんですね。でもあるタイミングで、国際協調でやろうとなったわけです。国益ではなく、人類の将来という視点に立った時に、どの方式にするのがいいのかということも、みんなが納得するまで議論し尽くしてから決めるんです。その背景には、国籍関係なく人類のためになる選択をしようという共有された価値観があるので、前田さんのお話を聞いていてすごく共感しました。
宮内:その観点から日本企業について考えてみると、多くはまだまだプロジェクト型になっていないと僕は思うので、そこが変わってくると働きがいも増すし面白い社会になっていくんじゃないかなという期待を持てました。
入山:それではゲストでお越しいただいたお三方、本当にありがとうございました!
「未来社会をデザインするには」をテーマに、テクノロジーの進化や文化、多様性など幅広い議論が展開されました。今後もさまざまな問題提起や社会い実装に向けた取り組みを推進し、発信してまいります。
執筆:國井 仁