皮膚って面白い~皮膚感覚の生物学・神経科学~
環境情報学部1年 A.S
概要
私はアレルギー疾患に興味があり、それらに関連する幅広い生命科学、神経科学を学ぶために、3月上旬に行われた特別研究プロジェクト(以下、特プロ)に参加しました。そこでは、皮膚の凄さを学んだり、3Dプリンターを用いて、実際に形を作ってみたりして、神経科学の知見やOpen SCADの技術などを得ることができました。
それらについて、以下にまとめてみました。
皮膚は最強の臓器である!!
皮膚は様々な役割をしている。
・バリア機能:皮膚は外部からの紫外線、ウイルス、大気汚染物質、物理的外傷などから守る防御機能を持っている。皮膚の表面にある角質層は、水分を保持し、有害物質の侵入を防いでいる。
・熱調節:体温が上昇すると、皮膚表面の毛細血管が拡張して熱を放出し、体温が下がるように調節している。
・感覚器官:皮膚は痛み、温度、圧力、触覚などの感覚器官をもっている。
以上のように、皮膚は外界から身体を守り、機能を維持している重要な臓器であり、強靭な構造や修復能力を持つ、人体最強の臓器の一つである。
皮膚構造
皮膚は、外側から内側に向かって表皮層、真皮層、そして皮下組織層の3つの層から構成されている。表皮層は、皮膚の外側に位置し、防御機能を担っている。この層は、角質層、顆粒層、有棘層、そして基底層の4つの層から構成されています。真皮層は、表皮層の下に位置し、皮膚の弾力性や柔軟性を維持するために必要な様々な細胞や構造が存在する。
皮下組織層は、真皮層の下に位置し、体温を調節し、衝撃を吸収し、皮膚の保湿を助ける役割を担っている。
ケラチノサイトって何?
外部からの刺激や病原体から身体を守るバリア機能を持っており、その構成要素としてケラチノサイトが重要な役割を担っている。表皮の95%はケラチノサイトから構成されている。
基底層で生まれたケラチノサイトは、2週間で有棘層に、その後、顆粒層、角層まで上がり、垢となって剥がれ落ちるまで、約45日かかる(これをターンオーバーという)。最初は核を持った基底細胞だが、分裂しながら徐々に形を変え、約4週間で扁平な角層細胞になる。
タイトジャンクションって何??
タイトジャンクションは、上皮細胞などの細胞間に存在し、細胞膜の緊密な接着を担う重要な細胞接着構造の一種である。また、顆粒層のSG2細胞に存在する強固な細胞癒着構造である細胞膜を4回貫通し、膜貫通型タンパク質によって構成されている。このタイトジャンクションを構成する細胞膜タンパク質の一つに、ケラチノサイトがある。
このタイトジャンクションを形成する細胞が扁平ケルビン14面体という特殊な形をしていることが分かっている。(Yokouchi M,et al: Elife. 5:e19593, 2016.)私は今回の特プロで、扁平ケルビン14面体をOpen SCADを用いて作成し、3Dプリンターで実際に形にしてみた。
TRPチャネルって何?
TRPチャネルは、多くの細胞種で発現しており、外部からの刺激に応答してカルシウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムなどのイオンを細胞内に取り込むことで、細胞の生理的機能に影響を与える。熱、冷、酸、香辛料、光、匂い、圧力など、様々な物理的、化学的な刺激に感受性を示し、それによって細胞内シグナル伝達や細胞の生理機能を制御する役割を担っている。
例えば、TRPV4は免疫細胞の一種である肥満細胞に発現しており、活性化するとカルシウムイオンを流入させ、アレルギー疾患の症状を誘発させる。他には、私たちが唐辛子などを食べた後にお茶を飲むと、実際よりも熱く感じる働きをするTRPV1というチャネルもある。
Piezoチャネルってすごい!
Piezoチャネルは、細胞膜に存在する膜貫通タンパク質の一種であり、細胞外からの力学的刺激に応答して、カルシウムイオンの流入を介して細胞内シグナルを発生させることができる。また、細胞膜を30数回も貫通している珍しい膜貫通タンパク質である。
Piezoチャネルは、生体の機能に携わるさまざまなプロセスに関与している、例えば、痛覚や触覚、血圧や膀胱の収縮、細胞増殖や細胞接着などに関与している。また、私たちが酸素を適度に吸って生きていられるのも、肺に発現しているPiezoチャネルのおかげといっても過言ではない。
最後に
今回の特プロを通して、皮膚の面白さや様々な可能性を感じました。最近では、皮膚にもとづくバイオメトリクス技術が注目されており、個人認証や健康診断、スポーツ選手のパフォーマンス測定など、様々な分野で活用されています。皮膚は、私たちの身体を守り、様々な感覚を受け取り、健康状態や個人の特徴を表す重要な臓器であり、その面白さや重要性、幾何学的な構造は今後ますます注目されるのではないかと思いました。
さらに、皮膚は免疫としても様々な役割を持っています。私が興味を持っているアレルギー疾患も、皮膚と密接なかかわりを持っており、今回の特プロで学んだことを、今後の研究にも生かしていけるのではないかと感じています。
参考文献
・傳田光洋, 賢い皮膚ー思考する最大の<臓器>, 筑摩書房, 2009
・椛島健治, 人体最強の臓器 皮膚の不思議, 講談社, 2022
・Mariko Yokouchi, Toru Atsugi, Mark van Logtestijn, Reiko J Tanaka, Mayumi Kajimura, Makoto Suematsu, Mikio Furuse, Masayuki Amagai, Akiharu Kubo (2016) Epidermal cell turnover across tight junctions based on Kelvin's tetrakaidecahedron cell shape eLife 5:e19593
・Denda M, Nakatani M, Ikeyama K, Tsutsumi M, Denda S. Epidermal keratinocytes as the forefront of the sensory system. Exp Dermatol. 2007 Mar;16(3):157-61. doi: 10.1111/j.1600-0625.2006.00529.x. PMID: 17286806.