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私の本棚_001『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』(ダイヤモンド社)

 こんにちは、農学徒のChisatoです。
 数ヶ月前に大学から離れたところに引っ越しをしまして、長くなった通学時間を利用して読書をするようになりました。ただ読むだけでは十分に身につかないので、ブックレビューを書いてみようと思います。
 ただし、あらすじの紹介等は特にしません。気になったらぜひ読んでみてください。大きめの本屋さんや通販で手に入ります。


本書との出会い

 実は私は農学徒として修行する傍ら、ある会社で役員をしています。その会社でのパートナーと話していると、ある日突然に彼の思考のフレームワークが変化したことに気づきました。原因を探るため、彼の言動を思い起こしてみると、ある会社の社長に勧められて彼が読んでいた『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』についてしばしば言及していたのです。
「そんなにインパクトが大きいのか…」と探して購入したのが出会いです。

考察

 私は特に製造業に消費者以外の立場で関わったことはありませんが、「内容が素直に理解しやすかった、どんどん引き込まれた。」という印象でした。扱っている題材はビジネス、特に製造業に関することなのですが、小説仕立てになっているため、シンプルに読み物としても非常にリアルで読みやすい本です。

 さて、この本を読んでみて、私に生じた変化を振り返ってみます。私が重要だと感じたポイントは、以下の2点です。

全体最適化と部分最適化

 あらゆるプロセスは小さな単位の集合で構成されています。例えば大学であれば、東京大学があり、その中に農学部や医学部、経済学部なんかがあります。さらに農学部の中には応用生命科学課程、環境資源科学課程、獣医学課程があります。各課程には複数の専修があり、その専修には学生が所属しています。この例における「単位」は、何でしょうか?
この本を読む前の私であれば、迷いなく「学生」と答えたことでしょう。 

 それは間違いではありませんが、正解でもない、という考えるに至ったのが、本書を読んだ私なりの学びです。
 全体最適化とは、あるプロセスについて改善する際に、関係するあらゆるプロセスを体系的な一つのプロセスであると捉え、全体としてのスループット(≒ 単位〇〇あたりの成果)を最大化するという考え方です。
 部分最適化とは、前述の「単位(あるいは最小単位)」ごとのスループットを最大化しようという考え方です。いずれも生産性を向上させようという素晴らしい取り組みですが、後者は本質的には失敗に終わることも多々あります。

ある農家「ちさと農園」のケース
 ちさと農園では、販売単価の高いサトイモを植えることにしました。「最適化」を目指した農園主チサトは、超高速植え付け機を導入し、持てる土地いっぱいにサトイモを植えました。昨年までは種芋を植えるのに時間がかかり、一部の土地には手がかからないが単価も低い作物を植えていました。さて、手塩にかけてサトイモを育て、晩秋の収穫期を迎えました。ところが収穫に取り掛かったチサトは、11月の終わりを迎え、絶望します。収穫には植え付け以上に時間がかかってしまい、多くの未収穫のサトイモが霜のダメージを受けて出荷できないものになってしまったのです。植えた土地の3割が、売れないサトイモを作るために1シーズンの間占有されてしまったのです。

 では、チサトはどうするべきだったのでしょうか?超高速収穫機を導入しますか?それでも確かに良いのかもしれませんが、ちさと農園にはそこまでの経済的余裕はありません。収穫のためにアルバイトを雇えばよかったのでしょうか?それもお金がかかりますし、教育コストもかかりますね。

 この例では、チサトはサトイモを「収穫可能な量」に合わせて植え付けて、収穫期の重ならない作物を他の土地に植えていれば、作業負荷が限界を超えることなく、より多くの売上(=スループット)を得ることができたのではないでしょうか?

 サトイモの植え付けを高速化させたのが「部分最適化」で、サトイモを植える量を制限して、農場としての売上を最大化させたのが「全体最適化」です。私が本書を読む前に「学生」だけを単位として考えていたのに対し、今は「学生」も「専修」も「大学」も一つの単位とみなすようになりました。これはつまり、「目的や切り口に応じて単位の階層は変わりうる」ということです。何かを変えたい、改善したいと思った時は、直接的な問題が生じている単位だけではなく、その上位、下位の単位にも着目して「最適化」を目指そうと思います。

ボトルネック

 ボトルネックとは、あるプロセスの複数の子プロセスのうちの律速となるものです。親プロセスが生むことのできるスループットは、特にトラブルがない限り、ボトルネックとなるプロセスの能力で決まります。
「ちさと農園」の例では、ボトルネックはサトイモの収穫作業です。農園の(サトイモからの)売上はサトイモの収穫作業の最大キャパシティで決まります。(植えた量とは限らないのです。もちろん、最大キャパシティ以下で植えたらそこがボトルネックとなりますが。)

 全体としてのスループットを向上させるためには、ボトルネックを特定し、そのキャパシティをフル活用することから始めるのが良いでしょう。
 ちさと農園なら、サトイモがよく育つ環境と密度を保ってあげた上で、商品にならないと判断できるものはそもそも収穫しない、収穫したものから廃棄になるものが出ないように丁寧に処理する、など前後の工程と合わせてできることはたくさんあるはずです。

書籍の情報

エリヤフ・ゴールドラット 著
三本木亮 訳
稲垣公夫 解説

ダイヤモンド社
定価:1760円(税込)
発行年月:2001年5月


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