崎陽軒のシウマイ弁当。その愛と闘いの記録。
訴えたいことが何もなくなってきた今日この頃です。だが、これだけは書いておかなければならないと思った。
俺は横浜生まれ横浜育ち。悪そうなやつは大体友達なので、崎陽軒のシウマイ弁当。これが地元で食べられないのが何よりも辛い。「悪そうなやつは大体友達」の下りは完全にいらないやつだったな。まあいいか。だから、ちょっとの用事で東京方面に行ったら、必ずこのシウマイ弁当を食べることにしている。これはもはや儀式だ。
シュウマイでも焼売でもない「シウマイ」
いちおうね、横浜の名物という事になってるけれども、有名なので首都圏であればどこでも買える。俺は初台に住んでいた時、月に二、三回は京王デパートかなんかでシウマイ弁当を買って、普通に夕食としていた。860円という価格面も魅力だ。しかもカロリーは732kcal。なんとヘルシーな事であろうか。最初に言っとくが、シュウマイでも焼売でもない、シ・ウ・マ・イだからな!
では、その構成から見てみよう。
まず、主役のシウマイが五個。この数が絶妙だ。考えてみて欲しい。シウマイ弁当と名乗るのであれば、主役であるのならば、七個か八個ぐらいは入れても良い。シウマイを名乗る割には少し物足りないな、と思うのが第一印象だろう。事実、地元の名産品をメインに据えるといった性格の駅弁においては、バランスを崩すことを承知で「モノ」を過剰に押し出してくる「〇〇づくし」パターンがいまやメインストリームだ。
「おやおや、これはちょっと幾ら何でもカニだらけじゃないのかね」
などと心の底で笑いながら箸を入れるのもまた、旅の思い出のスパイスとなる。むしろ、買う側がそれを求めている部分もあるだろう。そこへ来ると崎陽軒は堂々としたもんだ。老舗のプライド…PRIDE OF YOKOHAMAであり、This is my ERAであり、ここからそこAREAからAREAである。ちょっと自分でも何を言っているのかよくわかりませんけれども。
とにかく、ご当地のアピール商品としてではなく、あくまでも弁当[BENTO] としてのバランスを最重視しているのだ。シウマイは五個でいい、と。その堂々さたるや「このたわけが!浮かれおって!」と近年の「〇〇づくし」ブームを𠮟りつけているようにさえ思える。
弁当のキング・オブ・キングスといっても過言ではないバランス。だが、決して没個性的ではない。それがシウマイ弁当だ。
陣を敷け!これが拙者の戦である!
まず初めに言っておく。何も考えずに食べ進めても良い。むしろそうするべきだろう。旅の弁当はただ楽しめ!東京駅か品川駅から新幹線に乗ったら、新横浜までは我慢して、熱海あたりでお弁当を広げるべきだ!とは思うがそれすらも自由だ。
さあ、それでは、まずはその布陣を見てみよう。布陣とか言っちゃってね。戦かよ!いや、戦なんだよ弁当は!ツワモノ共よ!陣を敷け!
基本はコメとオカズ、これらをバランス良く食べ、最後にどちらかが残りすぎる事のないように食べ進める。そう、俺はバランス派の人間なのだ。攻守一体、オールマイティな布陣。準備はよろしいか?OK。戦術を披露しよう。
最初の一口目はシウマイだ。何でも一口目が一番うまい。だから俺は迷わずここでシウマイを口に放り込む。カラシも醤油もつけない素のままでだ。ラーメンに胡椒をいきなり振りかけないタイプの人間なんだよな。敬意を表してそのまま頂くというのが礼儀であろう。はい美味い!冷めてもイケるというのが売りではあるが、ホタテの風味が口いっぱいに広がって、これぞ崎陽軒という味だ!そして次に、俵になったご飯を一つ。実は米に直接、醤油を二・三適垂らすのもアリだ。これがかなり美味い。経木の匂いがまたいいんだな。
さあ、このムーヴまでが一番槍だ。先手は頂いた。だが、まだ気は抜けない。
第二の陣は、筍煮を頂く。これは絶妙に甘辛く煮付けられた味の濃い一品。うまい。しみじみうまい。歯ごたえもよく、肉でも魚でもないのに主役級の存在感。この弁当の大事なアクセントになっている。これを少し食べてからまた俵ご飯を一つ。ついでに切り昆布もちょいとつまんでおく。うっかりしているとご飯が進み過ぎてしまうので要注意だ。残る俵ご飯は六つ。
第三の陣。まだまだ序盤だぜ?次は鮪のつけ焼きだ。これがまた主役でいいぐらい美味い。しっかりと身が締まり、余計な脂を落とした慎み深い逸品だ。やはり味が濃いので、ご飯が進んでしまうが俵一つで抑えておこう。鮪は半分にしておいて後で楽しむのもアリだ。ここで厚焼き玉子と蒲鉾もいっておきたいところだが、色合いが寂しくなるのでもう少しガマンする。
第四の陣。中盤に差し掛かったな。ここで二つ目のシウマイを投入。カラシもしっかりつけてな。醤油は一適ぐらいでいいが、これは好みだな。容器が陶器じゃなくなったのは寂しいが、価格を考えれば致し方なしだ。そして俵ご飯を一つ。これでシウマイ三個、俵ご飯四つ。いいバランスじゃないか。
