カントリーマアムの欺瞞を暴く
みんな、少しでいいから話を聞いてくれ。
とんでもない事を知ってしまった。
カントリーマアムというお菓子がある。ご存じの方も多いと思う。アメリカン・ホームメイドを前面に押し出し、外はサックリ、中はシットリという、従来の硬いクッキーの常識を覆した手作り感あふれるクッキーだ。
誕生は1984年。東京ディズニーランド開園の翌年である。御年37歳。もう立派な中年だ。そんなベテラン、いや不二家エース級の風格すらある小分けの包装をピリっと破って丸いクッキーを口に放り込むと、そこには古き良きアメリカの風景が……。
草原、赤い三角屋根の家、爽やかに吹き抜ける風、昼下がりあぜ道を歩いて家に帰る道すがら、干し草を摘んだシボレーの青いピックアップトラックとすれ違う。ひとつ緩やかな丘を駆け上がり、十字路を左に折れたら、そこが僕の家だ。家につくとオーブンで焼いたママのクッキーの匂いがする。
…とまあ、目を閉じればこういった風景が広がる筈なんだ。なんといったって、アメリカン・ホームメイドだからね!
ところがだ。感じない。感じないんだよ。アメリカンを。
まあ、なんとなくはアメリカ風だよ。それは認める。だがな、違うんだ。違和感があるんだ。これじゃない感が。
実は昔から感じていたんだけれども、ずっと上手く説明できなかった。騙しだまし「さすがアメリカンだよね、カントリーマアムは、フフッ」って
わかった風なフリをして嘘をつき続けていた。いま三島由紀夫の「仮面の告白」より重い告白をしていますよ、俺は。
カントリーマアムの風景に、アメリカではない何かがいる。それはもう日を追う毎に確信へと変わっていった。しかし、それが何なのかは今日の今日までわからなかった。所詮、日本のメーカーが作ったお菓子だからな。
いや、だが、あの日本が誇る一流菓子メーカー不二家がアメリカを完全再現できないとでも…?いいかい、ここからが核心だ。
どうか落ち着いて原材料を見て欲しい。小麦粉、砂糖、植物油脂、チョコレートチップ……ここまではわかる。クッキーに必要不可欠な材料だ。問題はその先だ。犯人はこんな所に潜んでいた。
「白ねりあん」
いたよ、コイツだ!アメリカの風景に居るはずのない奴が。不二家め、しっとり感を出すために妥協しやがったんだ!よりによって白いんげん豆とはな。
いや、アメリカにそんなものはない、とまでは言わないよ。だがな、いくら何でもカントリーなホームメイドクッキーには入らない筈だ。タータンチェックのエプロンをかけ、バカでかいオーブンで鼻歌を唄いながらママが焼いたクッキーに白ねりあん、入ってますか?入ってない、絶対入ってないよ!向かいのホーム、路地裏の窓、こんなとこにいるはずもないのに。
いや、いてはいけないですよ、白ねりあんは。だって白いんげん豆だもの。いつでも探してしまわないです。アメリカのママは。どうりで抜けるような青空、トウモロコシ畑、どこまでも続くあぜ道の中に、松とか竹とか梅が混じってる、そんな気がしてたんだ。おかしいと思ったよ!
暴いちゃったな、また1つ社会の闇を暴いちゃったよ。
ってな事を会社の同僚に話したら
「フッ」の一言で終わりました。