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総合型地域スポーツクラブにおいてダイバーシティ・マネジメントは必要だろうか?

早稲田大学大学院 スポーツ組織論研究室 博士後期課程 賽夫(サイフ)  

 総合型地域スポーツクラブ(以下総合型クラブと略す)は、コミュニティスポーツの担い手として、地域住民の様々ニーズを合わせて、スポーツするサービスを提供する組織である。地域住民は多様なニーズがあるため、総合型クラブがどのようにすれば住民たちのニーズに合ってサービスを提供するのかは課題となっている。そのため、本エッセイは、ダイバーシティ・マネジメントの考え方から、総合型クラブの課題について話していきたいと思う。

目次

1         総合型クラブの紹介

1.1        総合型クラブの定義、役割、理想像

1.2        総合型クラブの現状

1.3        総合型クラブの課題

2         ダイバーシティ・マネジメント

2.1        ダイバーシティの定義

2.2        ダイバーシティ・マネジメントの概念

2.3        ダイバーシティ・マネジメントの意義

3         総合型クラブにダイバーシティ・マネジメントの運用の可能性

3.1        クラブ運営組織から地域住民・会員へ

3.2        地域住民・会員からクラブ運営組織へ

3.3        総合型クラブとダイバーシティの相性

4         まとめ

本論

1         総合型地域スポーツクラブ(以下、総合型クラブ)の紹介

1.1        総合型クラブの定義、役割、理想像

 平成7年から総合型地域スポーツクラブ育成が開始され、約30年間にわたってきた。今でも認知度が低いため、知らない人は少ない。総合型クラブはどんな組織なのかというと、地域の実情に応じて、地域住民が自主的に運営することにより、性別、年齢、障害の有無にかかわらず活動に参画・参加できるスポーツクラブである。つまり、それは多世代、多種目、多志向を特徴として強調されているスポーツクラブなのである。

 総合型クラブの概念を理解した上で、地域の担い手としての総合型クラブは、地域において、学校施設や公共施設などを拠点とし、地域住民に良い活動環境を創るために、地域に根差す役割を果たす必要があると考えられる。総合型クラブが地域のスポーツ活動形態と住民の生活様式を変化させる期待は大きい。また、総合型クラブを通して、スポーツや文化活動の受け皿としての役割を果たし、それぞれの年齢層の欲求を充たすことにもつながり、さらには地域のアイデンティティや帰属意識が呼び起こされ、地域活性化にも寄与できるのである。

 特に、地域住民の健康増進やヘルスプロモーションも推進でき、地域住民のニーズが保証されるうえ、住民が地域コミュニティに参与する機会を提供し、コミュニケーションの「場」を与えることも可能である。また、誰でも企画・参与できるスポーツクラブにより、公益性を担うNPOの総合型クラブの役割を期待している。

1.2        総合型クラブの現状

 このような総合型クラブは平成8年から、今まで日本全国で3,600の総合型クラブが育成されてきた。その一方、統廃合も続いている。ライフサイクルから見ると(「総合型地域スポーツクラブ育成状況推移(H14~R3)」)、平成14年から平成17年まで、総合型クラブの創設数は541ヶ所から2,155ヶ所まで急激に上がった。その後、平成17年から平成25年までは、創設数の増加が緩やかになったが、クラブ数は増加傾向にある。平成25年から令和3年まで、総合型クラブ数は増えることなく、横ばい状態になっており、令和元年から微々な減少傾向が見える。

1.3        総合型クラブの課題

 このような現状になる原因について、「総合型地域スポーツクラブに関する実態調査 概要」の調査結果から、「人材の確保等」「活動拠点の確保等」「事業の多様性」「財政的自立」「連携体制の整備」「情報収集等」などの課題はあげられた。これらの課題の中、「事業の多様性」の中に、「会員世代の拡大」「活動種目の拡大」「多志向事業の拡大」「会員間の交流促進」という4つの取り組みが掲げられている。つまり、総合型クラブの命としての会員あるいは地域住民の重要性を認識しなければならない。

 多くの住民を集めるために、総合型クラブは誰でも手軽に使う空間をつくっている。子どもをはじめ、高齢者、障碍者などへの取り組みが実施されている。しかし、少子高齢化に伴い、地域の人口構造も変化しており、高齢者のほかに、外国人住民に目を向ける必要がある。2020年のデータによると、日本人と外国人の人口の推移は、2015年と比べて、日本人人口が178万3千人減少(1.4%減)する一方で、外国人人口は83万5千人の増加(43.6%増)となっている。日本総人口に占める外国人の割合は 2015年の1.5%から2020年の2.2%に上昇しており、特に、2015年から 2020年の外国人の増加率(43.6%)は高くなっている。最近は更なる外国人人口の割合が昇っている。そのため、子ども、高齢者、障がい者のほか、外国人の存在を無視することができない。つまり、誰でも残さず、考慮する必要がある。

 このような地域人口の構造変化に伴い、地域に根差した総合型クラブはどのように多様な地域住民のニーズに対応できるのかを考えなければならない。このエッセイを通して、筆者がダイバーシティ・マネジメントの視点から、これからの総合型クラブの運営方式に提言したいと思う。