第五の陣。この辺が勝負の分かれ目となる。ここで鶏唐揚げが登場する。これも米で行きたいところだが、グッと堪えて辛抱して欲しい。この唐揚げがまた素晴らしい。自らが脇役であるということをしっかり理解している。つまり普通の唐揚げなんだ。この地味さ。全体のバランスを考えて「いえいえ、それがしのような者は…」と一歩下がって仕える、家臣の鑑のような存在だ。しかし彼もまた、居なくてはならない存在だろう。そんな唐揚げをありがたく胃袋にInしたその後は千切り生姜を食べるのだ。やっと出番だな。脂っこくなった口の中をリセットしよう。小梅もあるから、そろそろ食べてもいい。米と一緒じゃなきゃって人は置いといても戦況に大きく影響はしない。
第六の陣。そろそろ勝ちが見えてきただろう?鮪のつけ焼きが残っていれば、ここで始末…頂こう。更に、厚焼き玉子と蒲鉾もようやく出陣だ。これらにも少しだけ醤油を垂らしてやるといい。厚焼き玉子は甘みがあるので、鮪の後に食べると味のコントラストが出てとても良い。蒲鉾はどこまでいっても蒲鉾だ。期待値以上でも以下でもない存在感だが、彼は彩りとして大いに貢献してくれた。こちらは最後まで温存しておくという選択肢も大アリだ。そして俵ご飯を行こうじゃないか。残るはシウマイ二個、俵ご飯三つ。
第七の陣。そろそろ勝利の宴の準備だ!いや、これが宴か。シウマイをいっておこう。筍煮がまだ残っているはずだから、それらを食べつつ、俵ご飯も攻略する。残るはシウマイ一個、俵ご飯二つ。
第八の陣。これより掃討戦に入る!残ったオカズを全投入して、俵ご飯一つをやっつける。切り昆布や筍煮、それらを駆使するのだ。この段階になると人それぞれの状況があるので各自判断して欲しい。戦況というのは生き物だ。臨機応変に対応して勝利をおさめるというのも覇道には必要な要素なのだよ、諸君。残るはシウマイ一個、俵ご飯一つ。
第九の陣。もうわかるな?最期はシウマイ&米の絶妙なコンビネーションでシメだ。これで見事に完全勝利となった訳だ!皆のもの、勝利の凱歌を揚げよ!バランス陣形向かうところ敵なしだな!誠に天晴である!
あ、あれ?何か残っているぞ……?
最終章。「杏にどう立ち向かうか」
い…いや… 体験したというよりは まったく理解を 超えていたのだが……
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「シウマイ弁当を食べきったと思ったら杏の甘煮が残っていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
おれも 何をされたのか わからなかった…
頭がどうにかなりそうだった… ど忘れだとか見間違いとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…
そうなんだよ。杏の甘煮。こいつが残っていた。シウマイ弁当の愛好者を悩ますニクい奴。もちろん敵じゃあない。こいつをおいしく頂いてこそ、覇者となれるのだ。俺の回答は「杏の甘煮は最後に食べる」であった。王道にして最適解であろう。
ここで、杏の甘煮に対する考察を行いたい。長くなるが読んで欲しい。なぜ、シウマイ弁当にコイツが入っているのか。いやいやコイツなどと言ってはいけないな。杏の甘煮様だ。俺が思うに、これは皆と同じくデザートだと推察している。ただ、デザートとしては甘くて重すぎる。そこが問題なのだ。
いいかい?昭和生まれの人は思い出して欲しい。昔、弁当を買ったらプラスチックの四角い容器に入った温かいお茶をセットで買わなかったかい?あの駅弁売り場にしかないやつだな。今は殆どキオスクになってしまったから見かけないかもしれない。しかし、鍵はそこにあったと思うんだよ。杏の甘煮はこの温かいお茶とベストコンビだったんじゃあないかと。今は廃れてしまったけれども、その名残なんだと思う。
※上の写真はどっかのサイトからいただいてきたやつだ。
だから、俺は杏の甘煮はお茶で流し込む。つまりシウマイ弁当には緑茶が必要なんだ。できれば温かいほうがいいけれども、冷たいのでも構わない。因みにこの前提があれば、杏の甘煮を最初に食べてしまって「なかった事にする」という戦術も大アリだ。途中で食べる布陣も思いついたが、これはかなり上級者向けなので基本を抑えてからチャレンジしよう。いずれにせよ杏の甘煮とお茶はセットなんだ。甘くなった口をリセットするのは緑茶しかありえない。ビール?それは好きにすればいい。実はサッサと米を片付けて残ったオカズで酒を楽しむという呑兵衛な攻略法もあるらしいが、アルコールに弱い俺は試したことがない。
最後に、陣を敷くという展開は「食の軍師」という漫画から頂戴した。シウマイ弁当をめぐる苛烈な戦いが描写されているので、よかったらそちらも参考にされたい。1巻の最終話だったと思う。
以上である!各方の完全なる勝利を祈る!
#駅弁