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お店を卒業するスタッフに『マルジェラのタビブーツ』を贈ったら、みんなが笑顔になった話

「青野さん。わたし、来年の3月20日でお店辞めますわ」

2019年の年末。
お店の掃除をして、朝の細々とした仕事を終えた私。
お昼ご飯のカレーパンを食べ終えて、デザートのあんバターサンドに手を伸ばしたその時。
穏やかな日常は、その言葉によって唐突に終わった。

声の主は坂野さん。
坂野さんは私のお店の立ち上げから苦楽を共にした唯一の看板カリスマスタッフ。(店員は自分含め2名)
前職から9年間一緒に働いていて、年齢は10個離れている。

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「青野さんが店をするんやったら手伝います」

自分が独立するときにもそんな嬉しいコトバを言ってくれた、一緒にお店をやってきました。
しっかり者で、オシャレで、気が利いて、かわいくて、性格が良くてみんなから好かれて、空気が読めて、さらにベースもうまい。

竹を割ったような性格でサバサバして、小さいことでネチネチ考え込んでしまっている時に相談すると、即答で答えてくれる。
気が利いて鋭いので、落ち込むことがあるとご飯でも行きましょうかとご飯に誘ってくれる。
ニヤニヤしてると何か良いことあったでしょと詰めてくる。

『こんなところに誰が服買いにくるねん!!』という場所で2年という期間お店が潰れなかったのはこの坂野さんのおかげだ。
どこに出しても恥ずかしくない何拍子も揃ったナイスガイ(女性版)。
それが坂野さんだ。

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そんな坂野さんが・・・辞めてしまうと言っている

衝撃的な一言を受けて動揺しながらも、自分の中でスイッチが入った音がした。

『 そうだ 恩返ししよう。 』

鶴の恩返しばりの後世に残るくらいの大きいやつがしたい。
幸い坂野さんの退職日までは3ヶ月ある。
自分史上最大の恩返しプロジェクトにすべく、その日の夜には動き出した。

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相談相手は私と坂野さんの元部下のTさん。
前職でも坂野さんと共に働いてきた彼女に電話をかけた。

青 『 もしもし 久しぶりやなー 元気?? 』

元 『 仕事忙しいですけど元気ですよ。 どうしました?? 』

青 『 坂野さんやめるねん!! 』

元 『 え。。。 』

絶句だった。

青 『 黙らんといて! いやいや、ここからが本題やから 』
  『 餞別であげたいものがあるねん! 』

元 『 何をあげるんですか?? 』

青 『 マルジェラのタビブーツです!! 』

玉 『 おーーーーーーー!! 女子の憧れのやつだ!! 』

ざっくり補足しておくと、
このマルジェラのタビブーツとは、メゾンマルジェラというフランスの高級ブランドから発売されているブーツです。
日本の足袋からインスパイアーを受けていて、つま先が2つに分かれています。

モードでもカジュアルでも合わせられてしまう魔法のようなお洒落ブーツは女子の憧れなのです。
(ちなみに14万くらいします。)

ここ2〜3年の間、坂野さんはこのブーツがほしいほしいと呪文のように唱えておりました。

その夢叶えてやろうやないかい!

お金を払って買うのは簡単だが(嘘です。)普通に渡しても面白くない。
これでは鶴の恩返しのレベルにはならない。
お金はないが秘策がありました。

Tシャツを作る

会話に戻ります。

青 『 坂野Tシャツを作る。』

元 『 坂野Tシャツ? 』

青 『 坂野さんのイラストかなんかのTシャツを販売して売るねん。 』

元 『 売っちゃうんですね!! 』

青 『 売ってその売上でマルジェラのブーツを買っちゃおう 』

元 『 おおおおーーーーー 』

最後の出勤日はたまたま祝日だった。
仲の良いお客様が坂野Tシャツを着て次々と現れたら、どんなにびっくりするだろう。
想像しただけでワクワクが止まらなかった。

元 『 やばい! 坂野さんがやめるのは悲しいですけど、
    楽しみになってきた!! 』

こうなってくると次はTシャツのデザインを考えないといけない。

青 『 今回誰にお願いしようかな 』

元 『 イラストで決まりなんですか?? 』

青 『 決まってないけど、なんかある?? 』

うちのお店は、様々なアーティストとコラボしてオリジナルの商品も作っている。
アーティストさんの力があり、お店の知名度が上がっていった。
今回も誰かにTシャツのデザインをお願いしようと考えていた。
お客様に買ってもらうからにはデザインにはこだわりたい。

元 『 写真はダメですか?? 』
  『 好きな写真があるんです。 
    坂野さんが原チャリ乗ってる写真なんですけど 』

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青 『 あーヤバい! それ俺が撮った写真だ!
    あれをTシャツにしよう!!! 』
  『 あの写真だったらおれ着たい!! 』