2         ダイバーシティ・マネジメント

2.1        ダイバーシティの定義

 まず、ダイバーシティ(diversity)について、「相違(点)」や「多様(性)」を意味する英単語である。経営学では、組織における構成員一人ひとりが、それぞれの属性が違っていることである。一人ひとりの異なる属性はどのような違いをダイバーシティと定義するかは、谷口先生がダイバーシティを、性別、年齢、人種・民族の違いのような表層的なダイバーシティ(surface-level diversity)と、習慣、社会階級、教育、趣味、パーソナリティ、宗教、身体的能力などの深層的なダイバーシティ(deep-level diversity)に分類して定義づけた。つまり、可視的・不可視的な違いを基準として捉えられている。

2.2        ダイバーシティ・マネジメントトの概念

 また、ダイバーシティ・マネジメント(diversity management)については、船越先生が、職場や組織における人材の多様性(ダイバーシティ)のマネジメントの総称と定義した。

2.3        ダイバーシティ・マネジメントの意義

 多様な人材が生み出す経営的な価値については、ダイバーシティ研究のみならず経営学研究においても重要なテーマとなってきた。多様な人材を活かすメリットとして、以下の6つがある。

①       コスト:関連施策を実施することにより、休職や離職のコストを削減できる

②       (人的)資源獲得:多様な人材を獲得してダイバーシティを進める企業としての認知が高まることで、人的資源獲得において優位になる

③       マーケティング:多様な人材がそれぞれのカテゴリーが求める商品・サービスを理解しており、市場から好意的に受け止められる

④       創造性:多様な視点が創造性やイノベーションを高める

⑤       問題解決:多様性が質の高い問題解決につながり、多様な選択肢から戦略的に決定できる

⑥       システムの柔軟性:変化に対して柔軟な対応が可能になる

3         総合型クラブにダイバーシティ・マネジメントの運用の可能性

3.1        クラブ運営組織から住民・会員へ

 このようなメリットは社内だけでなく、総合型クラブの組織でも、参考できるのではないかと考える。多様な人材を生かして、多様な視点からイノベーションを高め、地域住民の立場から地域住民のニーズを理解し、特に、「活動種目の拡大」「多志向事業の拡大」という課題を乗り越える可能性がある。

 情報/意思決定理論(Information/Decision-making Theory)では、多様なチームはより広範なタスクに関連する知識、スキル、および能力を有しており、チームがこれらのリソースを包括的に加工統合することで、グループプロセスがより効果的になることが考えられる(Meyer &Scholl,2009;Van Knippenberg et.,2004)。また、異なる情報や専門背景を持つ従業員は意思決定プロセスで様々な異なる情報を探し、異なる選択肢を考慮する傾向にあり(Jackson,1992)、これによりグループは非常規問題を解決するための多くのリソースを持ち、より多くの革新的な行動を起こし、より高いグループパフォーマンスを得ることができる(Jehn,Northcraft &Neale,1999)。そのように、総合型クラブの運営組織において、多様な人材を保有し、多様な地域住民のニーズを考慮することができ、新規プロジェクトやイベンドを企画することで、多様な属性である住民を吸引することが可能である。

3.2        住民・会員からクラブ運営組織へ

 また、総合型クラブの組織側の取り組みに対して、逆に考えれば、住民や会員は、同じ属性がある運営組織成員がいれば、入りやすく、心強い雰囲気を感じられ、総合型クラブに加入したいことも可能である。

 社会同一性理論(Social Identity Theory,SIT)は、個体が自己と既存のグループメンバーの特性を認識することで、類似した属性を持つグループに自動的に属し、そのグループのメンバーのような行動をとる傾向があるということである。つまり、社会同一性理論から考えると、地域住民が自分自身の属性に類似するクラブに加わる傾向がある。なぜなら、そのような総合型クラブは積極的な社会的な同一性を提供し、多様な住民のプライトと感情的需要を満たすことができるので、そのコミュニティに入れるのではないかと個人的な意見となっている。

3.3        総合型クラブとダイバーシティの相性

 では、なぜダイバーシティが総合型クラブに重要なのかについて、総合型クラブとダイバーシティの相性から論じる。地域における総合型クラブの役割は「多種目」「多志向」「多世代」という特徴を持っており、誰でも参加できるスポーツクラブである。この特性から、多様な属性を持つ会員で構成されることが予想できる。そのため、総合型クラブが多様な地域住民を受け入れ、人々の多様なニーズを重視することが望まれている。このように、総合型クラブの主体である地域住民の多様性は設立した時からずっと存在しているので、総合型クラブは「総合性」かつ「多様性」を持つスポーツクラブである。

4         まとめ

 上述のように、総合型クラブは全ての地域住民を考慮していない課題があると述べた。「会員確保」「多様な事業の拡大」「多様な住民ニーズの保障」をするために、ダイバーシティ・マネジメントの運用を通じて、会員を増やす、多様な住民のニーズを満たすことが可能であると考えている。


文案責任者:賽夫
email:saifu001@ruri.waseda.jp

2024年11月29日



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