Touch Fab:ヒビの展示デザイン
1.概要
私たちは「ヒビ」と空間スケールとは何かについて考えた。そして鎌倉画廊内部の構造、鎌倉の地理的特性を踏まえ、「ヒビ」から考えた展⽰プランを提案する。
2.ヒビってなんだろう?
ヒビには、
・故意にできるもの(銃弾によるヒビ、マグカップのヒビ)
・無意にできるもの(海溝、建築のヒビ)
・目に見えるもの(海溝、壁のヒビ)
・目に見えないもの(友情の亀裂、戦争による国の分断)
が存在すると考えられる。
どのヒビにも物理的、心理的に元々繋がっていた場所に、分け目が生じている。そのため、ヒビは一種の”繋がり”とも捉えることができる。日常に潜んでいるヒビはどんなところにもある。“日々のヒビ”
3.ギャラリーの解析
ヒビ
鎌倉は鎌倉駅を中心とした東側と、北鎌倉駅、大船駅、七里ヶ浜などを含む西側に山で分断されている。つまり、ヒビは地理的な分断を連想させる効果も有している。地理的な分断は精神的な分断にも繋がり、それぞれの地区や住民が多種多様な要素を持ち合わせている。
鎌倉画廊の床には多数のヒビが存在する。これは、鎌倉の地理的なヒビに重なる。
逆ピラミッド構造
鎌倉画廊は、1階から3階に登っていくに従って使用できる空間が広がっていく、逆ピラミッド的な建築物である。
1階:エントラスで展示空間はほぼない
2階:螺旋階段から時計回りに歩いていく、太い廊下のよう
3階:開けた空間
それぞれの階の特徴を踏まえると、展示空間が点・線・面として捉えられる。鎌倉画廊内における空間スケールは、この点・線・面に依存する。
4.ヒビを活かした展示案
鎌倉における地理的、時間的なヒビに着目し、鎌倉画廊での展示を提案する。
1F 一点ものの金継ぎ(点)
ヒビは割れ目でありながら”繋がり”も連想できる。この発想から金継ぎを展示案に取り入れる。金継ぎとは、陶磁器の割れや欠け、ヒビなどを漆で接着し、金で装飾する、日本の伝統的な修復技法である。
金継ぎで修復した一点物の作品を展示し、一点物として“点”を表す。本展示における点は、古都鎌倉の原点と言える、旧石器時代の石器とし、金継ぎを施す。
2F 日常に潜む境界線(線)
鎌倉画廊の床を地図とし、ヒビを境界線と見立てる。例えば、ヒビで鎌倉の地区(鎌倉、大船、深澤、腰越)を表す。
そして壁面には、グラデーションの性質を持った作品の展示をする。ヒビに合わせて壁面に、鎌倉の写真をフィルムのように直線上に並べる。”線”廊下のように展示空間に沿ってある写真から、鑑賞者はそれぞれの地区の繋がりを感じることができる。
床のヒビと壁面の対比が生まれるこの表現によって、人為的なヒビを具現化する。
3F モザイクアート(面)
鎌倉には歴史の面影が色濃く残された場所がたくさん存在する。過去と現在の鎌倉の写真をモザイクアートに加工し、新たな鎌倉の景色を造る。
過去・現在・未来という時間的なヒビは存在するが、歴史は繋がっている。そして過去が積み重なって現在があり、未来へと続く。
5.振り返り
展示をしてみての気づき
1. 逆ピラミッド構造
ポスターで述べた逆ピラミッド構造について下の階から上の階へ広がっていくという展示方法・導線だけではなく、上の階から下の階へ収束していく展示方法・導線もあるのではないかという指摘をうけた。その展示方法・導線も含めれば、原点から広がっていく表現だけではなく、多くのものが一点にまとまっていく表現もできるため、展示方法・導線の幅が広がる。
2. ヒビに着目する意義
昔は家が別々でも同じコミュニティにいるということでお互いに交流があり、ヒビがあまり顕著ではなかった。しかし、いまではマンションの隣の部屋に誰が住んでいるのかもわからないことがある。このように、集団主義的だった過去に対して、個人主義的な価値観が広まった現代社会では、家や部屋同士の間の壁といった細かなヒビまでもが顕著に分断を表している。
3. 金継ぎ
ヒビは割れ目でありながらも元は繋がっていたため、”繋がり”を連想できるという観点から私たちは割れた部分を繋ぐ「金継ぎ」の作品を例として置いた。現代社会におけるヒビ(さまざまな分断)もまた、金継ぎのように繋がりを戻し、新たな社会へと変化していくことも可能なはずである。また、ヒビだけに注目するとネガティブに見えるものも、スケールを広げると、金継ぎの茶碗のように美しく輝き、意味を持つというケースも存在すると考えられる。
やってみたいこと
1. 「ヒビ」に関するインタラクション
お客さんの中で、「愛着のあるヒビとは何か」というテーマで話し合う機会があった。ヒビは一度できたら、跡として残るものであり、それを傷や別れといったネガティブなイメージで捉える事が多いが、中には時間の経過とともに思い入れのあるものと化し、個人的な愛着が生まれてくるものもある。お客さんが思う”愛着のあるヒビ”、”日々のヒビ”について意見を挙げてもらう展示をすると、他の人が持つヒビの概念、そしてヒビから生まれる愛着に対する理解が深まると感じる。具体例として、ヒビの分類のグラフに、お客さんの考えるヒビをポストイットに書き、位置を決めて貼ってもらう、などのお客さんと共に創り上げていく展示方法を提案したい。
2. ヒビの分類のグラフを改造
今回、ポスターに載せたヒビの分類のグラフは、それぞれの要素が4つの区分のいずれかにしか属することができない表示方法にされていた。しかし、全ての要素が4つの区分のひとつだけに収まりきるわけではない。例えば、金継ぎは皿やお椀が割れたのは意図的にやったことではない(無為的)が、金継ぎを施すという作業は意図的に(故意的)実行したことであり、無為的と故意的の両方に位置するのである。そのため、どこかひとつの区分に点のように収まるのではなく、複数の区分に入ることがある場合は面積をもった円形として複数の区分にまたがるように表現すべきである。
6.さいごに
今回、私たちは「ヒビ」に着目して、展示デザインを考えた。その中で、ヒビの持つ多様性や可能性、ヒビから生まれる「繋がり」、そして面白さに気づくことができた。
皆さんも、日常に潜むヒビを探してみると、新たな気づきが生まれ、面白いのではないでしょうか!
お読みいただきありがとうございました!