ちなみにこちらのデザインですが、原チャリとTシャツをかけて、(原)チャリティーという意味もあります。
みんなで大好きな坂野さんに欲しいブーツを買ってあげましょう!と声をかけさせてもらうのにもピッタリだ。

デザインはすぐに決まった。

準備の日々

今回、1番苦労したのが準備だ。

何しろ毎日8時間、坂野さんが横にいるのだ。
少しでも不審な動きをすれば、相手は探偵だ。すぐに詰めてくる。
当日までにバレてしまってはせっかく思いついたのに面白くない。

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坂野さんはカリスマ性はあるのだが、注目されるのが得意ではない。
バンドではベースを選ぶし、ゴレンジャイだったら青を選ぶタイプだ。
そんな青レンジャイタイプの坂野さんに坂野Tシャツを作っていることがバレれば間違いなくキレてくるだろう。
私の写真を使ってコソコソ何やってるんですか?と言われれば言い返す言葉もない。

その条件の中で最低でも50枚は坂野Tシャツを売らなければタビブーツは買えない。
SNSを使うと人は集めやすいが即バレるので使用できない。

結果、一人一人電話するという1番古典的な方法をとることにした。
LINEで文章に残るとボロが出そうだったから、LINEも電話だけを使った。

この仕事(電話)ができるのは坂野さんが帰ってからか、休みの日になる。
この時期はお店が終わってから、本当の仕事が待っているような感覚だった。

9年も一緒にいると共通の友達や仲良しのお客さんがたくさんできる。
この人はこの話をしたら賛同してくれるかな?
誘わないと逆に失礼かな?
毎日考えては全国、色々な方に電話をした。

『 もしもし青野ですけど〜 』から始まり、賛同してくれた方には
『 あなたもドッキリの共犯者なんだから絶対言ったらダメですよ 』
で話を締める
いきなり電話しといて強引に仲間にし、商品を売りつけるという犯罪スレスレな訪問販売の日々が続いた。

さらに準備の日々

Tシャツの数が決まると、今度は坂野さんがいないところでTシャツのメーカーさんと打ち合わせをしてプリント位置などを決めた。
メールや請求書、商品がお店に来るとバレてしまうので、全て個人のメールでやり取りし、商品も自宅に届くようにした。

そしてその中でも一番大変だったのは発送作業だった。
当日、お客様に着て来て欲しいので全員に手紙を書いて送った。
作業は毎日深夜まで続いた。
まるで転売ヤーになった気分だった。

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卒業の日

そしてその日はやってきました。
坂野さん卒業の日。

坂野さんには一切気取られず、この日を迎えることができました。
その様子は写真でご覧いただければと思います。

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本当に夢のような一日だった。
入口の飾り付けは近所のお客様が前日に手伝ってくれました。

オープンよりだいぶ早くお店に入り坂野さんを今か今かと待ち構えた。
この日のためにカメラマンの友達にも来てもらいました。
もちろんみんな坂野Tシャツです。
びっくりした顔は忘れられません。

お客様が来るたびに『そのTシャツなんなんですかー??』
『どこで手に入れたん?』『私も欲しいねんけど』
坂野さんの問いには誰も答えは言いません。
何故ならばこの後に坂野さん以外、サプライズがあることを知っているから。

結果発表〜〜

そしていよいよ。
3ヶ月かけた最大のサプライズを仕掛ける時間がやってきました。

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Tシャツはなんと予想を上回り、約70枚も売れました。
予期せぬコロナの襲来があり、緊急事態宣言前とはいえ、遠方の人は家に待機してもらうことにしたり、当日、来られた方も密にならないように来る時間を調整してもらいました。
東京や、九州、海外にいて元々来れないお客様もいたので事前に写真をいただいておいて映像を作って閉店後に流すことにしました。
そこで初めてネタバラシ。
その様子はインスタライブで生配信もしました。

映像の最後にはみんなからやでのコトバが
そしてブーツを渡しました。

『 靴をもらったことは嬉しいけど、それ以上に気持ちが嬉しい 』

坂野さんが愛される理由がこの言葉に凝縮されていると思います。

最初に坂野さんから辞めますと言われた時は実は嬉しかったのです。
ずっとやりたいことがないと言っていた中、興味があることを見つけました。
9年間も一緒だったのでそろそろ解放してあげないとなという気持ちがどこかにあったのです。

お客様を巻き込んでやりたかった理由としては、これだけの人がみんな坂野さんにありがとうやというてるでということの可視化ができると思ったからです。

今回、やってみて思ったことは鶴の恩返しを受けたのは自分で、自分のお店にはこんなにたくさんの素敵なお客様、そしてスタッフがいるという再認識できたことは何者にも代えがたい経験になりました。

お店をして良かった!

今はコロナで大変だけど、落ち着いたらまたこの素敵な人たちと集まって楽しいことがしたいと思います。

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